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 矢印の通過地点

※矢印の先 続

「…本当?」
「嘘だと思うなら嘘でいいよ」
「や、やだ!!嘘、いや、本当!本当!!」

力一杯広げた両腕で朱堂さんを全力で抱きしめる。その体はやっぱり柔らかくて、そしていい匂いがする。この柔らかい感触はあのIH以来で、ずっとまたと願っていたあの夢が現実になった。

「好き、好き…」
「ありがと」
「おんなじ言葉だけど、あの時と違う」
「…そだね」

優しそうに笑う朱堂さんが、奏さんが凄く可愛くてすごく幸せだった。


そして奏さんが卒業の日、先輩たちとの勝負に勝って奏さんさんを迎えに行って、お祝いをして。東堂さんがうるさかったり、奏さんの隣に荒北さんとか福富さんとか新開さんがいて面白くなかったり。奏さんとオレが付き合っているのは秘密にしようと奏さんと話して決めたからそれは仕方がないにしても面白くない。どうして秘密なのかと聞けば、なんかいろいろ面倒そうだからという奏さんの一言にオレも納得したらだ。
そんなちょっと面白くないないお祝いも終盤で、そろそろお開きというところになって、オレは奏さんの制服の裾をついついと引っ張っる。

「…どうしたの?」
「あ?なんだ真波、朱堂ちゃんが卒業って寂しいってか?」
「真波は朱堂によく付いてたからな」
「オレよりも朱堂と一緒だというのか!」

東堂さんが変な対抗心を燃やしている。別に東堂さんは嫌いじゃないし、憧れだ。でも奏さんとは違うし、何よりどうして俺より荒北さんとか新開さんが近いのか。確かにオレよりも奏さんと付き合いっていうか、クラスとか色々な時間的に長く一緒にいるけど、奏さんの彼氏はオレなわけで。

「どうしたの、そんなムクれて」
「だって」
「真波だって寂しいんだ靖友。唯一の女子だった朱堂が卒業だ」
「美しいオレが居ないのも大きな損害だろ」
「お前は黙っとけ」

あははは。と奏さんが笑う。奏さんが笑うのは好き、でもそれオレにじゃないでしょ。
奏さんは卒業すると東京にいってしまう。次に会えるのはたぶんゴールデンウィークか夏休み。IHに来てくれると思ってはいるけど、その時は喜んでいる場合じゃないし。

「朱堂さん、まだ駄目かな」
「…あー、そうだね。もういいかな」
「なに、二人で内緒話かヨ」
「そ、私と真波くんの秘密のお話です」

人差し指で「シーッ」と静かにしなさいとポーズをとると荒北さんは笑った。
荒北さんは奏さんに優しい。聞いたところによると、色々と奏さんには借りがあって頭が上がらないらしい。本人から聞いたわけじゃないし、聞きたいなって思ってもタイミングが掴めないまま今に至るんだけど。
奏さんはオレの手を取って部室の真ん中あたりにまで行く。部員はなんだなんだとざわついて奏さんを見ている。

「おほん、えーと、ちょっといいかな。私からのお知らせです」
「真波をお供になにすんのォ?」
「実は海外留学…」
「んな!?まさかイギリスか!?イギリスなのか!!」
「ではなく、」
「実はオレと奏さん、付き合ってます!」

なんだか奏さんの行動がじれったくて、大きな声で言ってしまった。
ある人は飲んでいたモノを吹き出し、ある人は持っていたモノを落とし、ある人はただ口を開けてぽかんとしている。
奏さんは意外にも部内では人気があった。意外って言うと少し変かもしれないけど、誰も言わなくてもわかったし、言わない不文律の様なものになっていたわけで。だから誰も今まで奏さんに告白的なものをしていなかったんだと思う。

「…マジか、おめさんら……」
「マジマジ、本当です!オレと奏さんは付き合ってます」
「い、いつからだよ朱堂ちゃん!」
「えーっと、追い出しが終わって…ちょっとくらい?」
「イギリス、行かないのか?」
「行かないよ、大学の準備あるし」
「朱堂さんが真波と付き合っちゃったぁ…ユキちゃぁん…」
「おやオレにんなこと言っても…え、本当なんですか朱堂さん」
「朱堂さんが嘘言うとは思えないよユキ…」

いつの間にか奏さんと手を繋いでて、奏さんは緊張しているのかちょっと強く握ってくる。
奏さんは結構うまくオレとの関係を隠していたからこの反応は予想してた。たまにバレそうになっても、奏さんはよく「マネージャーに頼りすぎだぞ」と言ってごまかしていた。奏さんが言うとたぶん、後輩がただ甘えているようにしか見えないから大丈夫と言っていたのがよくわかる。だから皆が皆こうして驚いているんだ。

「ええー、な、なんで真波となんですか朱堂さぁん!」
「そうだよ朱堂ちゃん!なにをどうして真波と!」
「真波の何がいいんだ朱堂!」
「何がって…告白して、くれたし…」

告白の言葉に全員が固まる。そうだ、皆は好きなくせにしなかったことをオレはした。そして最初はたぶんフラれて、もう一度した。それでオレを好きになってもらった、皆と一緒の好きじゃなくてオレだけの特別の好きに。

「…い、いつの間に」
「そ、それ言わなきゃダメかな…?」
「当たって砕けて、それでも当たりました!」

だってそうだ、行動しなきゃ気づいてもらえない。きっと、奏さんも気づいてくれなかった。だから、だから。何もしないで、誰もが思うだけだったのをオレはやめた。あのままじゃ、終わりたくなくて、終わらせたくなくて。

「だから、福富さんと新開さんは奏さんに手を出さないでください!奏さんはオレのなんで!」
「ちょ、真波くん!?」
「わかった。真波、朱堂を大事にするんだぞ」
「ふ、福富くん!?」
「真波が浮気とかなんか嫌な事したら相談しろよ朱堂!」
「わかった!」
「え、ちょ奏さん!?」
「おい真波、朱堂ちゃんのカレシになったからって馴れ慣れしいんだよ!」
「だって彼氏ですもん」

意外と受け入れられた。そう思っていたけど実際はそうではなく、後で携帯のメールで色々怖い内容があったけど、それは奏さんには言わないでおく。それはきっと奏さんの事が大好きな皆が奏さんを泣かすなよっていうメッセージだったから。



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