弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 リロード

あれから月日は流れて私は高校生になった。高校は静岡を離れて千葉総北に入学して自転車競技部に入部、そして現在は3年で主将になった。どうやら総北史上初の自転車競技部女主将ということらしく、地元では少し有名になっている。
そして一番驚いたのが、監督があの今泉くんだ。今は今泉監督と呼んでいるわけだけど。それに後輩にはお父さんの後輩の息子さんや先輩の息子もいる。
古賀はお父さんの後輩の息子で、私の後輩。寒咲はお父さんの先輩で私の同級生。

そして今日、総北がIHで初めて優勝したあの箱根でIHが開催される。
それはある意味因縁の対決が待っている。
あの時から箱学と総北は長年ライバルの関係を持っている。それは今も同じ。それにまた今回というか、私が入学した時から周りが騒いでいる理由がひとつ。
私と同じ学年の福富。彼は福富寿一の兄の息子であり、現在の主将。そう、私と同い年なのだ。伝説になりつつある箱根IHの私の父と箱学の福富くんと京伏のエースの1日目のおかげで周りが勝手に私たち二人をライバルにしていた。
でもそれは実際ライバルになったわけなんですが。1年の頃からIHで戦っている。だから今年も戦う。あの時の福富くんとお父さんと同じように、もしかしたら真波くんと小野田君の様に空っぽになるまで、足がちぎれるまで。


「…以上、総北自転車競技部主将金城奏」

保護者や今までサポートしてくれている人たちに向かって今回の抱負とお礼、そして部員の激励をして頭を下げる。これはステージ上の話ではないからそれほど緊張はしないけど、やっぱり緊張はする。応援に来てくれている先輩もいるし、何よりお父さんもおじいちゃんおばあちゃんもいる。ついでに何故か荒北くんまでいる。貴方箱学出身者でしょうが。
挨拶が終わって一時解散。時間には戻れよと監督言われている。

「お父さん、荒北さん!」
「よう奏ちゃん、主将なんだって?」
「はい、総北の主将でエースです!」
「親子でエースとは鼻が高いな。よし写真撮るぞ、荒北頼んだ」
「へーへー」
「荒北さんも後で一緒に撮りましょうよ。その時はお父さんお願いね」

今でも荒北くんとお父さんの交流は続いている。というか、いまだに箱学3年と交流があるって凄い。携帯を持たせてもらうようになり、荒北くんとも連絡を取っている中で今日は福富くんも新開くんも東堂くんも地元開催ということで来ていると聞いている。たぶん箱学のところにいるんだと思う。福富くんは甥っ子が主将だしね。あとで会えたらいいな。そんなことをしていると監督がやってきてお父さんに挨拶をしている、そこに寒咲のお父さんと古賀のお父さん。総北OBがやってくると荒北くんは「オレ福ちゃんとこ行こうと思うけど奏ちゃんどうする?」と聞かれた。

「監督、私も箱学のところ行ってもいいですか?」
「時間までに戻れよ」
「はい」

荒北くんの後ろについて箱学のところに向かう。
去年は私と福富で競り合って、私が負けた。結果私たち総北は2位だった。応援に来てくれた人は皆私を褒めてくれたけど、私が欲しかったのは優勝で、皆であのステージに立つこと。まさか私がその立場になるとは思っていなかったら今でもたまに驚くことがある。
箱学のところにいけば、強豪の地元ということもあってかなりの人がいる。私たち総北なんて小規模だったなと今更思い知った。

「福ちゃーん」
「おはようございます、福富さん新開さん東堂さん」
「おはよう奏ちゃん。総北主将がここにいていいの?」
「そうだ、敵地なんだぞ。それにしても久しいな、また綺麗になったのではないか?」

ご心配もごもっとも。でも過去の様なシガラミはないので許してほしい。総北と箱学は純粋にライバルなだけなんだから。
東堂くんのリップサービスも笑顔で受け流しつつ前世の仲間に今世の私で会話する。

「奏か、久しぶりだな元気だったか」
「はい、今日の為に体調も万全ですよ!」

あの時から福富くんは私見て朱堂奏の話はしなくなった。というか、私が説教したのでしていない。でもたまに視線でわかる、今思い出しているなって言うのが。成長して私もたまに驚くけど、ビックリするくらい前世に似ている。目はお父さん譲りだけど、その他。荒北くんにも「奏ちゃん目だけお父さん譲りだよねェ」と言われるくらいに。

「金城」
「…福富」
「宣戦布告か」
「まさか、今年で最後だから挨拶。お互い主将だし。今回のIH手を抜いたら殴ってやる」
「オレが手を抜くと思っているのか、そっちこそ手を抜いたらわかっているな」
「当たり前」

箱学主将と握手をする。彼とは本当に高校に入って何度競り合っただろう。私を女だからといって手加減は絶対にしてこないし、初めから私をライバルとして見ていてくれている。そして彼は強い。雑誌の取材でも彼が受ければ私の事を聞かれ、私が受ければ彼の事を聞かれる。それももう今年で終わりだと思うと寂しい気がする。
しばらく主将同士話していると後輩の古賀が迎えに来た。あれ、もうそんな時間だっけ?

「それじゃあレースで。荒北さん新開さん東堂さん、福富さん。私戻ります」
「おう、頑張って走れよ。まあ今年も箱学優勝だけどな」
「今年は総北が優勝します」
「箱根の山に耐えれるクライマーがいるのか?頑張れよ奏」
「うちのクライマーは優秀です」
「甥が今年も勝つ」
「残念、今年は私が勝ちます。カラーゼッケンだって全部揃えますよ!」

古賀に連れられて総北のところに戻り、監督とレギュラーメンバーで最後の調整にはいる。
正直言って私たちのチームは不利だと思う。女子が含まれる時点で他のチームに比べて力が劣る。それは女子という体のつくりの問題であり、努力では埋めることの出来ない差がどこかに生まれている。でもその中でも総北の男子よりも早くて力があるからこそ主将になってエースにもなった。だから女だからとかの理由で負けられない。負けてはいけない。負ける時は選手として負けなければいけない。

「金城、調子はどうだ」
「万全です、監督」
「オレが一年の時、お前の父親が主将でオレはエースアシストだった」
「…はい」
「そして金城主将は全員を纏めて優勝した」
「はい」
「だからお前にもできる。お前を3年間見てきたオレが言うんだ」
「はい!」
「お前ら全員が全員のジャージをゴールへ運べ!誰一人として欠けるな!!」

そして戦いが始まった。



prevnext