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コンビニレースから数週間も経たない間に奏はなぜかレースに出ることになっていた。もちろんその間には奏自身もワケがわからないままに我武者羅に練習をさせられ、奏もそれに応じて練習をした。まるで今までの穴埋めをするように。
レースのスタート地点にいること自体が信じられずにいる奏にはどうしてこうなったのかとまだ頭を傾げてしまう。久々に新調したジャージにグローブ、それにシューズにヘルメット。真新しい出で立ちに周りの選手からは新人だと思われているのだろう。たまに「レースは初めて?」と声をかけられるので、この大会が初めてという意味で「はい、そうなんです」と答えていた。
そしてレース開始のピストルが鳴り一斉に走り出す。



「結果二位入賞でした」
「何故一位じゃない」
「……そんなこと言われても…」
「二位っていってもほぼ同着なんだからまあまあじゃないか寿一」
「朱堂…どうして本当に自転車競技部に入らなかった…」
「本当だよな、真波の代わりにレギュラーなれたんじゃねえの」

部活で大会に出るからついでに女子の部に出ろと強制的に出場させられ、それまでは自転車部で一緒に練習をこなしていた。最初は下級生や同じ学年の面々には不審な顔で見られていたのでそれはそれは居づらかった。ただ、ありがたかったのは記録の為の学年別のレースがあったことだろう。レギュラーメンバー以外と走るのは初めてだったが、レギュラーにほぼついて行けるということで不審な目で見られることはなくなった。

「どうだった」
「………うん、楽しかった」
「寮に帰ったらお祝いしよう。奏の再起祝いと寿一の一位のお祝いで」
「朱堂女子寮だぜ?食堂ですんのか?」
「なら明日ファミレスにでも行くか」
「割り勘とかいうなよ新開。お前の分まで出さねえからな」

ギャアギャアと騒いでいると監督に「早くしろ、撤収だぞ」と言われて急いで帰り支度をする。今回レースに出場していない新開が奏の片付けを手伝ってくれてすんなりと自転車は運ばれていく。その間に奏は更衣室に走って急いで着替える。それから集合場所に行って点呼が行われ、帰りのバスに乗り込んだ。

寮に戻ってからはいつもの様に食堂に行くと自転車競技部の面々と再会する。最近となっては寮生の部員とも少し話すようになり、挨拶程度はするようになった。

「お疲れ様です朱堂さん」
「お疲れ様、黒田くん」
「準優勝でしたね」
「…うん、負けちゃった」
「でもほぼ同着じゃないですか、それにはぼ始めたばっかりで。凄いですよ」
「そう、かな…」

主将さんにはちょっと嫌味いわれちゃったけど。と奏が言うと黒田は困ったように笑う。三年のレギュラー以外は奏と福富が小さいころからの知り合いとは知らないので微妙な関係と思っているのだろう。親しいとも思えないが指導をしているあたり、複雑というか、奇妙な関係に見える。
黒田と奏は最初こそ一方的に奏は黒田に睨まれていたが、今では比較的話しやすい後輩と先輩になっている。

「あれ、ユキちゃん朱堂さんと一緒?」
「ちょっとお話ししてただけだよ。お疲れ様葦木場くん」
「お疲れ様ー、朱堂さん」
「おい、朱堂さん先輩なんだから…」
「いいよ、だって私部活の先輩ってわけじゃないし…ほら、ね」

部外者だから気にしないで。と奏が言えば、二人はそろって頭を傾げる。事実として奏は部員ではないし、奏は文化部に所属している。それに見た目も大人しそうで運動系をしそうにはないし、どちらかと言えば読書が好きそうな容姿だ。どうみても自転車を力一杯全速力で走らせる様には見えないし、この夏休みが終わって部活の表彰があるときになれば驚かれるに違いない。しかし、そうであっても今は二人以外にも奏は同じ部活に励んでいる部員にか見えないのだ。

「なに言ってんだよ、奏は自転車競技部の一員だぞ」
「そ、そうですよ朱堂さん。新開さんの言うとおりです」
「奏一緒に飯食おうぜ、黒田たちも一緒にどうだ?」
「あ、いやオレ達は邪魔になると思うので」
「私も…」
「逃がさんぞ朱堂!今日くらい一緒に夕食を共にしようじゃないか」
「ナイス尽八!そのまま奏を確保!」
「黒田くん、葦木場くん…!」
「それじゃあ朱堂さん」

いい笑顔で逃げていく二人とは反対に、奏の確保する東堂と新開に奏は恐怖した。自分よりも大きい二人であり、ついでに言えばファンクラブだってある。まだ夏休みと言えど、ファンクラブが皆無ではないわけだ。

「ファンクラブ恐いよ…」
「朱堂はよくオレのファンクラブの話をするが、オレのファンクラブが何か朱堂にしたことがあるのか?」
「………ない、かな」
「そうだろう。なのになぜそんなに恐がる」
「……なんていうか、イメージ?大会の次の日学校で凄い話題になるから」
「そうだったな、朱堂は見に来てないからな」
「今日だって、凄かったし…」
「とりあえず飯食おうぜ。腹減った」

それもそうだね。と何にしようかと話題は夕食へと変わった。



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