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「#エロ」のBL小説を読む
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 恋しい恋しい

「そういえば荒北は朱堂を恋しがっていたぞ」
「はぁ!?てめ、金城何言ってやがる!」

静岡に遊びに来ていた早明へ進学した福富と朱堂と新開。そして同じ大学に進学して同じサークルに入っていた金城と荒北とで一緒に食事をしていた時の事だ。いきなり金城が言うので荒北は何事かと焦る。

「え、なんで?」
「なっ!別にそんなんじゃないからネ!朱堂ちゃんの事好きだけど」
「荒北、朱堂の事が好きだったのか」
「福チャン!?いや、だからそういう好きじゃなくて」
「じゃあ嫌いなのか靖友」
「うっせ新開お前は黙ってろヨ!」
「金城くん、それとって」
「朱堂は少し会話に加わろうな」

朱堂に手渡すと朱堂は特に気にする様子もなく「ありがとう」と礼を言う。
それとは反対に元箱学メンバーはヤイのヤイのと荒北を弄る。それには朱堂も慣れているのか、加わる様子もなくそれを見ていたり金城と会話を始める。

「だって、勉強の事でしょ」
「よく分かったな」
「高校の時先生してたから」
「らしいな」
「頭悪くないんだけど、苦手みたいでさ」
「朱堂は頭良いらしいな」
「良くはないよ、勉強がちょっとできるだけだし」

荒北から聞いた話では定期考査では上位だと聞いていた。それを頭が良いと言わずになんと言うのかを聞いてみたいが、朱堂にしてみればそれは頭が良いとは言わないらしい。

「だから違うんだって、」
「でも私荒北くんの事好きだよ」
「え」
「仲間思いのいい人ですよ、荒北靖友という青年は」
「朱堂はなかなかに意地が悪いな」
「オレも朱堂の事好きだぜ。飯作ってくれるしレポートの手伝いしてくれるし」
「新開てめぇ…朱堂ちゃんに頼りすぎだろ羨ましい」
「それを羨ましがっては駄目だろう…朱堂は新開に甘いと思うが」
「あのね福富くん、練習終わって私の部屋の前で腹減った腹減ったってドア叩かれてみるとわかるから」

その一言に朱堂以外の視線が新開に集中する。当の新開は少しだけ可愛い子ぶってテヘっと笑って誤魔化している。それは福富も知らなかったのか、深いため息をついている。

「二人は付き合っていたのか…」
「え、そこ!?違うよ、付き合ってないよ。どちらかと言えば…子守り的な」
「あー」
「お母さん!」
「そこはお姉ちゃんにして隼人」
「!」
「新開が固まった」
「不意の下の名前呼び捨てか」
「だってお姉ちゃんですから」

皆であはははと笑って好きに食べて飲む。相変わらずベプシ好きだなとか、朱堂相変わらず食べないとか、勉強はどうだ、講義はどうだ、サークルはどうだと近況報告の様な、ただの話の様な、そんな会話をして楽しんだ。
金城と朱堂のかかわりは今までほとんどないが、大学に進学してからの大会から少しだけある。それからは荒北を通じての交流をし、朱堂から「よかったら連絡先教えて」と荒北経由で打診がってそれから個々にメールをするようになった。メールと言ってもさほどすることもないが、大会の予定やたまに福富の写真が送られてくる程度だ。

「で、朱堂ちゃんドコ泊まんの?」
「荒北くんとこに」
「えっ!」
「嘘嘘、金城くんとこ」
「初耳なんだが…というか、男の部屋にだな」
「え、ちょっと待って。なんで皆本気にしてるの?冗談に決まってるでしょ」
「…朱堂の冗談は難しい」
「最近朱堂の唐突さに磨きがかかってるから」
「よし、新開くんもうご飯も作らないしレポートも自分で頑張ってね」
「お姉さま!」
「隼人、自分でやることが大切なのよ」
「レポートは最悪、でも飯は、飯だけは!!」

泣きつく新開に福富ガードが展開して朱堂はそのかげから笑っている。それが早明での日常なのだろうと金城には思えたし、荒北も箱学からの延長に見えるらしい。

「まあ朱堂ちゃんの菓子美味かったからな」
「ありがと」
「朱堂は料理得意なのか?」
「朱堂の飯はうまい」
「え、福チャンも食べてんの?」
「たまに新開に誘われて行くが、そんなに頻繁に新開が行っていたのは知らなかった」
「食費の2/3は新開くん持ちだけどね」

外に出れば街灯が灯り、道は少しだけ賑わっている。歩いているのはだいたいがカップルか大学のサークルの集まりとか、何かしらの集まりの集団、そして会社帰りの社会人。
明日は明日でこのメンバーで集まる予定になっているし、朱堂は自分でビジネスホテルを取っていると言っていたし、他二人は荒北のところに泊まる。

「荷物は?」
「みんなで荒北くんの部屋」
「ロッカー替わりか」
「朱堂のホテルは何処だ?」
「駅の近くだよ」
「じゃあオレが送ろう」
「え、いいよそんな」
「一人歩きは危険だから金城の言葉に甘えろ朱堂。それに土地勘だってないだろう」
「…じゃあ、金城くんお願いします」
「朱堂、明日は靖友の部屋で朝ごはん!」
「ごめんね新開くん、朝食付きだから」

荒北のアパートまで行き、朱堂は荷物を持って三人と手を振って「また明日ね」と別れて金城と歩く。荷物を持とうかと金城が申し出れは「自分のだから、ありがとう」と断られた。

「明日は何時にチェックアウトだ?」
「予定だと8時〜9時だったと思う」
「そのくらいに迎えに行こう」
「えー、いいよそんな」
「気にするな、朱堂が居れば荒北の部屋に行っても嫌な顔されないだろ」
「意外と策士だね」
「朱堂には及ばないが」
「私策士かな」
「手なずけているし、手のひらで転がしているだろ」
「それ悪女みたい…」
「…そうだな、撤回だ」

なんとなくだが、金城は荒北が懐いた理由を知った気がした。



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