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 チラシの特売

「あれ、新開くん?」

夕方に用事があって近くのドラッグストアに行こうと自転車に乗っていたらちょうど歩いていた朱堂が声をかけてきた。まあそんなに早いスピードで走っていたわけじゃないので、目に留まったんだと思う。それか慣れているだろう。見れば犬が一緒だ。

「よう朱堂。犬の散歩か?」
「そうなんだ。ついでに頼まれた買い物行く途中」
「へえ、どこまで」
「ドラッグストア。食器洗剤が今日安いんだって」
「ひゅう!一緒に行こうぜ」
「お、いいね」

自転車から降りて朱堂と一緒に歩くと、犬がクンクン匂いを嗅いでくる。見知らぬ人間だし、本能だしなと眺めていると、犬も気が済んだのか朱堂に寄り添い始めた。

「大きい犬だな」
「うん、可愛いでしょ」
「ウサ吉だって可愛いぞ」
「ふわふわだよね」
「ふわふわだ」

動物を飼っている人には珍しく、朱堂はウチの子が一番可愛い!をしてこない。大体の動物を飼っている人は「なにより家の子可愛い」精神だ。オレもその一人だし、靖友も「アキちゃんが可愛いよォ」という。不思議に思って聞けば「だってそんなの当たりまえだし、わざわざいうものでもないし、いちいち言う人のレベルが低い」と何とも冷たい言葉だった。

「懐いているな」
「そりゃもう。高校入学くらいの時かな、家にきたの。もう大人だもんね」
「躾もされてておとなしい」
「大型犬は特にね。初対面の人にはクンクンしちゃうけど」
「本能だろ」
「挨拶です」
「そうともいう」

一緒に歩いていると、やっぱりこの犬は落ち着いている。朱堂にしっかり歩調を合わせているし、オレを気にしつつも良い子にしている。
今度の英語の小テストがどうだとか、世界史の先生の授業は眠くなるとか、靖友が体育でこけたのを笑った尽八が同じくこけたとか。そんなくだらない、部活でもあんまり言わない様な内容を話して歩いているとドラッグストアについた。

「犬どうするんだ?」
「外につないでおく。いつもそうだし、ここの店長さんも知ってるから大丈夫」
「店長と知り合いなのか?」
「うん、お母さんと仲がいいんだ」
「へー」

犬をつないで、オレは自転車と駐輪場に止める。それから一緒に店に入ると、レジにいたオバチャンが「奏ちゃんいらっしゃーい、あら彼氏と一緒?」などと聞いてくる。朱堂は慣れた様子で「学校の友達ですよー」と笑って返していた。

「今の店長?」
「ううん、近所のおばさん。店長さんは強面のオジサンだよ」
「詳しいな」
「ふふん」
「で、洗剤は」
「お一人様2個なんだけど、新開くん協力して」
「おう、いいぜ」

目玉品らしく大きなポップで「激安!」なんてついている。寮に入っているからそういうのはよくわからないが、大学に行くとなるとたぶん一人暮らしだし、こういうのもチェックしておいた方がいいのかなと思う。朱堂は適当に選んでそれを4つ持つから「持つよ」と手を出すと「自分のだから大丈夫、ありがとう」とやんわり断られた。

「新開くんは何買うの?」
「パワーバーとカロリーメイト。あと何か食べるもんかな」
「…よく食べるね」
「育ちざかりなもんで」

あのオバチャンのレジで会計をすると、やっぱり「奏ちゃん、素敵な彼氏ね!」と言われ「学校の友達だよ」と同じ返しをしていた。どうやらオレはオバチャンの中では「朱堂の彼氏」と認識されたらしい。

「なあなあ朱堂」
「ん?」
「今度寿一か靖友か尽八とここ来てみろよ」
「あのおばさん、私が誰と来ても同じこと言うから」
「…え?」
「前に黒田くんとか、葦木場くんとかと部活関係で一緒に来たことあるけど、同じこと言われた」
「オ、オレとは遊びだったのか!?」
「そのいきなり始まった茶番付き合わなきゃ駄目?」

冷静な朱堂の突込みに出たオレの言葉が「靖友と寿一には優しいのに!」だったあたり、オレは馬鹿だと思う。



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