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「#エロ」のBL小説を読む
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 愛しの○○

「思うに、朱堂は天統なのではないだろうか」
「テントウ?虫か尽八」
「天統を知らんのか」

頷く新開にオレは溜め息が出たが、よくよく考えてみれば天統は伝説かお伽噺に近い存在であり、またついでに言えば古くから続いている山神であるオレ達くらいしか知らないのかもしれない。

「天統とは『天を統べる』と書く。男の天統を御天統ともいうが、特に女は特別に天統姫と呼ぶ」
「で、朱堂がそのテントウキだっていう理由は?朱堂はただの人間だろ?」
「天統とはその種の繁栄を司る存在で、それは人のみに現れる。人であるが故に人から無条件に愛され、またこちら側からも愛される。隼人が人間の血を多く引いているがまだ鬼としての能力の色が濃いのは天統が居たからだろう。勿論オレの一族もそれが言える」

だからなんだ。と言いたげに新開がオレを見る。
朱堂は確かに普通の人間だ。目立って身体能力が高いわけでもない、頭はいいがそれはオレ達にはあまり魅力ではない。しかしその頭の良さは人間には魅力でもある。確かに朱堂は可愛い。その可愛いという感情は親愛であって恋慕的ではない、恐らくは。

「変だと思ったことはないか?たかが人間の子供にオレ達があそこまで構うのは」
「オレは尽八と違ってどちらかと言えば人間よりだからな。朱堂にそういうのを思ったことはないぞ」
「……そうか。荒北だってこちら側だぞ?」
「靖友は犬科だから人間に懐くのも変じゃない」
「………烏の真波」
「あー、でもアイツの事だから気紛れじゃないか?」
「ではフク!」
「寿一は人間だから人間の女の朱堂に惹かれるのは普通だろ」

言われてみればそうかもしれない。
荒北は犬だか狼だから人間と長く共存してきた一族だ。人間の歴史でも有名な主従関係はだいたいどちらかが犬という場合が多いのも確かだ。現に荒北はロードでは人間のであるフクの良き相棒をしているし、朱堂にもよくなついている。
烏である真波は気紛れだ。他の人間よりもまあ朱堂になついている感じはあるが、言われてみれば目立って朱堂になついているわけではない。

「朱堂は天統姫だと思ったんだかな」
「その天統姫だったらどうなんだ?」
「嫁に貰えば繁栄する」
「山神らしい考えだな」
「オレは男で朱堂は女だからな。御天統だったら無理だが」
「まあこっちの筋はだいたい男が力強いしな」

女に強く出る場合もあるが、それは雪女の様な場合だ。基本的には男にその力が強く出る。恐らくはその力の影響がどちらの性別に出やすいかなのだろう。そういうものなのだ。

「朱堂さん天統姫ですよ、多分」
「真波、お前天統姫を知っているのか?」
「ええ、まあ」

公共の場、といってもこちら側しか入れないように結界を張っていたので、こちら側の公共の場で話していると真波が会話に入ってくる。隼人が知らなかった天統姫を知っているのには驚いたが、まさか朱堂を天統姫と思っているとは。

「朱堂さん結構人気だし、朱堂さんのご両親どっちも天統みたいだし」
「…なに?」
「知りませんでした?朱堂さんのご両親凄く普通なのに知り合いが凄いの。有名社長に著名人、芸能人のか」
「あー、その天統だから朱堂はツテが色々あるのか」
「そうみたいです。匂いとかなにか目印があればきっと奪い合いですよね」

そうなのだ、天統には目印がない。
普通の人間からひょっこり生まれることもあれば、天統同士の子でも天統ではない場合もある。
子供が生まれて繁栄してもしかして、となる場合もある。その場合は力の弱い天統のだ。弱いといってもその力は繁栄には強力だ。

「…もしや、朱堂はハイブリットか?」
「かもです」
「なんで真波、おめさん天統を知ってるんだ?」
「八咫烏ですから」
「ただの烏じゃなかったのか」
「ええ、まあ。家系血が弱ってて」

両親はそんなじゃないんですけど、そっちの血筋のおじいちゃんが天統姫を見つけるのに躍起になってて。と困ったように笑っている。
もちろん天統姫は衰退している種には魅力的だと思うし、衰退していないオレ達種族にも魅力的だ。ライバルは少ない方がいいと思うが、オレ自身が朱堂をそういう目で見れるかどうかだ。朱堂の事は好きは好きだが、そういう好きとは違う。

「東堂さん狙ってるんですか?」
「種の繁栄は魅力的だろう」
「オレその天統っての知らなかったからしな」
「え、新開さん知らなかったんですか?」
「衰退してるわけでも、両親がどれだけ血筋に執着してないからな」
「でも知ってます?天統って床上手って噂」

にやりと笑う真波に真顔になる隼人。
それは天統を知っている者ならば大体知っている噂だ。ただ、噂でしかない。大体天統自体が稀なのだからそんな噂が出たのだろう。繁栄というのはそういう意味もあるが、天統が示す繁栄とは強力な子ができて幸運をもたらすという意味なのだ。

「また根も葉もない噂を」
「噂ですけどね。だって天統の繁栄の意味オレだってわかってますもん」
「隼人、その顔やめろ…」
「あ、すまん」
「新開さん今の顔すごかったですね」
「真波がくだらないことを言うからだろうが。天統の繁栄の意味は強力な子が生まれるということから来ている」
「あと色んな後ろ盾ができるんですよね」
「それ本当朱堂だな、今でさえ色々コネあるんだろ?」
「これは本当に朱堂は天統姫か」
「だからオレ言ったじゃないですか」

朱堂がいないこの場でさまざまな憶測がでるが、天統とは目印もなければ匂いもない。不確定な存在であるが故の伝説なのだ。もし朱堂が天統であって、この身近な誰を伴侶とするなら朱堂が子供を産んでやっと天統なのかがわかるのかもしれない。


※天統は勝手に考えた設定なので矛盾等あります。



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