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 あなたの名前

「ねえねえ朱堂さん、オレの下の名前知ってます?」
「知ってるよ、私マネージャーだよ?みんなの名簿とか作ってるんだから」
「じゃあじゃあオレの下の名前、なーんだ」
「拓斗」

朱堂さんのマネージャーの仕事を手伝いながらの雑談。背が高いオレが洗濯物を取り込んでくれるとすごく助かるとよく言ってくれる。自転車に乗るのには邪魔なこの身長も、他の人より少しだけ朱堂さんの役に立てると思うとうれしい。

「朱堂さんの下の名前ってなんですか?」
「あれ、知らないの?」
「はい」
「そっか、葦木場くんひとつ下の学年だもんね。そんなもんか」
「名前、なんていうんですか?」
「奏、朱堂奏だよ」
「…奏さん」

うわ、なんか恥ずかしいっていうか照れるね。とはにかむ姿はひとつだけ学年が上っていうだけのほとんど同じ年の女の子だ。
部内で朱堂さんの下の名前を知っている人って朱堂さんと同学年の人以外には少ないのかな。選手の人は校内での表彰で聞くこともあるけど、マネージャーの朱堂さんがそいういう場に立つことはないに等しいし。

「泉田の名前は?」
「塔一朗」
「じゃあユキちゃん」
「雪成って、半分はヒントになってるよ」
「あ、そっか」

笑いながら朱堂さんは洗濯物を畳む。日焼けをしないようにとよく日焼け止めを塗っているので選手の様に黒くなくて、でも白いというわけでもない手がしなやかで綺麗。ピアノの鍵盤の上だともっと綺麗なんだろうなと思うけど、朱堂さんはピアノは弾かない。

「えーっと、福富さん」
「寿一」
「新開さん」
「隼人」
「東堂さん」
「尽八」
「荒北さん」
「靖友」
「すごーい」
「マネージャーですし」

漢字だってバッチリだよ。と最後の洗濯物に手をかける。あれだけ多かった洗濯物もオレよりも多く畳んでいる、すごい。しかも綺麗に畳まれているから、自分のやったやつと見比べるとどうしても汚く感じる。朱堂さんは大丈夫だよって言ってくれるけど、なんだか恥ずかしい。

「葦木場は朱堂の手伝いか」
「お疲れ福富くん、そうそう手伝ってもらってたんだ」
「お疲れ様です。でも全然ダメで…朱堂さんみたいにできないや」
「なれると大丈夫だよ。福富くんはどうしたの?」
「テーピングが欲しい」

わかった。と部の備品が入っている棚のところまで行き、朱堂さんは福富さんにどの太さが良いのか聞いてそれを出して渡す。その棚はマネージャーである朱堂さんのモノって言ったら少し変だけど、朱堂さんだけが触れるところになっている。だから誰かが勝手に触ると朱堂さんはすぐわかるし、備品の管理ができないからと触った場合はすぐ言ってと怒っている。

「あと、さっき荒北がボトルが壊れたと言っていた」
「わかった、準備しておくね」
「ああ」
「…福富さんの下の名前」
「寿一。コトブキに一」
「どうした葦木場」
「さっき朱堂さんとの話の中でちょっと」
「私みんなのフルネーム知ってるって話してたの」

そうか。と少し不思議そうにして福富さんは出て行った。朱堂さんもたまに変なことを突然始めたりするからその延長だと思われたのかも知れない。でも朱堂さんは変人ではないし、むしろ頭がいい人で勉強を教えてくれたりもする。

「朱堂ちゃーん」
「ボトルだね」
「もしかしてエスパー?」
「さっき福富さんが言ってました」
「なんだ葦木場も一緒かよ。そうそうボトル壊れたんだよ」
「落としちゃった?」
「ゲージが甘くてサ」

予備のボトルと渡しているときにさっき福富さんにしていたことと同じことしてみる。
するとやっぱり福富さんと同じように朱堂さんは簡単に答える。

「靖友、立つ青に友達」
「…どうしたの朱堂ちゃん」
「朱堂さんは部員のフルネームと漢字を知ってるって話してて」
「ふーん。オレも知ってるヨ、朱堂奏ちゃん」
「ひゃーはずかしっ」

なんだかオレよりもずっと気軽に呼べる上級生が少しだけ羨ましかった。



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