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 猛獣使い

「ハブられたことなんてないけど」

奏が小屋の掃除をしている時間をめがけていけば、奏はいつもの様に掃除をしている。
今日はいつもと違って鶏が小屋の外の日なたで気持ちよさそうにしている。今日は自由にしてもいい日らしい。

「それより向こうは駄目」
「え?」
「鶏の話」
「遠く行くと大変だもんな」
「それよりウサ吉の小屋の掃除したら」
「するする」

もう終わりの方だったらしく、奏が鶏に「戻って」と言えば鶏達は言われた通りに小屋に戻る。鶏って凄く賢いんだなと見ていると奏は南京錠をかける。

「箒使う?」
「ああ、使う」
「はい。それじゃあね」
「え、どこ行くの」
「部室…というか、生物室」
「なにしに?」
「部活というか、動物の世話しに」
「オレも後で行っていい?」
「好きにしたら」

ウサ吉に話しかけながら小屋の掃除をしてみる。奏のマネだ。いつかウサ吉も奏と鶏みたいに会話というか、言ったことを理解してくれる日がくるといいなと思って。
それにしても奏と鶏は凄いと思う。寿一の言っていた芸は見れていないけど、とてもいい関係ができているんだと思う。
掃除が終わってエサの準備もいい。奏はウサ吉には言っていた通りに世話をしていないから散歩というか運動もさせてくれていない。だからと言って奏に「ウサ吉にも」と言うつもりはない。ウサ吉をこんな目にあわせているのはオレだし、奏には奏の仕事がある。しばらくウサ吉を遊んでから小屋に戻す。

「じゃあなウサ吉」

ウサ吉は静かに耳をピクンと揺らしてオレを見つめた。


そういえば生物室ってどこだろう。生物の授業はあるけど生物室に行く機会って今までなかった。とりあえず一階から順にウロウロしたら見つかるかなと思って今までしたことがなかった校内を探索してみる。土曜日の午後は比較的休みの部活が多いので校内は静かだ。立ち入り禁止じゃないのは受験生もいるからだと先生が前に言っていたし、わからないことがあれば来なさいって担任も言っていた。

「あ、生物室」

コンコンとノックしてみると、少し間をおいて奏の声で「どうぞ」と声が聞こえる。良かった、奏はまだいる。

「よう、奏」
「新開くんも物好きね。こんなに邪険にされてもまだ来るなんて」
「でも奏優しいからな」
「何も出ないからね、褒めても」
「そりゃ残念だなー。何してんの?」
「水槽の掃除」
「何がいるんだ?」
「ミドリフグ」

見れば丸い目をしたフグがふよふよと泳いでいる。
部活で飼っているのか聞くと、これも先生の私物らしい。フクロウと言いフグと言い、生物の先生は学校を生き物の置き場にしているんじゃないかと思う。

「同好会だから予算が少ないのよ」
「…ふーん」
「どうせ先生が私に押し付けてるって思って説明したけど余計だった?」
「……いや、思ってた」
「半分正解なんだけどね。フクロウは繁殖に成功してここに来たの。この子は先生の家の水槽でいじめられて避難」
「鶏は?」
「元からこの学校にいる」
「なんで生物同好会なんて入ってんの?」
「……好きだから、動物」

掃除が終わったらしく、道具を入れていたバケツを持って水道に近づいて洗い始める。
オレはフグが泳ぐのを見ていると、フグもオレに興味があるのか見つめてくる。意外と可愛いじゃないか、ウサ吉には負けるけど、こいつも悪くない。コツコツと指先で水槽をつついてみると、フグも同じように突進してくる。

「可愛いでしょ」
「うん、可愛いな」
「フクロウはあっちの準備室にいるけど見る?」
「いいの?」
「どうせ私しかいない同好会だし、先生も自由にしていいって言ってるから良いと思う」

