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 蛇の目

「うーん、これ蛇だね」
「そのままじゃん」
「荒北くんだってまんまでしょ」
「そうだけど」
「これは、治るのか?」
「まあ、うん」

鱗と化した皮膚を触りながら朱堂が言う。どうして蛇なのかと思っていると「蛇の人はだいたいこう出るから」と一言。
荒北はその光景を見てにやにやしている。たぶん、オレがされるがままになっているのが面白いんだろう。

「口は大丈夫?」
「くち?」
「そう、舌と牙」
「口は大丈夫だ」
「あーんして」

あーん。と言われるので、言われるままに口を開ける。見ていた荒北まで口を開けているのを見ていると、朱堂は「そうね、まだ口には到達してないのね」と口を引っ張って覗いた。
顎をポンの叩かれ、閉めてもいいと言われて閉めると、一緒に荒北も閉める。お前はいったい何をしているんだ。お前は今何もなっていないだろう。

「朱堂ちゃん、オレなんかする?」
「うん、大丈夫」
「オレは、どうしたらいい?」
「そのままで大丈夫。あと目瞑ってくれる?金城くんの目が回っちゃうと大変だから」
「目が回るのか?」
「いいから朱堂ちゃんの言うこと聞けよ金城」

言われるままに目を瞑る。そして頭をつかむように朱堂の手と思われる柔らかいそれが触れる。つかむように、固定をするように。そして何かが始まった。
朱堂が何かを言っている。なぜかそれを聞き取ることはできなくて、次に二重に聞こえ始める。耳に膜が張ったような、いや違う。もっと別の何かだ。朱堂の声が二重になっている。意味の分からない声と、わかる何か。
そして何かが抜ける。ちがう、まだある。何もないのに引き抜かれる、何かが抵抗している。
目を瞑っているのに、朱堂の手が見える、捕まれている。捕捉されている。引っ張られている。そして朱堂の手に巻き付いている。オレはここにいて目を瞑っているのに抵抗している、朱堂に引っ張られたくはない、居心地がいいんだ。
居心地がいい?それは誰が?オレか?違う、オレが居心地がいいの理由がわからない。誰だ、誰かがいる。オレの中に、オレの中に?

「おいで」

朱堂の優しい声がする。
見えていた光景はまた暗転して暗くなる。そうだ、オレは目を瞑っていた。だからこれが正しい。では今までの感覚と光景は一体…?
考えていると朱堂もういいよ、と声をかけるので恐る恐る目を開ける。

「お疲れ様。もう大丈夫、鏡見てみて」
「あ、ああ…」
「お疲れ朱堂ちゃん。その蛇どうすんの?」
「様子見かな。使えそうなら私が使う」

言われて鏡を見れば、あの目も鱗もない。もういつもの自分だ。
あれは夢か?違う、現実だ。
朱堂の手をみれば、蛇が一尾。シュルシュルと舌を出しては警戒しつつも、朱堂にされるがままになっている。しかも、半透明ではないか。

「そ、れ…」
「これ?今まで金城くんに憑いてた子。意外と大きいね、金城くんに憑いて成長したみたい」
「なんだ、それは」
「憑き物だよ金城。お前に蛇が憑いてたんだ」
「もう少し言うと、憑いてるというか、金城くんの中にいたものだね」
「どう、して…」
「大体の人は幼児くらいの時にこいうのが入っちゃう人いるんだよね、それで性格形成に関わって。たまにこうやって表に出ちゃうってだけ。多くないけど、いるにはいるって感じかな」

基本的には悪い子じゃないんだよ?と朱堂はいうが、頭がついてこない。朱堂に持たれていた蛇は朱堂の体をつたって朱堂の影に落ちる。するとどうしたことだろうか、その蛇は姿を消している。いったい何が起きた。

「金城くんの顔みたら悲しいって隠れちゃった」
「仕方ないんじゃない?オレだって最初ビビったし」
「今は仲良しだけどね」
「荒北も…?」
「まあな。ちょっとした事情ってやつだよ。朱堂ちゃんの犬してる間だけ一緒にいんの」
「朱堂は、いったい何者なんだ…?オカシイだろ、こんな」
「…まあ、こういう家系?祓ったり、祓ったモノを使役してみたり。こういう家系だからこそちょっとした伝手だあるんだけど」

というか、あんまりしたくないんだよね。と笑う。
足元をみれば、さっきの蛇と思われる蛇が顔をのぞかせている。

「それ」
「おい朱堂ちゃん、金城の蛇出てるよ」
「本当だ。金城くんとさよらなするのが嫌みたい」
「好かれてるんな金城」

蛇がその目から涙を落とした。
そんな気がした。



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