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 白昼夢

「…朱堂」
「どうした?」

目の前の男子は確かに返事をした。朱堂と呼んで、どうした、と。
朱堂は男だっただろうか。ただそれが頭によぎって言葉が詰まった。
朱堂は部活のマネージャーをしている。それは間違いない。男ばかりの部活で荒北と同じ、もしかしたらそれ以上に世話焼きで、そしていつも影で支えてくれていた。

「どうした福富、おーい?」
「あ、いや…」
「熱あんの?具合悪いなら休めよ、悪化したらお前だけが困るんじゃないんだから」
「大丈夫だ、ああ…大丈夫」
「荒北ー、福富具合悪そうなんだけど」

遠くで「えーマジかヨ」と荒北が驚いた声を上げている。そしてバタバタとうるさい足音を立ててくるのが聞こえる。

「福ちゃん大丈夫?」
「あ、ああ…ただ、なんだか違和感があって」
「やっぱ風邪か?部活休むか?」
「朱堂、お前男だったか?」

その言葉に朱堂だけではなく荒北までが固まった。そして二人はお互いに顔を見合わせて、そしてまたオレの顔を見てきてそれはそれは心配そうな顔をしている。

「荒北、やばいぞ、やばい」
「ああ…福ちゃん、朱堂は男だ。一緒に風呂だって入ったことあんだろ?」
「新開ー!寮に戻って福富の寝る準備しろー!!」
「どうしたんだよ」
「福富がオレを男か疑い始めた」
「それはヤバい」

寿一熱があるな!と力強く頷いた新開が一目散に寮に走る。
どうやらオカシイのは自分らしい。朱堂は元から男で、女だと思っていたは白昼夢でも見ていたオレ自身らしい。真波よりも小さくて、ここの誰よりも高い声でちょこまかしていたのは妄想の産物と言っても過言ではない、そんなものなのだろう。

「どうした部活の母二人」
「福ちゃんが熱がある」
「フクが?」
「オレを男かどうかと疑い始めやがった…!」
「それは重傷だ、どうしたんだフク!何か変なものでも食べたのか!?」
「大丈夫だ、ちょっとした白昼夢を見ていたらしい」

そうだ、朱堂は男だ。文化祭で女装をして盛り上がり、新開が朱堂が女だったら可愛いだろうなって爆弾を落としたら今度は東堂が俺の方が似合う!と張り合ったんだ。それに朱堂と合宿で一緒に風呂にも入ったし同じ部屋で寝泊まりもした。どんな女が良いかとか、男同士の話もたくさんしていた。

「朱堂が女になる夢か?」
「違う、朱堂が女の夢だ」
「げぇ、朱堂が女とか。まあ女だったらモテるな」
「ゲッて言ったくせにそれかよ」
「まあ朱堂は炊事洗濯できるからな、それにサポート能力もいい」
「あとは顔か」
「可愛かったぞ」

ついでに身長やどんな体型で、髪型や顔立ちも夢の中の朱堂について話してみる。
勉強の良し悪しまでは覚えていないが、たぶん成績は良いのだろう、目の前の朱堂と一緒で。

「マジで、それ可愛いじゃん朱堂」
「オレには敵わんがな」
「比べるのが間違いだろ東堂」
「寿一…あれ、具合もういいのか?」
「白昼夢見てたんだと。まったく人騒がせだよな、悪かったな新開」
「いや、いいんだけどそれなら。で、どんな白昼夢だったんだ?」

同じように新開にも話してやれば、新開は他とは違って羨ましそうにしている。夢の中の朱堂は部活で唯一の女子だったからそれが羨ましいのだとは思う。
そういえば夢では新開と仲が良かったような、そうでもない様な。どっちだっただろうか。

「何それズルいぞ寿一」
「ズルい?」
「オレも女の子の夢みたい…」
「変態」
「男子としては当然だろ!?」
「本人目の前にして言うのが変態だっての、ファンクラブいるんだからそこから彼女作れよ」
「ファンクラブに手を出すのはご法度だぞ朱堂」
「オレにはそんなのいないから関係ないね」
「知ってるか朱堂、お前男子にファンクラブあんだゼ」
「なん…だ、と…?」

男に人気があるというと誤解を受けるかもしれないが、朱堂には部活内では人当たりもいいし気遣いもできるし本気で皆を心配できる存在だ。だからこそのファンクラブにないなものがある。東堂や新開の黄色い声がでるものではないが、だからこそサポートでさえもあれだけの団結ができる。

「なんだ、思ってたの違って良かったマジ良かった」
「どんなのだと思ってたんだ?」
「東堂とか新開のファンクラブの男版」
「それはツラいな」
「応援してくれるのは良い事だと思うが」
「福富はズレてんだよ」

どうせファンクラブがあるなら女の子にキャーキャー言われたい。朱堂の気持ちもわからないではないが、応援してもらえるだけ良いと思う。





「…く……み、く…福富くん」
「あ…?」
「やっと起きた。珍しいね、講義中に寝ちゃうなんて」
「昨日の疲れが出たか寿一」

笑っている新開と朱堂がいる。周りを見れば大学の講堂で、講義が終わってすぐなのか学生がまだざわついて退室している姿が目立ち、二人はカバンを持っている。目の前の黒板は色々と書かれて消しての繰り返しがあったらしく白く濁っているし、机の上には途中まで書いてあるルーズリーフにペンが出ている。

「…朱堂」
「ん、なに?」
「……女、だよな」
「うん、私女だよ」
「どうした寿一、朱堂は高校の時から女子だぜ」
「生まれた時から女だよ!」
「そう、だよな。ああ、そうだ」

すまない、夢を見ていた。と言えば朱堂が「寝言言わなくてよかったね」と笑った。



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