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 弱虫勇者の愚行

「あ、あの!!」

ちょっとしたはずみだった。
街でちょっとだけ肩が当たった相手が悪かった。いわゆるガラの悪いオッサン。ゴツイ身体つきに厳ついサングラス、おまけにスーツを着て高そうな革靴。一見して誰もが道を開ける。
すぐに謝れば舌打ちでもしかしら終わったかもしれないそれは、オレが悪化させた。食って掛かったんだ。

「…なんだ、朱堂さんとこのお嬢さんじゃないか」
「こ、こんにちは…」
「ちょっとあっち行っててくれないか、オジサン用事があるんだよ、この坊主に」
「……」
「あ、あら荒北くんと、お知り合いですか!奇遇ですね、私も友達なんです!」

同じ部活の友達なんです!!とソイツが叫ぶように言う。たぶん、あいつはオレを助けようとしているんだろう。
オッサンはオレとソイツを交互に見比べて、オレの胸ぐらをつかんでいた手を離した。
軽く浮いていたオレは重力に引っ張られるまま大きく尻もちをついて帰るが潰れた様な無様な声が出た。

「お嬢さんの友達なら仕方ねぇ。おい坊主」
「…っ」
「お嬢さんに感謝しておけよ」

殴られる。そう思った瞬間目を瞑ると、何も起きない。恐る恐る目を開ければ、オッサンのデカい手がオレの目の前にあってバシッとデコに衝撃と痛みが走る。予想していなかったことにそのままオレは後ろに倒れて頭を打った。

「お嬢、今度イベントがあるからご両親とおいで」
「はい。楽しみにしてます」

じゃあな。と声がしてアイツが何かの動作をしているのが視界の端っこで見える。
なんだアイツ。アイツ確かチャリ部のマネージャーだろ。確か名前は朱堂奏で、福富と喋っているのを見かけたことがある。入ったオレにはビビりまくりのくせに、なんでこんなところにいるんだ。どうして助けたりしたんだ。

「あ、荒北…くん?大丈夫?立てる?」
「……」
「もしかして…脳震盪?ど、どうしよう…救急車?」
「ダイジョブだっての」

起き上ればソイツは驚いて後ずさる。小さく「本当に?」と聞いてくるから「うっせ」と返せば黙る。あの厳ついオッサン相手よりオレにビビるな。

「…チッ」
「怪我、ない?」
「ねえよ」
「………」
「なんだよ」

なんでもない、というように頭は振る。
というか、あのオッサンとどういう関係だ。まさかそっち系の人間か?と思うが、オレ見てビビっているんだから違うんだろう。あのオッサンの方がオレよりももっと悪い顔をしていたし体格だってオレの負けだ。

「…おい」
「は、はい!」
「…あんがと」
「…え?」
「礼言ってんだよ!ありがとなって!!」
「ど、どどどどういたしまいて!」

ビビって噛んでんじゃねえよ。いたまいてって意味分かんねえよ、馬鹿じゃねえの、頭ゆるいんじゃねえよ、阿保だろ。
立ち上げってケツについた汚れをバシバシ叩いて落とす。なんとなく痛いと思って手のひらをみると血が滲んでいる。

「つうかさ、お前馬鹿なの?」
「え」
「ヤクザみてぇなオッサンに何たてついてんの?」
「……だ、だって、あら、荒北くんが」
「あのオッサンと知り合い?」
「う、うん…不動産の、人」
「………」
「あ、あの人ね、趣味がお菓子作りでね、可愛いお菓子とかね」

聞いてねえよ。と言えば黙る。本当にこいつバカなんだな。オレよりも絶対あっちの方が恐いだろ。
投げ出されてた中身の入っていないカバンを持ってソイツに近づいて、横をすり抜ける。すれ違う瞬間にそいつがビビって横に避けたのだって知ってる。

「おい」
「へ、はい!」
「家何処だよ」
「ち、近くです」
「送ってやるよ。勘違いすんなよ、礼だからな!」
「だ、大丈夫!すぐだし、ここから寮に行った方がいい、よ」
「うっせ」
「明日も、練習あるから早く帰った方がいい…よ」
「言われなくてもわかってるっつの!」
「ご、ごめん!あ、ありがとう…」



「…よう」
「お、おはよう…昨日、大丈夫だった?」
「おはよう朱堂。なんだ靖友と仲良くなったのか?」
「うっせ、昨日世話になっただけだ」
「お世話したのか朱堂」
「そんなんじゃ、なくて…えっと、お話、したかな…」

声をかければ昨日と同じような反応。そこに新開が入ってくるが、そのビビる態度は変わらない。度胸があるようでないらしい。

「それより寿一知らないか?」
「福富くん委員会の仕事があるって昨日言ってたよ」
「え、そうなの?」
「うん、だから朝練は参加できないって…」
「そうか…じゃあ靖友付き合ってくれよ」
「はぁ!?」

オレの声にビビるな、そこの朱堂…ちゃん。

それからもっと時間が経って、冗談や遊んだりするようになってあの時のオッサンの事を聞いてみると「ちょっと短気な人だけど、いい人だよ」と笑っていた。ただ強面のああいう趣味だから勘違いされるし、あの時は脅かしただけのつもりらしい。



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