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 猫の野獣

「朱堂ちゃん、なんで猫抱っこしてんの」
「え、寄ってきたから」

部活の休憩時間。うっかり指を切ってしまったので朱堂ちゃんに絆創膏をもらおうと思っていけば、朱堂ちゃんは猫を抱っこしていた。

「あ、もしかして猫だめ?アレルギーとか?ごめんね、ああどうしよう…」
「や、大丈夫だけど…ちょ、さわっても、いい?」
「私?」
「猫」
「いいんじゃない?」

はい。と猫の前足脇に手を入れて差し出してくれたとたん、その猫は暴れて走り去ってしまった。それを見てオレが「けっ」と唾を吐くように悪態をつけば、朱堂ちゃんは吹き出して笑った。

「荒北くん、猫に嫌われちゃう人?」
「うっせぇな…朱堂ちゃん、指切ったんだけど」
「猫云々よりもそれ先に言おうね。今救急箱持ってくるから待ってて」

近くにあった水場で石鹸で手を洗ってから部室に走っていく朱堂ちゃんの後ろ姿を見送る。猫が逃げて行った方向を見ると、物陰から猫がこちらを伺っている。おい、お前さっきの猫だろ。逃げたくせしてナニ伺ってんだよ。オレがそんなに嫌か、そうか。朱堂ちゃんがいいってか?

「はい、お待たせー…どうしたの?」
「うんにゃ、なんでもない」
「洗った?」
「一応ネ」

んじゃ、一応消毒もしておこうか。と消毒液をたらされると切った時の違う痛みが走る。この刺さるような痛みは好きじゃないし、この匂いも嫌いだ。
消毒液が流れ落ちると朱堂ちゃんは絆創膏を出して貼り付けて巻いてくれた。

「すぐ治りそうだね」
「浅かったからねェ。あの猫、こっち見てるよ」
「え、あ、本当だ。あの猫最近よく来るんだよね、エサとかあげてないのに」
「何、朱堂ちゃんてば猫にモテる人なワケェ?」
「どうだろう…今までにない体験です」

でも今相手してあげられないからねー。と困ったように朱堂ちゃんが言う。この休憩が終わると確かタイムを計る予定だ。
朱堂ちゃんは動物に好かれるタイプかって聞かれれば、多分そうでもない。家で何か飼っているかは知らないけど、新開のウサギに喜んで触るタイプでもない。誘われて触るくらいで新開にねだっているところは見たことはない。

「記録の道具持っていくんでショ?手伝うよ」
「え、いいの?」
「ついでだし」
「ありがとー。今日は一年生の子も全員参加だから荷物多くてさ」

あの猫がじっと見たまま、朱堂ちゃんと一緒に歩く。すると猫は追いかけるようについてくるけど、どうやらオレがいるから近くまで来れないらしく一定の距離のままだった。

「モテる女の子って大変だネ」

朱堂ちゃんは意味が分からないのか、「東堂くんの女の子バージョン?」と明後日なことを言っていた。



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