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 それよりも

「奏って、福富くんと付き合ってんの?」
「付き合ってないよ、なんで?」

唐突に友達に言われた言葉。友達曰く「仲良いから。そういえば新開くんとも仲良いよね。そっち?」だって。まっさかー と私は返す。

「まさか東堂くん!?」
「…さっきから、なに?」
「大穴で荒北!」
「………」

皆部活の友達だよ。と答えると友達は悲鳴に近い声を上げる。どうしたんだろう、私の後ろにでも幽霊がいたのだろうか。もしかして、今話題に人がいたのか。

「なんで!?」
「…なにが?」




「どうしてって…言われてもなぁ」
「悩み事かヨ朱堂ちゃん」
「……そういえば荒北くんだけ呼び捨てだった」
「はあ?朱堂ちゃんは呼び捨てしてないけどオレ」
「荒北!」
「何ヨ」
「慣れないからやっぱり荒北くんがいいな、うん」
「福ちゃーん、朱堂ちゃん変なんだけどー」

どうして福富くん呼ぶの?福富くんは私のお母さんじゃないよ。と言えば、「朱堂ちゃんと対等に話せるの福ちゃんだけだしぃ?」と言われた。
ボトルを洗いながらブツブツ言っていた私も悪いのかもしれない。今日はいつにもまして暑いし、私が部室にいなかったからか、それかたまたまここに来た荒北くんが心配してくれた。

「どうした」
「朱堂ちゃん急にオレを呼び捨てにしてさ」
「そうか」
「で、やっぱり荒北くんがいいとか。熱でもあんの?」
「大丈夫だよ。今日ね、友達に福富くんと付き合ってんの?って聞かれてさー」

それで部員の名前あげられて、何故か荒北くんだけ呼び捨てだったんだよね。と最後のボトルを洗いながら話す。生温い水は気温より少しだけ低いからちょっとだけ気持ち良い。

「どうして荒北くんだけ呼び捨てだったのかなって」
「いや朱堂ちゃん、気にするのそこなわけ?」
「気になったんだもん。あ、もしかして荒北くんの彼女だったのか!」
「それなら靖友って呼んでるんじゃないの」
「荒北にも春か!」

新開くんに東堂くんまでやってきた。休憩なんだから座って休憩したらいいのに。
ボトルを水切りに並べて、持ってきていた布巾で拭く。予備のボトルなのでたまにこうして洗わないとすぐに使えないのが嫌なところ。カビていれば使えないし、体に悪い。

「朱堂、パワーバーの在庫ないぞ」
「え、まだあったはずだよ」
「オレの好きな味がない」
「均等に食べて。というか勝手に食べないで」
「して、荒北の彼女とは!」
「彼女じゃねぇよ!」
「じゃあなきゃ言わないよね」

今日あったことを簡単に話すと恋ばなか!と何故か東堂くんが目を輝かせた。東堂くんは意外とこういう話が好きなのかもしれない。当の本人には彼女がいるとは聞いたことはないけど。よく言うマキちゃんが彼女かと思ったら総北の巻島くんだったし。

「すまんな朱堂…オレにはファンクラブがあるから一人だけを特別にできんのだ」
「…告白もしていないのに振られた?」
「何故荒北だけ呼び捨てだったのか」
「なんでだろうね。っと、ボトル洗浄おしまい」


拭き終わったボトルがカランと軽い音を立てる。この軽い音が私は結構好きだ。


「あれじゃないか?靖友不良だったから」
「あー、荒北くん恐かったもんね」
「ぎゃあ」
「あの時は…本当、荒北くん、恐くて…うん、ね……」

超恐かった…。と私が声の上ずって当時の荒北くんとのやり取りを思い出す。今では恐くないけど、当時はかなり恐かった。なんせ当時の私は男子が苦手なうえに荒北くんは不良だったのだ、天敵中の天敵といっても過言ではない。

「ごめんね…練習の邪魔して…さ…」
「いつの話してんだヨ!」
「あら、荒北くんが、まだ、髪を切る前……」
「あ、靖友が朱堂泣かせてる」
「何をしているのだ荒北。貴様小学生か」
「……荒北」
「よってたかってなんだよ!福ちゃんまで!!」

つか朱堂ちゃん泣かせてねぇよ!という荒北くんの声で後輩達がゾロゾロとやって来たので、荒北くんはますます嫌な顔をした。ごめん荒北くん。



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