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 リアクション

「奏、パンどうだった」
「おいしかった!」

「ヒュウ、奏ちゃんの自転車可愛いね」
「お父さんといっしょにえらんだの」

昨日の通りに皆でサイクリングすることになって、今そのサイクリング場に来ている。とうか、話し合っていただろうと言いたくなるほどの愛車の保有率。全員持ってるじゃないの。家にあるとかじゃなく、持ち歩いているのか毎日と言いたくなる。

「巻ちゃん坂があるぞ坂!」
「あー…」

「一本勝負するか金城」
「悪いが奏が居るからな」
「奏ちゃんならオレ見てるぜ、まさか福ちゃんに負けるところを奏ちゃんに見せらんねえってワケじゃあねよな?」

うふふふ。そこで勝負が始まったのできっと巻島くんと東堂くんも勝負するぞ、これ。
となると、ここのスプリンターたちも始めそうだ。ほら、案の定「ならオレ達もしないか迅くん」「ああ、いいぜ」となっている。
まあそんなことは予想していたのでいいんじゃないかなと思う。そして案の定というか、いつもの通り荒北くんは私の子守りだ。時たま思うけど、もしかして荒北くんに結婚とかの話を聞かないのは私のせいかもと責任を感じてしまう。

「奏ちゃーん、お父さんと福ちゃん競争するってサ」
「お父さんがんばってね!フレーフレー お と う さ ん !!」
「じゃあオレ福ちゃん応援しようかな。福ちゃん頑張ってネ」
「奏に応援されたら負けられないな、一本走ってくる」
「ああ」

じゃあ奏がスタートコールをしてくれ。と任されたのでコールする。特別な機材もないので目測で順位を決めることになっている。
小さくなる姿を見送ると、次は巻島くんと東堂くんが同じ位置についている。なんだ私に同じことをしろというのか。

「奏、オレ達のも頼む」
「このオレの美しい走りは後で見せてやろうではないか、奏」
「馴れ馴れしいっショ、奏、コイツの事は無視しろ」
「巻ちゃん!?」

相変わらずな関係してるなー。と思いながら同じようにスタートコールをして二人は出走した。二人の走りは対照的で、巻島くんの走りは今も昔も不思議。

「よし、じゃあオレ達も行くか」
「奏ちゃん、オレ達もよろしくね。あと応援も」
「新開、負けたらぶっ潰す」
「田所のおじさんがんばれー!」

ちょっと靖友!?と焦っている新開くんを無視してスタートコール。ガハハハ!と笑いながら田所くんが先手を取った。

「んじゃ、皆が戻るまで待ってよっか」
「うん。あのね、この前ね、お父さんといっしょに坂にちょうせんしたんだよ」
「へえ、すごいじゃん」
「それでね、ころんじゃった」
「大丈夫だった?」
「うん。でもね、自転車がケガしちゃったの」

どうだ、子供らしいだろ。学校では勉強というよりも喋り方を教わっているといっても過言ではない。教室の女の子の喋り方にアニメの情報、はやりの洋服にアイドル。それにお父さんに負担をかけない程度に話したりしている。このくらいの年の子はどんなことに興味があるのかとか、どんなものを好いているのか。
そんな腹を知らない荒北くんは「自転車どこ怪我したの」と聞いてくる。よし、バレてない。私が「ここ」と指さすと傷があるのがわかる。大きく目立たないところにある、それは転ぶとできりる傷で、擦れている。

「あらら」
「メットもケガしたの。でもケガはクンショウだからいいんだって」
「そうだね」
「今度は私も走りたいな、皆と一緒に」
「…奏ちゃん?」
「なに?荒北のおじさん」
「……ううん、なんでもないよぉ」

おっと危ない。うっかり素が出てしまった。荒北くんが驚いた顔で私を見ていたけど、いつもの調子で話せば勘違いかと私の頭をワシワシと撫でつける。
それから自転車に乗る前の準備だと言って一緒にストレッチをする。私が飽きないようにの遊びなんだろうけど、楽しいからいいか。意外と荒北くんは子供好きなのか、何かと私を構ってくれる。

「お、奏ちゃん奏ちゃん。一便が来たよ」
「いちびん?」
「福ちゃんとお父さん」

ほら。と指さす方を見ると必死の形相でこっちへ向かう二人が見える。うわ、福富くんのその顔久しぶりに見た。
一応子供らしく「おとーさーん!」と手を振って応援する。それにならって荒北くんも「福ちゃーん」と応援している。ゴールが近くなると私は荒北くんに危ないからと抱きかかえられてゴールを見守る。

