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 おとこのこ

「変な夢見ちゃった」

大学に入って落ち着いた頃、朱堂がコンビニで買ったパンを食べながら疲れたように言う。一緒になって食べていた新開には「夢だろ」と言われ、福富には「考えすぎるなよ」と忠告を受けた。

「聞いてよ内容とか」
「聞いてほしいのか」
「ほしいの」
「どうした朱堂、どう変だった」
「高校の時の夢でね、私が男でIHに出るレギュラー争いする夢」
「ひゅう!そりゃいい夢見たな」

おかげで朝ごはん食べる余裕なくて飛び出してきたけどね。と喜んでいる新開を睨む。
朱堂は女であって男ではない。今まで、自分を覗けば男子しかいない部活に所属していたから、それで性別を置換した夢を見たとなれば納得できる。しかし、今までの一度も見たことがなかった夢を今さらどうして見てしまったのか。

「誰と争ったか覚えてないけど、すごく心臓が痛くてさ」
「破裂しそうなくらい?」
「そうそう。もう脚は痛いし、食いしばりすぎて顎痛いし」
「まるで本当に走っているみたいな夢だな」
「おかげで朝から疲れたよ…新開くんとか福富くん、よくこんなことしてたよね」
「それは朱堂だって同じだろ、きついマネージャーしてたんだから」
「朱堂がいたからトレーニングがスムーズにできたんだ」
「いや、それとこれは話が別でしょう」

ジュルルルル。と新開が持っていたジュースをストローで吸う。その音に朱堂が「音を立てない」と一言。
心底疲れた様子で朱堂がパンを食べる姿を見つつ、福富が問う。

「それで朱堂はレギュラーになれたのか」
「なれなかった。あと少しで負けちゃった」
「朱堂の男の姿かー、どんなんだろう」
「男装なら文化祭でしたよ」
「あれな」
「似合っていたぞ」
「ありがとう。東堂くんが俺の方が似合う!って言ったのは驚いたなー」

文化祭ではメイド喫茶ならぬ執事喫茶というのをクラスですることになり、朱堂と福富と新開はその執事をすることになった。執事の恰好といっても予算の関係でギャルソンの様な恰好ではあったが、なかなかの出来ではあった。三人とも推薦できまり、最初は乗り気ではなかったが、準備をしてその服を着てみたら意外といいじゃないかと楽しみ始めた。
新開は東堂までいかないがファンクラブがあるからいい客寄せパンダになるし、福富と朱堂は自転車部の部員で、後輩などを呼び込めるという委員会の策略だったらしい。

「メイドもよかったと今思うんだよ、オレ」
「それ新開くんミニスカ履くの?」
「オレ!?いやいや女子女子」
「逆転喫茶の方が面白いよ、それなら。男子の女装」
「朱堂、それおめさん見たいのか?」
「……まだ東堂くんなら見れる気がする」
「朱堂がメイドならいいが、なぜ東堂なんだ?」
「あれか、まだ女顔ってやつだろ」
「そうそう。お姉さんにそっくりだって本人いってたし」

どちらかといえば、あの中じゃ女顔じゃない?と言えば、二人は変な顔をする。どこまで行っても男は男だろうという考えなのだろう。それは朱堂もわかっている。しかしそれを荒北や福富と同じで考えると、やはりまだ東堂はマシな部類だろう。

「そういえばあの時は結構盛況だったよね。新開くんは女子にきゃあきゃあ言われてたし」
「それなら朱堂だって後輩に好評だったろ」
「朱堂さん似合ってますと葦木場がニコニコしていたな」
「旦那様って言ったら照れてたけどね。福富くんは強そうだったね」
「そうか?」

思い出せば、他にもクラスで執事の恰好をしていた人はいたが、基本的に三人が出ずっぱりだった。休憩時間はったものの、他の人に比べたら少なかった気がする。一緒に回りたいねと言ったものの、同じ休憩時間になったのは一回くらいで、他は誰かが休めば誰かか出ている状態。結局三人での休憩はほぼないに近く、個々の友人や部活の仲間で校内を見て回った。

「朱堂その時の写真今あるか?」
「ちょっと待ってね、携帯で撮ったやつがあったと思う」
「新開は女子に写真撮られていたな」
「寿一だって撮られただろ」
「あったよ、三人で撮ったやつ」

見れば三人で執事の恰好をした写真。仲良く並んで撮ったものだ、確か荒北が撮ったもので、自分の携帯でも撮ると言っていた。その後も後輩やクラスの人間にもよく撮られた記憶がある。特に奏は部活で唯一の女子ということもあり、後輩にも人気で来る後輩に写真を撮られていた。

「あとね、二人の写真ならたくさんあるよ」
「おめさんのは?」
「私自撮りしないもん、東堂くんじゃあるまいし」
「朱堂のならオレあるぞ」
「さすが寿一」
「え、なんであるの」
「……皆が撮っていたから」
「意外にミーハー…」
「オレもあるぜ。朱堂の隠し撮り」

嘘。と朱堂は身を乗り出して新開の携帯を覗く。新開がほらとその写真をだせば、いつの間に!と心底驚いた。朱堂は意外とそういうものには敏感で、構えるとすぐにポーズ、もしくは避けていた。その朱堂を撮るのはおそらく凄いことなのだろう。

「本当だ!いつの間に…」
「一緒に写ってるのは…真波、か?」
「そうそう。真波と喋ってる時に一枚」
「この真波くん、気づいているね、確実に」

それなら私も二人の隠し撮り撮っておけばよかった。と朱堂が悔しそうに言った。



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