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 ッシッシッシ

「奏て最近自転車始めたの?凄いね、初心者で入賞だなんて」

始業式に組み込まれている夏休み中の大会の報告会。そこで奏もレースの表彰が行われ、同じクラスで仲の良い友人に聞かれた。奏は自転車に関して言えば初心者ではないし、むしろブランクはあるが福富並みに乗っていた。それを誰かに奏は言うつもりがないので「ちょっと前かな」と曖昧に答えていた。
ついでに言えば、奏がおそれていた東堂ファンクラブに何か言われることはなく、むしろ大会を見に来ていたファンクラブメンバーに「朱堂さんはどうして自転車競技部に入ってないの?」と聞かれてしまったくらいだ。

「おい、朱堂」
「荒、北…くん」
「今日追出あるけどお前も来いよ」
「え?」
「だから、追出」
「ご、ごめんね…やっぱり私迷惑かけてて…もう部活行かないから、私文化部で」
「違ぇよ、チャリ部は三年の引退の時に追出式ってのやんの。それに来いって言ってんだよ」
「……、私、自転車部じゃない、よ?」
「だーかーらー」
「黙って参加しろ朱堂」
「…福富くん」

学校では変に噂されたくないという奏の一言から苗字で呼び合うという子となっている。福富は奏に「来なかったら東堂に言って校内放送をかける」という脅しをされてしまったので行かないわけには行かなくなってしまった。

言われた時間に奏は着替えて愛車を引いて部室に向かう。奏の自転車は普段女子寮の自転車置き場に置いてある。もちろん盗難の意識して鍵のかかるガレージに近い作りになっているし、奏も意識して鍵はつけている。
奏が部室に顔を出せば準備運動をしている部員がいて挨拶をしてくれるので奏も挨拶を返す。時計を見ればまだ時間はある。同じクラスにいる自転車部の人に追出しって何をするのと聞いてあるので大体の概要はわかってる。

「ちゃんと来たな」
「脅されたからね…」
「誰に」
「今私の目の前の人に」
「…荒北か?」
「それ本気で言ってるの?」
「?」

奏の言葉にいまいちピンと来ていない福富。あれを脅しを言わずしてなんというのだろうかと奏は溜息をつく。

「ちゃんと来たな朱堂。オレの走りを間近で見て驚くがいい」
「休み中にも走った」
「そうだったな。あれはチームだったが今日は個人戦だ」
「そうなの?聞いた話と違うんだけど…」
「誰に聞いた」
「藤原くん」

聞いた話を言えば東堂は実に面白くなさそうな顔をする。個人戦と言えば個人戦だが、毎年なんだかん言って新旧(仮)メンバーの対決の様になるというのが奏の聞いた話だ。恐らく今年もそうなるのだろうと藤原が笑っていたのだ。

「まあ、行事のひとつだからな」
「私も毎年部活の引退の時はお茶会してたから、そんな感じなのかなって」
「和やかな部活だな」
「……女の子らしい部活に入れって言われてたから」
「確か文化祭でお茶会やっていたな。よし、今年は皆で行ってみるか」

そんな話をしていると時間になり、指示が出てスタート地点へ移動がかかる。後ろから大人しく付いていこうと全員が出払うのを待っていると先日の様に黒田が奏に声をかけ、三年なんだから先頭に行ってくださいと言われてしまう。悪いからと遠慮すれば、今度は葦木場に「ダメですよー」とスタートラインの先頭に引っ張られた。


スタートの合図と同時に全員が地を蹴る様にして全員が走る。最初こそ和やかな雰囲気があったがある地点に到達すると雰囲気が変わってレースの空気に変わる。
奏が聞いていた通りに今年のメンバーと来年主体となると思われるメンバーが先頭を走って行く。それについていこうと体勢を変えると後ろから「朱堂も行くのか?」と声をかけられ、「とりあえず行ってみる」と答えて踏み出した。



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