弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 冷徹女と野獣

「なんだあれ」

学校が休みの土曜日。いつもの様に部活をしていると、ウサ吉の住まいになっている飼育小屋の方を尽八が指さす。見ると師匠と呼べる奏が歩き、その後ろから鶏がついてきているし、奏の腕には鳥が乗っかっている。

「…げ、奏じゃん」
「靖友は奏を知っているのか?」
「知ってるっつうか…新開こそ奏知ってんのかよ」
「ちょっとな。で、靖友はどうして知ってんの?」
「…まあ、幼馴染ってやつでよ」

それは意外だ。
奏は気づいていないみたいだけど、こっちは気づいてしまったし、ついでに休憩だしと思って「おーい、奏ー!」と手を振ってみると、気づいた奏は少しだけ迷惑そうに小さく手を振ってくれた。それを見た尽八も便乗して手を振ると奏はサッとその手を下してまた歩き出した。知らない人間には手を振ってくれないらしい。

「む、なんだあの態度は」
「普通だろ。それにアイツそういうの嫌いなのに珍しいな」
「そういうの?」
「手振ったりするの」
「ふーん」

シッシと靖友が嫌な顔をしてあっちに行けとポーズをすると、奏は何かを構えるポーズをする。いったい何かと思ってみていると、奏の腕にとまっていた鳥が羽ばたいて向かってくるじゃないか。それは静かに、そして滑らかに飛んで靖友の頭の上で円を描いてまた奏の手に戻る。そして遠くで奏は靖友を小ばかにしたようにフンと笑って見せた。

「性格悪!」
「そうか?やられたからやり返したようにしか見えんが」
「あれなんて鳥だろうな」
「フクロウっぽいな。というか、彼女は何者だ」
「生物同好会の朱堂奏だ」
「詳しいな」
「友達…なんだ」

そのまま奏は校舎の方へ向かう。
前に言っていた運動不足解消の散歩なんだなと思う。今度聞いてみよう、それにウサ吉も参加できないかとも聞いてみたい。きっと最初は嫌な顔をするんだろうと思う。いつも最初は嫌な顔をするのはもう知っている。

「つうか、新開おめぇよく奏と友達やってられるよな」
「…どうしてだ?奏は良い奴だぞ」
「アイツ口調がキツイからハブられてたんだよ」
「同族ではないか荒北」
「うっせ!」
「でも優しい。奏はすごく優しい」

そうか?お前ドMなんじゃねえの?と靖友が哀れんだ顔した。


「よう奏」
「自転車競技部は忙しいのね」
「なああれ散歩させてたのか?」
「そうよ、たまにね」
「あれってフクロウ?」
「スピックスコノハズクって種類らしい。あの子は先生の私物」
「散歩って」
「新開くん、私お昼食べてるんだけど」
「オレもオレも」
「静かに食べたいの」
「オレは楽しく食べたいな」
「じゃあ友達のところに行ったら」
「奏と食べたい。それで散歩の話なんだけど」

ちらっとオレを見てから溜息をついた奏は無視して食べ始める。靖友の幼馴染であるなら寮生だ。今まで気にしたことがなかったので探したこともなかったけど、探せば奏は一人で昼食をとっていた。見つけて昼の乗ったトレーを奏の前において奏の正面に座る。一人?なんて野暮なことは聞かない、オレは奏と話がしたい。

「今度ウサ吉も一緒にさせたいんだけど」
「したらいいじゃない」
「今度いつするの?」
「来週の土曜、時間は未定」
「時間決まったら教えてよ」
「無理」
「どうして」
「よく考えてみたら」
「……あ、オレおめさんの番号とか知らない」

ポケットを探って携帯を取り出して「連絡先交換しよう」と提案するも、奏は「嫌だ」と断る。いったい何が気に食わないのか知らないが、奏は自分のポケットを探ろうともしない。
それにめげずに交換しようと言い続けるが、奏はただ迷惑そうな顔をして食事を続けている。

「朱堂、今いいか」
「なに?福富くん」
「クラス委員の仕事なんだが…新開どうした」
「寿一…奏が連絡先教えてくれないんだ」
「月曜の昼休みに集まりがあるそうだ」
「わかった、ありがとう」
「寿一まで無視をする…」
「奏はそういう人間なんだよ新開」
「あら、たけのこじゃない。もうあの髪型はやめたの?」
「うっせ!冷徹女」
「冷徹なんて言葉覚えてんだ」

オレや奏に断ることもなく寿一と靖友が座る。寿一と奏はクラスは違うが同じクラス委員らしく、少しは喋るらしい。といっても委員会の事くらいなので親しいとは言えない。
それに靖友は幼馴染というだけあって憎まれ口を叩きながらも奏は突っぱねていない。

「靖友は奏の連絡先してるか?番号でもアドレスでも」
「知るわけないだろ、知っててどうすんだよ」
「靖友のお母さんのアドレスと番号知ってるけど」
「はぁ!?だ、だからか!だからオレのしたこと筒抜けなのかヨ!」
「だって頼まれてるんだから仕方ないでしょ。おばさんに宜しくって言われるんだから」
「告げ口すんな!」
「されるようなことするな」

静かに手を合わせてご馳走様でした。と奏が昼を食べ終わる。そして奏は「ごゆっくり」と言ってトレーをもって行ってしまった。

「あんの女…」
「朱堂は冷徹じゃないぞ、荒北」
「はあ?福ちゃんまでなに言ってんの」
「動物に好かれるんだ、悪い奴じゃない」
「寿一もそう思うか!」
「そうじゃきゃ鶏も芸をしないだろう」
「え、あの鶏芸するの!?」

ちょっとそれ知らなかったんだけど!


※通常小型フクロウはフリーフライトはしません。



prevnext