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 欲しいのはそれじゃない

「どういうことだ!」

東堂は巻島と一緒にいる奏に問う。
前もって言っておいたポイントに奏は確かにいた。そして応援もしてくれた。それは事実だ。しかし問いたいのはどうして奏が巻島を知り、一緒に応援をしたのかということだ。

「そうだ、これやるよ」
「え、いいの?」
「それオレが巻ちゃんにあげた花!」
「いらねえし」

ほらよ。と奏に渡せば東堂を気にしつつ「あ、ありがとう…」と遠慮げに受け取った。少しばかりギリギリと東堂の歯ぎしりが聞こえた気がしたが、巻島は無視を決め込んだらしい。

「ま、まあいい…で、どうして朱堂と巻ちゃんが仲良さげなんだ!」
「そりゃ…一応仲間だったしな」
「…仲間?」
「知らねえのか?朱堂は一年の時部活のマネージャーしてたんだよ」
「…は?」

なあ。と巻島が奏に振れば奏は控えめに頷く。

「な、なぜ言わなかった!」
「えっと…特に理由はない、けど…」
「どうして箱学のマネージャーにならなかった!同じ自転車競技部ではないか!」
「いいじゃねえか、んなこと。つうか尽八うるさいっショ」
「うるさくない!」

まるで地団駄だ。奏から見れば二人は長身で細身。その二人ががいがみ合うわけではないが子供のケンカの様にしている。一方的に怒っているのは東堂なのだが、その温度差がまた東堂をヒートアップさせている。

「巻島くん、金城くんとか田所くんとも話したいんだけど」
「奏、オレのカラーゼッケンを見ろ!」
「声かけてやるからここら辺にいろよ」
「巻ちゃんとの最後の勝負に勝ったんだぞ!」

キッと東堂を睨んで奏が会いたいという二人を呼びに行く巻島。そしてグイグイとカラーゼッケンを奏に見せつける東堂。遠巻きに東堂ファンクラブがいるんだろうなとあまり考えたくない頭の隅で考える。

「す、すごいね…カラーゼッケン」
「そうだろう!巻ちゃんがいてこそのカラーゼッケンだからな!」
「東堂くん、戻らなくていいの?」
「問題ない。集合まではまだ時間がある」
「そ、そっか…」
「その花、ちゃんと飾ってくれ。オレと巻ちゃんの結晶だ」
「……そ、そうだね」

その変な表現やめた方がいいよ。と喉元まで出かけて飲んだ。それ本人いたら絶対嫌な顔されるよ…と奏は目をそらしながら思う。
悪い人ではないのは奏もよく知っている。真っ直ぐというのだろうか、それとも怖いくらい素直なのか。よく会話の中で出ていたマキちゃんがまさか巻島祐介だとは思ってもいなかったが、あの二人の走りを見た奏はなんとなく納得した。

「尽八、ちょっと…あれ、確か…朱堂、さんだっけ?」
「ああ隼人、そうだ朱堂奏、オレの隣の席だ」
「お疲れ様、えっと…新開くん、だっけ」
「なんと、隼人を知らないのか?」
「知ってるけど、話したの初めてだし」
「ロード興味あるの?朱堂さん」
「聞いてくれ隼人、朱堂は前の学校で自転車競技部のマネをしていたんだと」
「ひゅう!じゃあ」
「だたもうすぐ俺たちは引退という…」
「…ひゅう」
「新開くん、東堂くんに用事じゃないの?」
「そうだそうだ、メンバーミーティング始まるぞ」

何!?と声を声あげる東堂。どうやら急遽明日の事についてのミーティングが入ったらしい。学校に戻ってからでもよさそうな気もするが、善は急げということなのかもしれない。その事情は奏にはわからないので黙って二人の会話を聞いていた。

「フクめ…まあミーティングならば仕方あるまい。朱堂は一人で大丈夫か?」
「え、ああ…うん。みんなくるし、大丈夫」
「友達と来てるの?」
「それがな、朱堂は元総北なのだ」
「え」
「この件に関しては後日。いいな朱堂」

では!と二人は人ごみに消えて行った。
それから暫くして携帯が鳴るのでディスプレイを見ると「巻島祐介」と友達を呼びに行った名前がチカチカしている。どうしたのかと思って出れば、急を要する連絡が飛び込んだ。


「わりぃ朱堂、田所っちのところにいてやってくれ」
「でも私総北じゃ…」
「大丈夫だ、そこまで厳しくない。彼女だって言っとけ」
「わかった…っえ」

連絡を受けて急いで救護テントの前に行くと、出入り口に巻島が顔を青くしている。話では点滴を受けている田所がいて、自分はそれをメンバーには言うなと言われているらしい。それにメンバーが二人も戻らないとなれば明日に影響されるから田所と一緒にいてほしいと言われたのだ。

「…田所くん、具合どう?」
「…おー、朱堂か」
「巻島くんは戻ったよ、私が付添うね」
「帰らなくて、いいのか?」
「どうせ寮だから平気。門限は9時だし」
「………悪いな」
「悪くないよ、元仲間でしょ」

顔色の悪い田所が横たわり、その太い腕には痛々しく管が繋がっている。最近の田所を奏は知らないが、一緒に自転車に乗っていた時の田所を思うと心が痛む。
巻島からは金城にも言うなと言われているが、本当に言わなくていいのだろうか。今日のカラーゼッケンを持っているメンバーが一人いないというのは大きな痛手だろうと奏にもわかる。

「それ、巻島からか?」
「うん、いらないからって」
「オレのもやりたいけど、今なくてな…」
「明日もまた見に来るから。その時ちょうだい」

欲張りめ。と力なく笑う姿が痛々しい。しかし奏も気を使っている田所を気遣い、一緒に笑う。

「表彰見たよ、恰好良かった」
「今悪いってか?」
「具合が悪いんだから仕方ないよ」
「……情けねぇな」
「そんなことない。私の方が情けないよ、ずっと逃げてばかりだから」
「……もう、乗ってないのか」

うん。と小さな奏の声が落ちた。



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