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 恐くない、忘れない

やっぱり楽しい。
それが奏の印象だった。印象というのも変な話だがそれが本当なのだ。
普段使うときは街乗りように調整しているし、レースとは違う目的になってしまっていたので細かいことは気にしていない。しかし半強制的に自転車競技部にメンテナンスされてレースにも出れそうなくらいにいい調子にされた愛車は懐かしくて奏自身が驚いたくらいだ。

「綺麗に走るじゃん」
「当たり前だ。荒北よりもロードは長いぞ奏は」
「どうして知っていて勧誘しなかったんだフクよ」
「……やりたかったら自分から来るだろうと思って」

一緒に走ろうと新開に誘われてコースをおっかなびっくりついていく奏の姿を見て話す。さすがに靴は代用ができなかったので奏が体育の時間に使っている靴だが、グローブとヘルメットは貸している。多少サイズに不安があるが、ないよりましだろう。

「それにしても意外だ…オレが話しかけても興味なんてなさそうだったのに」
「それ東堂に興味ないだけだろ」
「うるさい!」
「仕方ない、奏がやらなくなった理由が理由だからな」

それが何かを聞けば、福富は「それはオレが言っていい事じゃない」と言わなかった。
乗りたい理由があるように、乗りたくない理由も存在するということだと福富は黙る。
二人が走っているのは校内にある小さいコースで、初心者やちょっとした練習のためにあるので、自転車競技部が使わない時は体育の授業などに使われることもある。そのコースをぐるりと一周して新開が誘導するように三人のところに戻れば、奏もそれにならってついてくる。

「ブランクがあるとは思えんな」
「…買い物とか、これ使ったりしてたから」
「チャリ部以外にロード乗ってるやつ見た事なかったんだけど」
「そ、そう?」
「たまに見かけていたぞ」
「女子だと珍しいよな」

小さなコースなので息も上がらない。準備運動の延長にもならないコースで話が弾むのも変な話だろう。それが初心者どうしならばまだしも、初心者と呼べる人間がいないのだ。奏は福富以外が知らなかっただけでロードの大会ではいい成績を残しているのだ。

「外出るか」
「え」
「いいな、それ。チーム戦するか」
「無理無理、私負けるから…」
「案ずるな、オレが一緒に走る。山は任せろ」
「んじゃあオレも奏と一緒で。スプリンターしてるからな」
「隼人、馴れ馴れしいぞ!」
「さっきOKもらったからいいんだよ尽八」
「なっ!」
「じゃあオレ福ちゃんと組むか」
「そうだな」
「ちょ、ちょっと…」

奏の話なんて聞く様子もなく4人は愛車を引いて行ってしまう。急いでついてコース知らないと言えば東堂と新開についていけば大丈夫だし福ちゃんもオレもいるしと荒北が気にするなと言ってくる。
まだ奏が「えー」とか「うー」とか言葉にならない抗議をしていると荒北が睨んできたので奏は黙る。

「ルールはそうだな…こっちは奏がいるから最初にゴールした二名がいるチームでどうだ」
「問題ない」
「いきなり…」
「罰ゲームは?」
「え、そ、そんなのあるの…?」
「そうだな、ジュースかアイスにするか」
「面白い」

奏が困って右往左往していれば、同チームの新開と東堂が笑って「そう緊張しなくていい」と奏の肩を叩く。

「朱堂、何が良いか決めておけよ。ゴールはコンビニだ」
「やっぱり勝って旨い奴がいいよな」
「………誘導よろしくね」

当たりまえだろ。と二人が笑う。



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