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 リターン リターン

人生は一回きりだから楽しんだ者勝ちだって、何かとドラマとか漫画とかで書いていある。
だから人は一生懸命にしたい事をする。そして悔いを残したくないから努力をする。例外はあるけど、やりたいことをしてるんだ。

しかしそれにはごくたまに、というかあることがないに等しい事がある。
それが私。前世の名前を朱堂奏といい、現在金城奏と申します。
何の偶然か名前は同じ。良いよな悪いような。
前世の記憶を思い出したのは物心つくくらい。そして私の父親は金城真護、母親は私を産んですぐ亡くなって私は父の手一つ、いわばシングルファザーの家庭の子。

「奏、今日はご飯食べに行こうか」
「うん」
「父さんの高校時代のお友達とご飯を食べよという話になってな」

私も7歳で、小学校に通っている。ちなみに言えば、ちゃんと子供らしくしている。
前は同い年だった金城くんが私のお父さんというのはすごく不思議な感じがする。というか不思議。私が前世の記憶もちだとは言っていないし、言うこともないと思う。言っても信じてもらえないし、この関係を崩したくない。こういうのも変だけど、私と金城くんの関係は良好だ、親子としてはきっといい。忙しい父親に文句も言わず、できることは自分でしているし、いろんなことは手伝っている。趣味になっているロードに私も一緒にさせてくれるし、休みの日にはたまに遊びに行ったり一緒に料理もする。
ついでにいえば、金城くんは静岡で就職して、同じ静岡に進学していた荒北くんも同じ。
なので荒北くんとはたまにあったりする。ロードだったりご飯だったり、私の子守りだったりで。

「だれとごはん?荒北のおじさん?」
「たくさんいるぞ、荒北の高校のやつと、父さんの高校の仲間だ。田所と巻島もいるぞ、田所はあったことがあるよな」
「パン屋さんのおじさん?」

荒北くんの高校の仲間って…それ私の友達でもありますよね…。と顔に出してはいけないのでニコニコをして「いっぱいだね!」と笑う。もう子供のフリをして何年か経つし、ついでに言えば死んでからプラス何年なので中身が父親である金城くんとあまり差がないのが少し悲しい。

時間になって金城くんと車に乗って店に向かい、見せに入ると荒北くんがちょうど見つけてくれて「おーい、奏ちゃん、金城ー」と声をかけてくれた。

「こんばんは、荒北のおじさん」
「元気だったァ?」
「うん、今日はお父さんとおでかけしたよ」
「お、その子真護くんの娘さん?」

いつもの様に話していると懐かしい声がする。振り向けば少し年を取った新開くんがニコニコしている。私も生きていたらそうなっていたのかなと思う。

「ああ、久しぶりだな。娘の奏だ、大きくなっただろう?」
「びっくりしたよ、前に見たのかなり前だったから」
「き、金城奏です、こんばんは…」
「こんばんは、オレ新開隼人」
「新開のおじさん…?」
「んー、隼人くんがいいかな」
「やめろ、奏が困っているだろ。新開さんでいいんじゃないか?」
「オレだけおじさんかよ!」

ワイワイしながら座席につき、私は安定の金城くんモトイお父さんの隣で、反対側は荒北くんだ。まあ一応は前に会っているらしいけどほとんど初対面の私が不安にならない様にとの計らいなんだろうけど、そんな気遣いは正直無用だったりする。私だけの秘密だけど。そんなこんなで居れば、次々と面々がやってくる。田所くんに巻島くん、そして東堂くんに福富くん。みんな老けたななんて思いながら子供のフリをする。

「おー、デカくなったな奏!」
「田所のおじさんだー」
「よう奏」
「巻島のおじさんも」
「おじさんはやめろよ…」
「いいじゃないか、皆おじさんなら恐くないさ」
「うるさいっショ!オレは金城の兄弟じゃない」
「いいか奏、あんなになるんじゃねえぞォ」

