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 ばきゅん

「朱堂、ちょっといいか?」

部活の休憩時間に朱堂を呼び止めてちょいちょいと手招けば、朱堂はいつもの様に「なに?」と寄ってくる。今は特に仕事もないのか手には何も持っていないし、休憩が終わってからも今日は部誌を書くくらいだろう。

「どうしたの?」
「オレのバキュンポーズして」
「…こう?ばきゅん」

頭を傾げながらバキュンと打ち抜くポーズをまねる朱堂。うん、いいと思う。
そして本題というか、目的は朱堂にバキュンを部員にしてもらうこと。言えばただの暇つぶしだ。
やろうと思ったきっかけは靖友に「そのバキュンは新開がしても面白くない」と言われたからだ。面白さを求めているわけじゃないが、まあいいやと思って朱堂に声をかけた。朱堂以外はたぶんしてくれなさそうだし。

「よし」
「う、うん?」
「じゃあ、まずは…靖友!」
「んだよ!」
「朱堂、靖友に向かってバキュン!」
「え、あ…ばきゅん!」
「…おい新開、朱堂ちゃんになにさせてんの?お前」
「可愛いだろ」
「可愛い」

ありがとう。と朱堂が笑う。今ではこれが普通だけど、入部当時はガッチガチだった朱堂を思い出すと面白い。声をかけるだけで飛び上がってたんだもんな。

「で、なにしてんだよ」
「靖友に言われたから朱堂にしてもらってる」
「なに言ったの?」
「朱堂ちゃんは知らなくていいのぉ」

靖友の目が「よくやった」と言っている。この部で唯一の女子の使い方を知っているだろ、オレ。いまいちよく分かっていない朱堂に今度は尽八に向かってもう一度と声をかける。

「尽八!」
「む?」
「ば、ばきゅん!」
「甘い!この美形にそんなもの通じるか!」

逆にポーズをとるあたり本当尽八だと思った。これは面白くない。靖友も同じなのか目が死んだ。
そんな尽八はただ朱堂で遊んでいるように見えたのかさっさと自分の休憩に入ってしまった。尽八らしいといえばそうだけど、面白くない。
そして次に寿一が見える。

「寿一!ちょっとちょっと」
「…どうした」
「バキュン!」
「新開の真似か朱堂」
「非常にクールな返しをされました先生!」
「さすが寿一、ぶれないな」
「福ちゃん通常過ぎる」

意外と乗ってきたのか、朱堂のバキュンに恥じらいがなくなった。そして靖友も見ている。でも寿一の反応がイマイチだ、どうした寿一。というか本当いつも通りで面白くない。

「可愛いだろ」
「否定はしない。何の遊びだ」
「よくわかんないけど、新開くんのバキュンをして遊んでる」
「福ちゃんもバキュンしてみ」
「…バキュン」
「福富くん格好いい」
「やっぱかっけーな」
「オレの、オレのバキュン」

新開くんも恰好良いよ。と朱堂が慰める。違う、違うんだ、そうじゃない。
寿一も特に興味はないのか自分の休憩に戻ってしまった。寿一は付き合ってくれると思ったんだけど計算違いだったらしい。でも靖友がいるからいいか。

「新開くん、葦木場くんにもする?」
「おう。葦木場!」
「…新開さんと、朱堂さんと荒北さん?」
「ばきゅん!」
「朱堂さぁん!」
「ちょ、葦木場くん!?大丈夫!?」

ふらぁ…とその場に倒れこむ葦木場。朱堂は驚いて駆け寄るが、葦木場の腑抜けた顔に戸惑っている。ビックリするほど幸せそうな顔だ、これはバキュンにやられたな、確実に。靖友もそう思っているのか「仕方ねえよな」と呟いた。

「葦木場くん、どうしたの大丈夫?」
「朱堂さん…それ、どうしたんですか」
「よく分かんないけど新開くんと荒北くんと遊んでた。怪我してない?」
「だいじょうぶです…へへへ。朱堂さん、もう一回」
「葦木場、おひとり様1回までだ」
「えー!」

だって新開さんとか荒北さんは何回も見てるんでしょ?と言ってくるが、その幸せそうな顔がどうも腹が立つから嫌だ。戻れと靖友が葦木場をつつき、葦木場はとぼとぼと行ってしまった。
次に泉田と黒田がいる。この二人はどうだろう。

「泉田、黒田」
「はい?」
「え、ばきゅん!」
「ぶっ!」
「吹かれた!?」

泉田はあははと笑っているが黒田が吹いた。まさか朱堂がオレの真似をするとは思っていなったんだろう。朱堂が大丈夫?と聞けば「驚いただけです…大丈夫です」と笑っている。

「新開さんの真似ですか?」
「うん」
「朱堂さん可愛いですね」
「当たり前だろ黒田。朱堂ちゃんはチャリ部一可愛い」
「真波くんもかわいいよ」
「あれ男じゃん」
「休憩中悪かったな二人とも」

それじゃ。と休憩に戻る二人を見送る。
泉田と黒田はまだ朱堂の話をしているらしく、朱堂さんというワードが聞こえてくる。まあ部内での唯一の女子だし、それは仕方ない。

「まだやるの?」
「次で終わりにするか、オレも休憩したいし」
「ならもうやめようぜ、朱堂ちゃん部誌書いた?」
「まだ」
「…お?」

最後には誰にしようかと思っていると、やってきたのはさっき話題に上がった真波だ。いつもの様にふわふわとしている。真波は真波で朱堂に懐いているし、葦木場とはまた違った反応をするかもしれない。

「朱堂、真波で最後にしよう。おーい、真波」
「はい?」
「ばきゅん!」
「わー朱堂さーん、ばきゅーん」
「け、計算外です先生!」
「さすが真波、不思議チャンだな」

やり返して嬉しそうにやってくる。そして同じように「何してるんですか?」と聞いてくるので朱堂も同じように答える。
最後の〆としては、どうも面白くない。最後が真波だから面白くないのか、その反応が面白くないのか。

「うーん、やっぱり真波くんの可愛いね」
「朱堂さん可愛いですよ、ねえ荒北さん新開さん」
「当たり前だろ、朱堂ちゃんだしィ?」
「真波くんには敵わないね」
「え、朱堂そういう系が好きなのか?」
「ん?」
「朱堂の浮気者!」

クサイ演技でワッと泣き真似をして走り去ってみると靖友たちが「朱堂ちゃん新開と付き合ってんの?」「ううん、んなわけない」「ですよねー」と会話していた。誰か付き合ってくれてもいいと思う。



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