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 知らない話

※千葉出身女子


「金城くん総北出身なの?弟が総北なんだよ」

隣に座った奏が意外そうに声を上げた。
奏は同じ千葉出身ということでなんとなく気が合い、講義も被る部分があってそのまま一緒に昼食を取ったりする程度には交流がある。ついでに荒北とも関係は良好だ。
どうして下の名前で呼ぶかと言えば、苗字が後輩と同じでダブるからだ。

「奏と同じ苗字のヤツが後輩にいたぞ」
「小野田ちゃんね、オレも知ってる」
「その小野田って人は有名なの?」
「去年のIH優勝者だ」
「へー、すごい。ん、」
「どうしたよ奏」
「そういえば、弟もなんかの大会で優勝したのか言ってた」
「奏の弟の名前はなんていうんだ」
「坂道」

口に入れていた昼食が吹き出た。隣にいた奏が「うわ、ちょっと大丈夫?」と聞いてくるが、大丈夫ではない。ついでに荒北も持っていた箸が落ちた。そして荒北と二人で顔を合わせてから、もう一度奏の顔を見る。

「小野田、坂道…?」
「え、ああ、うん。弟の名前は坂道だけど」
「奏ちゃん、小野田ちゃんの姉ちゃんな、わけ?」
「自転車部の、小野田坂道…か?」
「部活までは知らないけど…あ、でも二人みたいなスポーツタイプの自転車乗ってたっけ」
「奏、もう少し家族に興味を持て…」

確認をとってみようにも、写真なんて持っていないし携帯にも入っていない。奏に聞いたところで写真を持っているようにも思えない。
たぶん、いや確実だろう。奏はあの小野田坂道の姉に間違いない。母親にはあったことはあるが、姉がいたとは意外だ。しかも同い年。あの母親のように、鳴子が台風といったあの母親の様ではないが、だからと言ってあの小野田と似ているかと言われれば…目が似ている。

「小野田ちゃんの、姉ちゃんか…奏ちゃん」
「言われてみれば、目が似ている…」
「その小野田くんと私の弟はイコールなのかな…そうだ、電話してみよう」
「あ、今高校も昼の時間か」
「もしもし坂道?元気にしてる?うん、お姉ちゃんだよー、んとね、ちょっとお話ししてもらいたい人がいるんだけど。うんうん、まあ話してみてよ。はい」

差し出される携帯に、荒北を見れば「でろよ」と目で言われる。仕方なしに受け取って小野田と思われる奏の弟との会話に試みる。

「も、もしもし…」
『は、はい!小野田坂道ともうしましゅ!あ、姉がお世話に』
「金城真護です…」
『…へ、金城さん?』
「やっぱり小野田か!」
『な、なななな!?』

なんで!?と電話の向こうで小野田が叫び、その周りでどうしたのか伺う声も聞こえる。電話をそのままで今泉や鳴子に話しているのか「今おねえちゃんから電話があったんだけどなんでか金城さんがでた」と早口に言っている。
こちらはこちらで荒北に頷けは、荒北は奏に「小野田ちゃんの姉ちゃんが奏ちゃんかー、世間狭いわ」と言っている。

『金城さん!』
「この声…今泉か」
『はい、どうして坂道の電話に』
「これは小野田の姉の奏の携帯だ。弟が総北だと聞いてな」
『坂道の…姉さん?』
「荒北くん、これ食べる?」
「食べる」
「今荒北に肉をやっている」
『!?』
「金城くんにもあげる」
「ありがとう」
『ど、どうしたんですか』
「小野田姉から肉をもらった」

「小野田姉じゃないよ、奏ですよ」と奏が笑う。変にマイペースなのは似ている気もする。荒北はもうどうでもいいのか、奏からもらった肉を食べている。
電話の向こうでは今泉が小野田に電話を返したらしく、最初の声の主に戻って「あの」とか「その」と繰り返しでている。

「昼休み中悪かったな」
『いえ、あの…お姉ちゃんと金城さんは同じ大学なんですか?』
「奏にも言ったが、二人はもう少し興味を持ちあえ。奏は小野田が去年のIHの優勝者とも知らなかったぞ」
『えー!何度も言ってるんですよ…』

いつまでも携帯を借りているわけにもいかないので奏に携帯を返すと、奏はその携帯を耳に当てて弟としゃべり始める。自分のプレートをみれば、さっき奏がくれたと思われる肉が鎮座している。

「坂道だって私の大学の名前覚えてないんだからどっちもどっちだよ」
「で、やっぱ小野田ちゃんだったわけか」
「ああ。こうしてみると小野田の姉といっても納得できる」
「うん、じゃあね坂道。ちゃんと勉強するんだよ、うん、うん。大丈夫、うん、じゃあね」
「よう姉ちゃん」
「はいお姉ちゃんですよ」
「小野田の姉と一緒だとは思わなかった」
「私も坂道の先輩が一緒だとは」
「オレ、一緒に去年IH走ってんだよ」
「荒北くんも…はー、本当世間は広いようで狭いね」

あ、もしかしてこうしては喋ってるのは坂道のおかげかもね。というと荒北が「偶然だよ偶然!」と突っ込んでいた。



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