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 彼女は最後に大きな嘘をつく

※死ネタ


連絡が来たのは大学に通って3年目の頭。
新開からメールで「今電話いいか?」という短い文。いったい何かと思って電話をこっちからかけると急いでいた様で、焦った声が聞こえた。
そして一番に聞いた言葉に驚いて頭が真っ白になった。

『朱堂が死んだ』

うっかり携帯を落としそうになったのを必死に持ち直して、意味がわからないと口からこぼれた。
近くにいた金城と待宮がどうしたのかと二人で顔を見合わせて、またオレの顔を見る。

『家の都合って大学やめたの知ってるよな、それ実は違ったんだよ』

実は病気で大学やめてたんだって。と新開は続ける。
そんなことは聞いてない、知りたいのはそれが嘘だって、ドッキリだっていうことだ。今日は4/1で、エイプリルフールだろ?だからそんな質の悪い嘘を言って。

「…嘘だろ、お前…」
『………そんな嘘、どうして言わなきゃいけないんだよ…!』
「嘘だ…だって、朱堂ちゃん」
『オレと寿一は今実家戻ってから朱堂の家に行く。靖友も葬式に』

行くだろ。と新開が言う前に電話を切ってカバンをつかむ。こんな大学でチャリに乗ってる暇はない。早く帰らないと、帰って朱堂ちゃんの家に行って、朱堂ちゃんが「嘘でーす!」と笑って、オレが怒って、それで。
金城が呼び止めるのを無視して家に帰って、荷物を手当たり次第に突っ込んで、それから実家に帰る。メールのやり取りで朱堂ちゃんの家の住所を教えてもらって、一人で行こうと思ったら福ちゃんと新開と東堂が一緒に行こうとなったので4人で向かう。

「ああ、奏のお友達の」

優しそうな顔で、どこか朱堂ちゃんに似た女の人だ。朱堂ちゃんはお母さん似だったんだと思って玄関を上がって部屋に通される。
そこには最後に会った時とは違う朱堂ちゃんが横になってる。一目で痩せていて、それで顔色が悪い。ちょっとダイエットし過ぎよ、朱堂ちゃん。

「…朱堂ちゃん?」
「顔見てあげて。元気な時の写真だとわかるかしら、これ確か高校の時の」

遺影となっている写真は追い出し式の時に取ったやつだ。
その顔を見比べるとやっぱり痩せてる。ああ、これで嘘じゃないってわかっちまった。

「朱堂…、どうして」
「進行がはやい病気でね、見つけるのが遅くて」
「あの時、うちの旅館に来たのは…」
「ああ、あなたあそこの。奏が自慢してたのよ、あの旅館は友達のおうちだって」

朱堂ちゃんが横になっているところに男が4人ならんでボロボロと涙を流しているのは、朱堂ちゃんが見たら笑うだろう。朱堂ちゃんんはこういう場面でよく笑って「らしくないね!」というのだ。
お茶でもいかが?と勧められて部屋を移動すると、朱堂ちゃんの事で次々に人がやってきた。

「あの時、痩せていたのは、こういうことか」
「オレ達には何も言わなかったな」
「やめる時も、そんなこと言わなかったしな」
「メール、よくくれてたのに」

大学を辞めたのは知ってた。それから飼っている犬の写真とか猫の写真とか色々くれて、どうでもいいメールをやり取りした。よく考えれば最近めっきり減っていた、そっか、朱堂ちゃん戦ってたんだね。
出されたお茶も冷えて、きっと朱堂ちゃんも冷たいんだと思うと涙が出てくる。

「朱堂ちゃん……」

『なに?』
なんて声がするはずもなく、ただ沈黙するだけだった。

それから数日後には朱堂ちゃんの葬式が行われた。葬式には先輩後輩に友達、監督とか色々来ていた。朱堂ちゃんはマネージャーをしていたこともあって先輩後輩に人気があったし、オレ達にも人気があった。唯一の女子ということで人気があったんだと思う。
化粧をしてもらって少し綺麗な顔になって朱堂ちゃんはもくもくと煙になって空に昇って行った。

「…そういえば朱堂ちゃんからメール来たよ」
「は?」
「靖友、何言って」
「………」
「お誕生日おめでとうだってサ」

メール画面を見せると朱堂ちゃんの名前でメールが来ている。
送信予約してあったんだろうね、ちゃんと0時きっかりに来てる。その時には朱堂ちゃんの心臓は止まっていたんだから。全然めでたくないよ、朱堂ちゃん。

「…最後まで朱堂の行動はわからんな」
「最後が靖友ってズルいぞ」
「まったくだ。朱堂は荒北と仲が良かったからな」
「それなら福ちゃんだって良かったヨ」
「朱堂は二人に甘かったからな。オレとか尽八なんて冷たくて」
「そうだったな。もしやブス専か」
「福ちゃんはブスじゃねえ!」

『怒るところそこなの?』

そんな声が聞こえた気がして、4人で振り返るが誰もいない。
最後の最後で4人そろって空耳って、オカルトにもほどがるヨ、朱堂ちゃん。



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