水槽の掃除道具をもって準備室に入っていく奏の後ろについていくと、あのフクロウがチョコンとケージの中にいる。丸い目を大きくしてこっちを見ている。

「何て名前?」
「さあ、知らない」
「じゃあ何て呼んでるの」
「…ふーとか、くーとか」
「……え?」
「自慢じゃないけど私名前のセンスないの」
「……いや、名前ってひとつだろ?」
「………それもそうね。繋げてフクにでもしようか」

フクかー可愛い、な…?とひとつ俺の頭に疑問というか違和感が。フク、フク…どこかで聞いた、いや聞いている。

「フクロウは縁起のいい鳥っていうのは知ってる?」
「……」
「当て字かもしれないけど苦労をしないで“不苦労”」
「そうだ、寿一!」
「………」
「フクはダメだ、それじゃあ寿一になっちまう」
「……誰」
「福富寿一。ほらクラス委員の。尽八がフクって呼んでる」
「福富くん、下の名前寿一っていうんだ」

被るなら駄目ね。とオレの言葉に頷いた。
オレだって自慢じゃないけどそういうセンスってやつはあんまりない。ウサ吉だって靖友に笑われたし、寿一に相談しても変わらないだろうし…。

「スピなんとかって言ってたよな」
「スピックスコノハズク」
「それでスピでいいんじゃないか」
「……そうね、どうせならスピカにしようか。素敵な名前」
「カルピスみたいな名前だな」
「………そうね」

あれ?奏が今凄く変な顔をした。ゲッというか、うわーっていうか、そんな顔。何か変な事を言ったのか内心焦るけど奏はもうそんな過ぎたことは気にしないのかケージにかかている白いプレートを外してマジックで書き始める。覗くと『スピカ』と書かれている。

「ネームプレート」
「スピカちゃーん」
「指入れちゃダメ、噛むから」
「あぶね」

新しくスピカと名付けられたフクロウは丸い目でくるくるとこっちを見ている。というか、奏を見ている。オレにはたまに「誰だよ」と言っているような目を向けるけど、興味は奏にあるらしい。エサとかの世話をしているのは奏だし、オレはちょっと遠くとうか、それで見た程度の人間だからな、仕方ないと言えばそうだ。
そんなスピカを眺めていると生物室のドアが叩かれて女子の声がする。何かと思ってそっちに行くとやっぱり女子の声がする。

「朱堂さーん、朱堂さんいないのー?」
「奏になんか用事ー?」
「え!?」
「用事があるなら呼ぶけど」
「お、おねがい…」

準備室に行って奏に用事があるって人来てるよって話すと奏はそのドアに向かう。後ろからついて行って、ドアを開けると奏とは正反対の目立つ様な容姿の女子が一人。

「隼人!?」
「あれ、どうしたの。奏と友達とか意外」
「朱堂さんと隼人…どうして」
「生物同好会の動物が見たいって言われて。どうしたの、そっちこそ」
「ああ、うん。またお願いしたんだけど…いい?」
「今回は何」
「明日カレシとデートでさ、化粧頼みたいの」
「いいよ。何時から」

意外なことに奏はそういうのには煩いというか、クラス委員として注意する立場だと思ったら逆いった。それからその女子とは時間とどんなイメージかを簡単に打ち合わせをして、女子は「じゃあね朱堂さん、隼人もー」とニコニコして行ってしまった。

「……奏も化粧するの?」
「するけど普段しない。あれは一種のバイトよ」
「バイト?」
「前に汚い化粧に汚いネイルしてる子がいて言ってやったの『その汚い化粧とネイル落としなさい』って」
「…お、おう」
「で、『私が綺麗にしてあげるから道具一式持ってきなさい』って。それからたまにね」

おかげで私に化粧してもらうと恋が叶うとか不思議な噂ができて、あの子で何組目かな。結構くっ付いたみたい。と奏はめんどくさそうに言う。
意外と奏は優しいだけではなく面倒見もいい気がする。

次の日、部活前に見たあの女子は確かに可愛くなっていた。



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