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 勘違いと思い込み

※小野田姉



「え、なんで、なんで笑うの!?ねえ金城くん!」

奏が酷く驚いた顔をしていたので声をかけてその理由を聞けば、それはもう笑うしかできない。吹き出すようにして笑うと、奏はオレを酷く心外だと言わんばかりに吠えてくる。それも仕方ないだろう。
今日は大学に入ってから初めての大会で、懐かしい面々との再会があった。そこになぜ奏がいるかと言えば、サークルの手伝いをしてくれていたからだ。前に弟がどんなことをしていたのか気になると言っていたし、それも兼ねて声をかけると面白そうと喜んで食いついてきたのだ。

「…なんだよイキナリ…奏ちゃん、どうしたの金城」
「わかんない…っていうか、そんなに笑うことないでしょ!」
「す、すまん…いや、…ちょっと、ふ」
「奏ちゃん、危ないからこっちおいで」

荒北が久しぶりに会った福富と新開と話しているときにそれは起きた。というか聞かれた。
その二人と話しているのを見て奏が驚いていたのだ。別に驚くところはないはずだ、それは高校の友人で部活仲間で、IHで一緒に走ったメンバーだ。話くらいは奏も聞いていたはずだ。荒北が久しぶりに福富に会えると喜んでいたのだ。奏も「荒北くんはフクちゃんが好きなんだねー」と笑うくらいに。

「すまん、まさか奏がそんな勘違いをしているとは思わなくてな」
「だって!」
「まあ、奏の気持ちもわかないでもない、かな」
「どうしたんだ」
「奏がな、福富を女だと思っていたんだと」

それを聞いた荒北、新開までもが吹き出して笑い始めた。
福富からすれば、なにをどうしたら自分を女だと思ったのか見当もつかないだろう。

「だって、荒北くん福チャンって、『ちゃん』付けしてたから!」
「だからって…だからって…寿一が、女…おめさん、面白いな……」
「……すまんな、女じゃなくて」
「あ、いや、私の方こそ、すみません。初対面で、そんな勘違いしてごめんなさい…」
「だから奏ちゃん福ちゃんの事聞いてきたのかよ」
「だって荒北くんが福ちゃん福ちゃんっていうからどんな美人な人かと…」
「美人でなくすまなかった」
「いやそういう意味ではなく!」

焦っている奏も面白いが、それに真面目に返している福富も面白くてオレと荒北と新開はまた吹き出す。

「福ちゃんさん、すごく恰好よかったです!」
「福富寿一だ」
「あ、福富さん?」
「福ちゃん、小野田奏ちゃん。小野田ちゃんのお姉ちゃん」

格好良かった。過去形かと突っ込みたい気持ちがあったが、福富が真面目に自己紹介をしたので吹き出しそうな笑いを押し込めた。弟の小野田と同じでテンパるとどこまでも暴走する。

「オレ新開隼人」
「新開さん」
「どうせ同い年だしもっと気軽に行こうぜ奏ちゃん」
「……」
「どうした?」
「いや、同い年なんだなって思って」

小野田と同じで小柄な奏には同い年というのが今までピンときていなかったらしく、新開に言われて「そうだよね、同い年なんだよね」と改めて納得していた。

「待宮くんも含めてだけど同い年にはなかなか見えないよね」
「金城老け顔だしなぁ」
「荒北はブサイクだしな」
「オレ年相応だと思ってるけど」
「小野田は幼いな」
「福富…くんは、年上に見える」

ぎこちない奏の言葉が少し懐かしい気がする。そういえば最初の時もぎこちなかった。人見知りではないが、初対面が苦手なのだろう。得意な人間は少ないだろうが、普段の奏を知っているとまた面白い。あと荒北、睨むな。最初にお前がケンカを仕掛けてきたんだぞ。

「小野田はマネージャーか?」
「ううん、手伝いで」
「奏ちゃんは弟がどんなことしてたのか気になって見学してんだよ」
「おかげでお昼食べ損ねたけどね…」

奏の腹がくきゅぅ。と頼りない音を立てると「おなかすいた…」と恥ずかしそうに笑う。少し可哀想に思ってポケットを探るが食べるものは入っていない。同じことを思ったのだ全員が探るが、誰もが同じらしく奏に向かってやれるものがないと謝っている。

「………お昼食べてくる」
「一人で平気か?」
「…?」
「新開お前人の食いモン狙うなよ…しかも学校違うし」
「お弁当だから大丈夫。先輩たちもいると思うし」
「なら戻るか。じゃあな福富、新開」
「ああ、またな」
「じゃあね福ちゃん、新開」
「おう、しっかり食えよ」

帰りの車内の話だ。寝ている荒北を見てひっそりと奏が「あの二人いい人だよね、荒北くんの友達だし」とまた吹き出しそうになるのを必死で我慢したのは言うまでもない。



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