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 縫ってつなげた

※気高き遠吠え 続き
※偽広島弁



「お、奏ちゃんじゃろ、奏ちゃん」

唐突に名前を呼ばれ、奏はかたまった。だって知らない人だ。むしろお前誰だよと言わないだけよかったのか。いや、あまりにも唐突で奏は何も言えなくなっていた。いきなり手をつかまれ、見れば知らない男だ。

「朱堂奏ちゃんじゃろ」
「あ、あの…えっと、どちら様…でしょうか…」
「……おお、すまん。そういえば初対面じゃった」

ぱっと手を離され、その男は豪快に笑う。それとは対照的に奏は笑うとこはできず、ただ戸惑っていた。奏自身、頑張って誰だろうと考えても思い当たらないはずだ。彼は初対面と言ったのだ。

「呉南の待宮栄吉じゃ」
「呉…南…?」
「呉の闘犬じゃ」
「……は、はあ…」
「箱学の朱堂奏ちゃんじゃろ」
「………あの、」

奏が改めてその待宮を見てみると、そのジャージは洋南。洋南といえば、荒北が進学した大学だったはず。ということは、もしかしたら荒北経由でこうやって声をかけられたのだろうか。
しかし当の奏はどうしていいかわからず、曖昧に愛想笑いをしてやり過ごそうとしていると、懐かしい声がした。

「おい待宮、お前こんなとこでナンパしてんじゃ…」
「荒北くん」
「朱堂ちゃん!?おま、おい待宮!朱堂ちゃんに何してくれてんだよ!!」
「荒北が奏ちゃん紹介してくれんからじゃ」
「うっせ!朱堂ちゃん大丈夫?変な事されてなぁい?」

しっし。と待宮をまるで犬か何かのように追い払おうとする荒北。奏はそんな姿を見て「まあまあ」と穏便に済ませようとするが、荒北はそれですましたくないらしい。

「朱堂ちゃん一人?福ちゃんと新開は?」
「二人は今控えの方にいるよ、私は雑用した帰りで」
「またマネしてんの?」
「原因は新開くん」
「あいつもこりねぇな」
「会いに行く?案内するよ」
「荒北、無視すんなよ」
「無視して朱堂ちゃん」

大会という場もあって、そこは混雑しているし、選手自身も時間があるから多少なりとも自由にしている。しかし待宮の偶然というかには荒北は顔には出していないが驚いた。
奏は福富と新開と同じ大学で、また同じサークルだということも知っていた。なので同じ大会に出ることも知っていたので、奏とメールで大会の合間に会えたらいいね。とメールをしていたのだ。それを飛び越えてなぜお前があっているという思いが強い。

「なんで呉の闘犬いうか知っとるか?」
「朱堂ちゃーん、福ちゃんとこ案内して」
「おい荒北!奏ちゃんと話させぇ」
「うっせ待宮。朱堂ちゃんが穢れるだろ!」
「仲良いんだね」
「良くねえよ!」

ぎゃんぎゃんとまるで犬のケンカのように睨みあい始めた。周りは周りでそれ以上に騒がしいので、ここはあまり目立ってはいないが、近くを通る人はなんだと見ていく。ただ奏だけが違う大学なので恰好は違うが、荒北と待宮は同じジャージなのでまだ目立っていないのだろう。これが違う大学同士だと目立っていたかもしれない。

「そんなところで何ケンカしてるんだお前ら」
「おお金城、奏ちゃんじゃ奏ちゃん」
「気安く奏ちゃんとか呼んでんじゃねえよ」
「金城くん…えっと、総北の?」
「ああ」
「金城知ってるのに呉の闘犬は知らんのか…」

奏自身、そんなに他校の事を知っていたわけではない。総北を知っていたのは2年の時のあの事件と、なにより東堂だろう。巻ちゃん巻ちゃんとうるさく、面識はなくてもその巻ちゃんという人間がいることは知っていた。しかし奏が呉南について誰かから聞いたことはなかったし、そういえば2年のときのIHは広島だっけ?くらいにしか記憶に残っていなかったのだ。

「金城くんの洋南だったんだっけ」
「ああ、朱堂は福富と一緒だったな」
「あれ、名前…」
「わりぃ朱堂ちゃん。ほら、あの手紙というか写真、コイツラの前で見たんだよ」
「ああ、だから。ビックリしからさ、知らない人に声かけられて」
「ごめんねぇ、怖かったでしょ」
「お前は保護者か」

何かを納得したらしい奏はあはは、と気にすることもなく笑っている。
そんな奏に少し申し訳ないと感じたのか、待宮は「すまんの」と謝れば「驚いただけだから、こちらこそごめんなさい」と軽く会釈をして返した。

「あ、ねえ金城くん、写真撮ってもいい?」
「撮ってどうする」
「よければ小野田くんと今泉くんにメールで送ろうかと」
「二人と知り合いなのか?」
「うん、友達なんだ」
「えー、いつの間によ朱堂ちゃん」
「んー、秘密」

携帯を取り出して、金城を撮ろうとすると、荒北が入り、それを見た待宮も乱入してきた。とりあえず金城の写真が撮れればいいかなという考えだった奏はその三人の写真を撮り、小野田と今泉にメールで送信した。
それから三人と別れ、大学の控えに戻って福富と新開に「荒北くんと金城君と…えーっと、マチミヤくんに会ったよ」と報告したらズルいと言われた。



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