「なんと愛らしいお嬢さんだ、お名前は…その前にオレだな、オレは」
「東堂尽八、東堂おじちゃんと呼んでやれ」
「誰がおじさんだ!オレはまだピチピチだ!」
「ぴちぴちおじさん…」
「奏ちゃん最高に可愛い」

「………」
「無言で娘を睨むな福富」
「こ、こんばんは…金城、奏で、す」
「福富寿一だ。娘はもうこんなに大きいのか」
「7歳になったからな」
「そうか」

子供目線から見るとなんだか不思議な感じがする。
荒北くんは前の同じで恐いなと思うけど、中身っていうか性格を知っているから恐くない。
新開くんは見た目通りだなーって思うし、東堂くんはキラキラしてる。普通の子供ならきっと東堂くんか新開くんあたりにドキドキするんだろうけど。
福富くんはなんか怖い。子供っていうものに慣れてないんだろうと思う。じっと見つめないでほしい。
それからは普通に食事会というか飲み会が始まった。私がいる関係でお父さんは飲まない。周りが飲んでいるけど、私という存在でお父さんにお酒を進める人もいないし、私に絡む人もいない。

「奏ちゃんなんか頼むゥ?」
「いらなーい。荒北のおじさん食べるの?」
「最近油モン食えねえからなァ」
「え、靖友もう年で駄目なの?」
「うるせ新開、お前はアイスでも食ってろ」
「靖友恐ーい。奏ちゃん、一緒にアイス食べよっか」

何がいい?なんて聞いてくる新開くんにお父さんが「あまり食べると腹を壊すからほどほどにな」と注意が入る。大人と一緒に考えてもらっては困るのがこの体、大きさが違うんですよね。
荒北くんを年だと馬鹿にしていた新開くんも体の事を考えて私と一つのアイスを半分こにしたかったらしい。ようは自分が食べたいけど誰かと半分にするには馬鹿にされそうだから私をダシに使ったらしい。まったコズル手を覚えたもんだ。

「そうだ、オレ卒業アルバム持ってきたんだよ」

新開くんがそういって荷物をあさってアルバムを取り出す。それは懐かしい箱根学園の卒業アルバムで、箱学出身者は「おお」と声を上げる。総北であるお父さんも少し見たそうにしている。

「うお、懐かしいな」
「オレの美貌に目が眩むな」
「部活写真あるか」
「お前ら仲良いな」
「巻ちゃんも見ようではないか、あの時の感動をまた」
「ついでにIHの写真もあるぞ」

荒北くんにホイと渡されたアルバム。荒北くんが「奏ちゃんも見る?」と私の前においてお父さんも入ってくる。

「うわー、若ぇなオレ」
「高校生だしな、相変わらず人相悪いな荒北」
「あ、朱堂ちゃん…」
「……ああ、箱学のマネージャーをしていたって言う」
「そーそー、変わんねえなー。変わんねえよな」
「当たり前だろ、朱堂はもういないんだから」

なんというお葬式ムードだろう。というか一応同席してますけどね、私。何を隠そう、いや隠しているんだけど私朱堂奏ですからね、元。
私はその朱堂奏の人生を20代に足を突っ込んですぐに終えてしまってた。それは誰が悪いのでも、原因があるのでもない。それが私の寿命だった、それだけの話。
悲しくなかったわけじゃない、ツラくなかったわけじゃない。生きたくなかったわけじゃない。

「そういえば、金城の娘と朱堂は同じ名前だな」
「そうなんだよ福ちゃん!朱堂ちゃんとおんなじ名前の娘なんだよ」
「奏の名前は妻がつけたんだが」
「でも可愛いじゃないか、奏ちゃん。奏ちゃんは明日どこか行くの?」
「明日はお父さんと自転車乗りに行くの。おおきなサイクリング場がね、あるんだよ」
「お、いいね。それ何処?」
「うーんと、お父さん」
「…そうだな、明日皆で行くか」

え、マジで。と私はうっかり口にしそうになった。



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