「はい福ちゃんの勝ち」
「お父さん、まけちゃった」
「福ちゃんプロだしネ」
「ぷろ?」
「そ、ロードでご飯食べてんの」
「自転車をおはしのかわりにしてるの?」
「…そういう意味じゃないよ」

知ってますよ、ええ。そっか、福富くんそっちに行ったんだ。法学部だったのに。もしかして資格だけ取ってそっちしてるのかな。終わって二人で何か話してから戻ってくる。高校の時のあれももう終わったことなんだろうな。
荒北くんに抱っこされたまま手を振ると、また自転車に跨ってすごい勢いで来る。

「おかえり、お父さん」
「ただいま。荒北、奏を返してもらうか。うちの娘だ」
「別にとりゃしねえよ」

親馬鹿か。と荒北くんが笑い、福富くんも少し笑う。そうだぞお父さん、こんな子供相手にそんなことを思うやつは…私の友達にはいないぞ、多分。
それから次々にゴールしてくる。巻島くんは今でもロードをしているし、東堂くんも趣味程度には走っているらしい。田所くんはパン屋さんをしているから本当の趣味になってしまっているらしいので新開くんから大幅に遅れてのゴールになった。
それからは少し休憩しつつ、私は荒北くんと遊ぶ。肩車ができるなんて聞いてないぞ荒北くん。君の細い腰は大丈夫なのか。

「しかし奏ちゃんは靖友に懐いてるな」
「ブサイクのくせに美少女に懐かれるとはとんだ美女と野獣だ」
「オレと仲良しだもんなァ」
「ねー」
「おしめ替えたりしてたからよ」
「おるすばんもしたよ!」
「そうネー」
「世話になっているな荒北、でも奏は嫁にやらんからな」

ロリコンじゃねえから。と真面目に答えるあたりお父さんの目が恐いんだろうね。
そろそろ降りなさいと言われて降ろしてもらう。お父さんの隣に行くと福富くんが私の視線に合わせて屈み、じっと見つめてくる。え、なんだろう。

「……」
「どうした福富」
「朱堂に似ていると思ってな」
「ちょっと福ちゃん、朱堂ちゃんの娘じゃないよ」
「そうだよ寿一。朱堂は奏ちゃんが生まれる前に」
「………そうか、そうだな。朱堂が居なくなってもう10年は経つのか」
「しんじゃったの?」
「…奏?」
「その人、しんじゃったの?」

私の直接的な問いは誰もが口をつぐんだ。
それもそうだろうと思う。こんな子供が言うんだから、それに私の母である人も死んでいる。『死』というのはお父さんである金城くんにもツラいもので、私にはまだ理解ができないと思っている。でもそれは違う、間違いだ。私は死んで、こうして今ここにいる。一度終われば、ほとんどの人はお終いで、そして次が始まる。でも私はきっと何かの手違いで2度目が始まっただけで。

「…ああ、仲間だった朱堂奏という女性は死んでしまった。友達だった」
「お母さんもしんだの、でもお父さんいうよ、お空から見てるって」
「……ああ。きっと、きっとそうだな」
「わるい子になったり、ないたりすると言うよ、そんなにしてるとお母さんかなしむぞって」
「……そうだな」
「だから、いい子でわらってないとなの。その人、きっと今見てるよ」

というか、今本当見てます。こんな子供相手に説教されてるんじゃないよ、福富くん。そして皆本当そのしょんぼりした顔するのやめようよ。私を思ってくれるのは嬉しいけど、悲しい思いをしてほしくないわけで、個人的には「懐かしいな」とか「朱堂は良い奴だったよな」でいいんです。

「…朱堂ちゃんだって、そう思ってんじゃねえの福ちゃん」
「大学辞める時も笑ってたじゃねえか寿一」
「卒業の時も笑っていた、うちの旅館に来た時も笑っていたぞ」
「子供に説教されるとは不甲斐ないぞ福富」
「そうだな、すまん。どうもお前の娘を見ると思い出してな…」

同じ名前がいけないのか。と思うけど、これはお母さんがつけてくれた名前で、少しだけ交流のあったお父さん…金城くんは絡んでいないぞ、母方の祖父母も言っていたからな、それに関しては無罪だよお父さんは。それに私の話なんて聞いたことないし、聞くのは惚気であって夫婦仲は…え、円満です、お母さんいないけど。

「さみしくなったらね、お父さんとぎゅってするの。だから福富のおじさんもぎゅってする?」
「……ああ、そうだな」
「お父さん出番だよ!」
「え、オレ!?」

私の一言でお葬式ムードが一転して笑いに包まれる。
それでいいんだよ。いなくなった私の事は過去でいい、思い出でいい。覚えていてなんて贅沢なことは言わない、私は皆が笑っていて、幸せなっている姿が見たいから。



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