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「#エロ」のBL小説を読む
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 さようならはもうすこし

「なあ、鶏とかスピカとかフグどうするんだ」
「先生が世話すると思う」

卒業が迫ったある日。もう3年は授業がないし、半数以上が帰っている。奏は同好会もあるということで残っているし、オレ達も体がなまるからとここでトレーニングしている。
いつもというと奏が嫌な顔をするから言わないが、奏が一人で食べているところに入る。

「部活というか同好会の活動だから」
「引き取ったりしないのか?」
「どうやって飼うの。私大学進学なのよ、一人暮らしで鶏3羽飼えって?」
「それもそうか」
「先生の手に負えないなら小学校に寄付するんじゃないの、鶏は」
「他は?」
「先生の私物」
「あ、そっか」

あれだけ一生懸命に世話をしていたのに奏は冷たい。それにオレは澤野先生が世話をしているところを見たことがないし、準備室にさえ顔を出したのだって見たことない。あるのは文化祭で奏が芸を披露した時だけだ。

「先生も齢だから」
「心を読むなよ」
「顔に出てるのよ、鬼さん」
「奏はどこの大学行くんだ?」
「東京の方。美容関係ではない」
「意外だな、美容関係かと思った」

奏は何かと女子に人気でよく「メイクして」とか「ネイルして」とか「デートなの」とか「告白するの」とか相談を受けていた。それに面倒見のいい奏は「このシーンではこれがいい」とかアドバイスもしていた。だから奏を知る生徒は奏が美容関係の進路だとばかり思っていた。オレもその一員だけど。

「あれは趣味」
「なあ、オレにもネイルできる?」
「……できないこともないけど、してどうするの」
「弟に写メ送る」
「ネタに?」
「いや、弟そういうの好きなんだよ」
「へえ…それなら女の子の手の方がいいんじゃないの」
「違う、自分にしてんの」
「なかなかいい趣味ね、今度紹介して」

本気か冗談かわからない一言。
奏は黙ってまたご飯を食べる。
人にそういうことをする割に奏の指先には何の色も乗っていない。奏曰く「学生してるからしないの、わざわざ若いうちから無駄なことしたくないし」らしい。その学生してるっていうのに何か違和感があるけど、その違和感がよく分からないので「ふーん?」と適当に返した。

「こうして奏と飯食べるのもあと少しかー」
「そうね、静かになる」
「寿一ー、こっちこっちー」
「増やすな」
「うげ、また奏がいるのかヨ」
「私に動けって言うの?先にいたのに」
「おお、朱堂ではないか。最近隼人と一緒に食事をするのだな」
「好きでしてるわけじゃないんだけどね」

人懐っこいというか、あまり人の事を気にしない尽八は奏を気に入ったらしく嫌がる奏を無視して話しかけている。まあ奏は比較的綺麗だから尽八の好みなのかもしれない。尽八の好みがどんな子か知らないけど。嫌がっている奏に「仲良きことは良いことだ」と肩を叩いて笑っている。

「朱堂またフグにエサをやりたい」
「福ちゃんフグ好きだね…」
「フクがフグ好きとな!」
「新開くんに聞けば?エサの時間知ってるでしょ」
「お、ということはオレも行っていいんだな」
「来るなって言っても来るんだから意味ないでしょ」
「お前もうちょっと言い方をよォ。モテねえぞ」
「………あら、ごめんなさい。これから改めるわ」
「うわキモっ」
「大学から」

靖友が怒るが奏にとってはどこ吹く風で、黙ってご飯を食べている。
こうして靖友をからかえるあたり、奏は靖友と長い付き合いをしてるんだなと思う。そうじゃなかったらあそこまでの冗談をいえないし、IH後に靖友にベプシに書いたメッセージで靖友も泣かない。ただの一言だったけど、まだ靖友が持っているのを知っている。

「いいな」
「あ?」
「フグか?」
「違う違う、奏と靖友」
「何がだよ!?この冷徹女のどこがいいんだお前、どエムか!」
「その距離感がいいなーって思って」
「…は?」
「オレも奏とそんなこと言って遊びたい」

靖友が凄く可哀想なものを見る目でオレを見る。
きっとオレの思いも靖友から見ればそんな目をされるんだろうな。



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