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 半熟満月

「あれ?葦木場くん…」

うわああ!と大きな体を小さく丸めていた葦木場くんは、それは見事に驚いて跳ねた。そしてそろーっと私の顔を見て、涙を流しそうな頼りない顔を覗かせた。

「ご、ごめんね、そんなに驚くとは思ってなくて…」
「大丈夫です、すみません…」
「どうしたの?練習終わってるよ」
「え、あ…はい。朱堂さんは…」
「ミーティングが今終わって、洗濯物を取り込もうと思って」

私が上を指差すと、それに習って上を向く葦木場くん。すると「あ」と言ってにゅっと立ち上がり、物干し竿に届きそうな大きな手で洗濯物を集め始める。

「ありがとう」
「こんなことくらいしか、出来ないんで…」
「そんなことないよ、私には出来ないし。干したりするのも大変だもの」
「あの、手伝います」
「いいの?」
「……はい」

背が高くて、腕の長い葦木場くんは私が集める時間よりもはるかに短い時間に洗濯物を集めてくれた。
そういえば葦木場くんは最近私の手伝いをよくしてくれる。彼はマネージャーとして入部したのではなく、確か選手だ。先輩に背が高いからかよく絡まれているを見掛ける。多分、先輩も先輩なりにフラつく葦木場くんを気にしてくれているのだと思う。

「ね、朱堂さん…」
「ん?」
「朱堂さんは、さ…オレが、朱堂さんと同じマネージャーだと、嬉しい?」
「んー、嬉しい…かな?後輩くんたちは私の手伝いをしてくれるけど、やっぱりマネージャーの私の仕事だし、仲間がいるのは助かるかな」
「じゃあ、オレ…朱堂さんのお手伝いしようかな…洗濯なら最強だし…」
「……ねえ葦木場くん、葦木場くんはマネージャーになりたいの?それとも選手?」

畳んでいた手がピタリと止まった。ああ、やっぱりなーと私は思った。誰かが彼に言ったんだ、選手に向いていないとか、マネージャーになった方がいいとか。

「自転車…上手く乗れない…から…」




「て事があったの」

昨日の話を同じクラスの新開くんと福富くんに話す。
いつもならお昼は女の子の友達と食べるんだけど、今日は部活の相談があるからとこの二人とご飯を食べている。相変わらず新開くんのご飯の量は半端なくて、これが全部入っちゃうのか…と溜め息が出そう。

「で、おめさんは何て返したわけ?」
「やりたいことは諦めない方がいいよって。でも私のお手伝いはいつでも待ってるから、いつでもいいよ。も、かな」
「ふーん」
「葦木場くん、辞めちゃうのかな…」
「わかった。俺が話してみよう」

福富くんの一言に新開くんも頷く。
これで多分、大丈夫だと思う。あとは葦木場くん次第だ。
私は特に仲の良いという訳ではないけど、よく手伝ってくれる葦木場くんとは話す頻度は高い。だから多分、それで気になってしまうんだと思う。

「なあ朱堂、次の調理実習の菓子くれ」
「そんなに食べててまだいるの!?」
「俺も欲しい」
「私の分なくなるから…やだ。自分のだけで我慢して」



「朱堂さん!あ、あの…」
備品の在庫確認していると、数日前にマネージャーになろうかな。なんて言っていた葦木場くんがなにやらモジモジしている。大きな身長には似合わないその格好になんだか可愛いなあなんて思ってしまった。

「どうしたの」
「オ、オレ、やっぱり選手目指します!」
「そっか。頑張ってね」
「えっと…その、新開さんに聞きました。あっと、その…あ、ありがとう、ございました」

勢いよく下ろした頭の先には積んであった備品にガン!と良い音をさせてぶつけてしまった。幸いその備品は軽いもので、壊れるものでもない。当の葦木場くんは「あああ…」と床に転がった備品にあたふたしている。

「大丈夫?」
「あ、はい…片付けなきゃ」
「今在庫の確認しているところだから終わったら私がやるからいいよ」
「でも」
「ついでだから大丈夫だよ。ほら、練習練習!」

床に散らばった備品を避けて葦木場くんの背中を叩く。大きな背中は思ったよりも良い音をだして部室に響き、あまりの良い音に私も驚いてしまった。

「ごめん、痛かった…?」
「大丈夫です。朱堂さんありがとうございました!練習行ってきます!」

私何もしてないよー。と声をかけたけど、多分聞こえていない。
私も後で福富くんと新開くんにお礼を言おう。私だけじゃ葦木場くんの背中を押せなかったし、きっと彼も私と同じマネージャーになってしまっていただろうから。


御題:休憩



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