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 主導権と肉

※もし箱学マネが洋南だったら


「おおお」

小さく朱堂ちゃんが拍手をすると、金城は満更でもない顔でニヤニヤしている。
朱堂ちゃんは素直で、まあいい子なんだと思う。金城の手品を喜んで見てやっているのだ。それに付き合っている待宮なんてもう飽きて自分の携帯を弄っている。

「すごーい」
「朱堂がそんなに喜んでくれるとは思わなかった」
「私ね、こういうの好きなんだ。楽しいじゃない」
「奏ちゃんは無邪気なもんじゃの。こんな子供騙し何がええんじゃ」
「小さいことでも楽しんだ者勝ちよ、待宮くん」
「つうかよ、なんで俺だけが料理してんだよ!ここ朱堂ちゃん家だろうが!約束どうした約束!!」

話の始まりは簡単だ。朱堂ちゃんの部屋で鍋しよう。それだ。
女の子の部屋に男がぞろぞろは入るのは正直どうかと思うけど、朱堂ちゃんが「なんで私誘ってくれないの!酷い!!」と言ったからだ。ついでに一番広い部屋に住んでいるのが朱堂ちゃんでそこで鍋をすることになった。
部屋と光熱費は朱堂ちゃんがもつから、料理と材料は男持ちだったわけだが。

「荒北お前金がないって言ったの忘れたか?わしらが金出したん忘れたか」
「そうだぞ荒北。そうなればお前は料理と後片づけしかやることはないぞ」
「私手伝おうか?」
「朱堂ちゃんはそこで遊んでな。金城待宮、お前ら覚えとけよ…」
「金欠のお前が悪い」

確かに金欠だ。くそ、なんで今日になった。明日だったら、明日だったら…と思っても金がわいて出るわけでもない。ただ飯にありつけるつだけマシだ。
黙って材料を切ったりしていると、朱堂ちゃんが気にして「大丈夫?本当に?」と言っては待宮が「奏ちゃん、男にはしないといけんときもあるんじゃ」と横から茶々をいれては朱堂ちゃんは「ああ、うん…」と困っていた。

「いいんだよ朱堂ちゃん、どうせ切って鍋に入れるだけだしぃ?スープ入れりゃお終い」
「そうだけどさ…」
「簡単だから荒北にもできるんだろ、朱堂。そうじゃなかったら俺達だって任せてない」
「おい、それどういう意味だ金城」
「荒北くん調理実習真面目に受けてたし、美味しかったよ」
「サラダだろ、どうせ」
「煮物」
「もっと言っちゃって朱堂ちゃん」
「時間なくて味染みてなかったけど、いい味だったよ」
「…そんなん、みんな同じ味じゃろ?同じモン使こうとるんじゃし」
「まあ、そうだけど…福富くんも新開くんも東堂くんも褒めてたよ」

なんだそのちょっと哀れむ目は。そんなに朱堂ちゃんに気を使わせているように見えるのか、お前ら。
朱堂ちゃんは待宮にさえ優しいという考えがどこかにありそうな金城は「朱堂、あんまりそういってやると逆に荒北が可哀想だぞ…」と変なフォローを始める。確かに同じモンを言われた分量入れたが、あの班員を知らないから言える。あの時の班員はオレと朱堂ちゃんと味音痴の男とサボっていなかった女子だ。実質オレと朱堂ちゃんしかいなかったあの時、ちゃんとできなければ点数にならないと言われて朱堂ちゃんとオレは頑張った。味音痴はせっせと調理器具を洗ってサポートしていた。他の班が羨ましいと思ったし、サボろうかと思ったが福ちゃんもいたし、朱堂ちゃん一人につらい思いをさせるわけにもいかなかった。

それからは黙って鍋づくりをした。
もう材料はあるし、煮込むだけだ。IHとか相変わらず金持ってんだねーといえば、「それ貰い物。新しいの買ったからあげるっていうから貰った」と金持ちの知り合いがいるらしい。この部屋も違う知り合いの伝手で格安で借りているとか、朱堂ちゃんの知り合いの範囲が底知れない。

「わーい、お鍋ー。荒北くん、お疲れー」
「鍋鍋」
「器足りてるか」
「ねぎらうの朱堂ちゃんしかいないのかよ」
「箸足らんぞ」
「割りばしあるから持ってくるね、待宮くん…荒北くんの分ある?」
「あるよぉ」

コンセントタイプのIHヒーターに移動して、アツアツの鍋のふたを開ける。湯気がふわっと上がっていい香りが部屋に充満した。そうそうコレだコレ。
割りばしを待宮に渡して朱堂ちゃんも座る。

「それでは皆様ご一緒に」

いただきます!と朱堂ちゃんが号令のように言えば、待宮も乗っかって「いただきまーす!」と野太い声をだし、金城は遠慮したのか控えめに「いただきます」と言っていた。

「いただきます」
「あ、待宮くん駄目だよ、最初は野菜!野菜を食べなさい」
「肉が硬くなってしまうじゃろ奏ちゃん」
「そういって野菜食べないでしょ!野菜をとってから肉にして」
「奏ちゃんはオカンか!」
「私の肉がなくなるから言ってんの!荒北くんは肉を食べて」
「荒北ばっかりズルい」
「荒北くんはお肉食べなきゃ駄目だから!それに私の分取らないもん!待宮くん食べちゃうでしょ!!」
「朱堂は母親なのかなんなのかよくわからないな、荒北」

朱堂ちゃんは朱堂ちゃんでしょうよ。と朱堂ちゃんに言われたように肉を食べる。ついでに待宮と言い合いしてる朱堂ちゃんの器に肉も入れておいてあげる。
待宮、あんまり朱堂ちゃん怒らせるなよ。



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