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 ご主人様と犬

「私はね、憑かれないよ」

そう言って朱堂はオレの蛇の鼻先をつついた。つつかれた蛇はどこかくすぐったそうにして身を捩る。
不思議だ。あの時見た蛇には恐怖したのに、今見るとどこか懐かしい。

「どうして?荒北のところの犬は朱堂のだろう」
「そう。荒北くんに今貸している犬は元をただせば荒北くんの中に居た子で、今は私の」
「その蛇も、」
「今は私の」

東京からわざわざ出向いてもらい、今日一日は荒北と共に大学を案内して、それから近場を案内した。
泊まる所はどこだと聞けば、荒北に泊めてもらうというので、二人はそういう関係なのかと聞けば荒北は馬鹿正直に「ご主人様だよ」と答えた。二人がどんな関係でも関係ないが、自分の為に出向いてもらって申し訳ないという理由をつけて荒北の部屋に来た。

「朱堂ちゃん、ちったぁこっちの犬コロも構ってやってくれよ」
「そうだね、おいで」
「……、そこに、犬がいるのか?」
「いるよ。ただお前にゃ見えねぇよ」
「いい子にしてた?荒北くんをちゃんと止めないと、うん。そう、いい子ね」

優しい顔だ。穏やかで、慈しむ顔。何かを撫でているような手つきをするが、オレには何も見えない。たぶん、あの蛇の様な犬がいて撫でているのだ。荒北がまるで自分が撫でられているかの様な顔をしているのが不思議に面白い。

「荒北、顔」
「ああ?んだよ金城、お前オレがブサイクとか言うわけぇ?」
「違う、とろけている」
「は?」
「ああ、それは仕方ないよ金城くん。今はこの子と同調してて、気持ちいいんだと思う」

クスクスと笑う朱堂にオレは頭を傾げる。目の前で一体何が行われているのか、まるで見当がつかない。

「そうね、じゃあこの子を貸してあげる。目を借りれば見えるから」

しゅるりと朱堂の影からあの蛇が体を伝い、オレの影に沈んだ。そのあまりの素早さに逃げることもできずに息を飲んだ。あの蛇はオレから剥いだ蛇だ。間違いない、朱堂がつついていた蛇。

「見える?可愛いでしょ、荒北くんの犬」
「…なんとなく、荒北に似てる」
「あの蛇も金城に似てるよ」
「つうか、金城に別に見せなくてもいいんじゃないの。どうせこれでオシマイなんだろうし」
「まあまあ。せっかくの仲間なんだから仲良くしたら?」
「仲間って…コイツはオレみたいにしくったりしないさ。二度目はないよ」

一体どういう仕組みかと聞くと、朱堂の元に行った蛇は朱堂と主従関係となり、その蛇を介して朱堂が見ることのできるモノを見れるということらしい。ちなみに今まで蛇が見えて犬が見れなかったのは、蛇は元からオレの中に居たかららしい。よくわからん。

「……朱堂は、この蛇をどうするんだ」
「…使う、かな。色々とね」
「荒北のご主人様って」
「そのまま。私は荒北くんを飼っているの」
「オレの犬のご主人様が朱堂ちゃんだからな」
「もしオレがその蛇を返してほしいとか、なんらかの事情でまた朱堂の力を借りた場合に、蛇がまたオレのところに来たら朱堂が主人になる。のか?」
「そう。宿主から離れて私みたいな人と主従関係になると私が死ぬか契約破棄するまでね」

構えと言わんばかりに犬は朱堂の手を舐める。するとそれに従うかのように朱堂は構い始める。それは本当に犬で、朱堂は飼い犬を構っているようだ。そしてそれを嬉しそうに見ている荒北は何処と無く不思議な感じがする。どう不思議かと言われると言ってみようもない。ただ、愛しそうにといえばいいのか、でも恋愛絡みとは違う。

「なんだよ」
「…いや、そうだ朱堂。女の子が荒北の部屋に泊まって大丈夫か?彼氏彼女の間柄でもないと」
「襲わねえよ、ご主人様だぜ?」
「そうそう。今荒北くんには私の犬が居ます。その犬は私に忠実、ということは?」
「御預け、か?」
「そういう事。まずこの犬がいる限り朱堂ちゃんにンな感情湧かねぇよ」
「どういう事だ?」

朱堂が言うに、主従関係になったそれは主人に対して親愛の情を抱く。それはそれ以上もなく以下もない。故に恋愛感情もないし憎しみもない。その感情は今の荒北に直結しているので、朱堂を好きは好きだが、そいうものはない。らしい、が。
そうなると、この蛇が朱堂と何かしらで居座ることになれば、オレもそういった感情を抱くことになるのか。

「もし荒北から犬がいなくなったら?」
「泊まらないよ。だって荒北くんとはそういう関係じゃないし」

少し荒北がかわいそうに思えた。



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