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 引っ張らないで

奏が最初に通った高校が優勝し、今通っている高校は優勝を逃した。嬉しいような、残念な様なそんな複雑な思いをして実家に帰らずに奏は寮で生活をしている。この学校は部活動が盛んで、長期の休みでも比較的に寮にいやすく、また奏は受験生ということもあって許可はすんなりのと下りた。

「おはよう朱堂。さて、IHの疲れも取れたところでお前に聞きたいことがいくつかある」
「…おはよう東堂くん」
「奏はどっちを応援していた?箱学か?それとも総北か?正直に言え」
「……うーん、どっちも、かな?」
「そんな欲張りが許されると思ってか!」

寮の食堂で一人で食べていると正面の椅子に東堂がどかりと座る。プレートには朝食が乗り、和食に湯気が踊っている。

「朱堂さん元総北のマネしてたんだっけ」
「おはよう新開くん」
「オレと巻ちゃんどっちの応援したんだ」
「東堂の応援なんてその辺のファンクラブでいいだろ」
「おはよう………朱堂」
「お、おはよう……福富、くん。と荒北くん」

次々と同じ学年のIHメンバーが同じテーブルに着くと奏は明らかに焦ってように下を向く。ファンクラブがある二人に元ヤンの荒北、そして主将の福富となれば大体の生徒は焦る。

「つうか、一人で飯食ってんの?」
「え、あ、…私?」
「それ以外に誰がいるんだよ」
「えっと…みんな、実家に帰ってるから」
「朱堂さんは帰らないの?」
「なんか、実家っていうか居づらいから…」
「人のプライベートに首を突っ込むのは良くない」
「そうだな、悪かった。寿一の言うとおりだ」
「ううん、こっちこそ、なんか…ごめんね」

黙って朝食を食べ始めようとすると、何かに気付いた東堂が「違う、そうじゃない!」と立ち上がり、荒北に「うるせえ!」と怒られた。

「…まあ友達なら致し方あるまい」
「何の話だ」
「朱堂さんが元総北のマネって話」
「え、なに?朱堂ってチャリ部マネしてのか?」
「う、うん…」
「走りもしていただろ」
「……フク?」
「もう走らないのか奏」

メンバーの目線が奏に集中する。
奏は父親がロードの選手をしていて、その縁があって以前は家族で付き合いを福富としていた。小学校に上がる前からの付き合いで一緒に遊んだこともあるし、一緒に自転車に乗ったり、レースに出場もした。幼い時からの付き合いでお互い呼び捨てにしていたこともあるが、奏の父がレースで亡くなってからは交流もなく、久々の再会はこの箱学だった。

「…寿一には、関係ない」
「……そうか。でもオレはまた一緒に走りたいと思っている」
「ちょっと待て、話が見えん。見えんぞ…フク、そして朱堂…!」
「東堂お前黙れ…福ちゃん、どういうことだよ」
「オレもわかんないんだけど寿一…」
「というか、二人とも呼び捨て…」
「簡単に言えば、父親同士が仲良くて、小さい時に一緒に遊んだりとかして…」

簡単に関係を話せばぽかんとする面々。言えばドラマの様な話だろう、少女マンガを読むかは知らないが、いえばよくあるドラマ。

「…なら、朱堂もロードに乗れるのだな」
「成績は悪くない」
「…転校してからあんまり乗ってないし…メンテも最近してないし…」
「ならオレが見てやる。ロードあるだろ、隠しても無駄だ知っている」
「それなら話は早い、8時半に部室前に来い朱堂。来なかった場合校内放送かけるから覚悟しろ」
「え、ちょ…」
「それいいな、女子と一緒に走ってみたかったんだよ。あと朱堂さん、奏って呼んでもいい?」
「なれなれしぞ隼人!オレだってまだ…」

自分が置いてけぼりを食いながら、なぜは話が進んでいる。これは良くない流れだと気付いた奏は「ちょっとまって」と抗議の声を上げるが、ちらっと見られるだけだ。
あわあわとしていれば、少し可哀想だと思われたのか荒北が「朱堂が困ってんぞ」と言ってくれる。

「わ、私…」
「まだ好きなんだろう」
「………べ、別に」
「ならどうしてIHに行った」
「そ、それは東堂くんが、箱根開催だからって…それに、あっちの学校の人も、いるかなって思って…」
「見てどうだった」
「………」
「面白かったんだろう」

小さく奏が頷く。
父親が死んでからは母親が思い出すからと父の乗っていたロードと処分しようとしたが、奏がそれに反対した。自分が乗っていたロードが大好きだが、それと同じくらいそのロードも大好きで、それを奪われたくはなかった。だから無理やり自分の体に合うように調整してもらってからそれに乗っていたし、成長してからは小さいころに乗っていた物を後ろ髪をひかれながらも処分した。それからはずっと父親のロードに乗っていたが、母親が再婚する時に大会への出場はしなくなった。

「ここで個人的走る分には誰にも何も言われないだろ」
「…どこまで知ってるの」
「何も知らない。奏の顔を見て思ったことを言っただけだ」
「メットも、グローブもないし、シューズだって」
「貸してやる」
「…私と寿一の身長と私の身長考えてよ」
「……昔は同じくらいだったからな」

空気も話も読めていない東堂だけが「二人の世界に入るな!」と騒ぎ立てた。



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