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 今は、今だけは

「あ、そのヘアゴム可愛いですね朱堂さん」

真波くんが指さした先には友達が「これ可愛いから奏にあげる」とつけられたケアゴムをさしている。ピンクのボンボンがついているヘアゴムで、くれた子とお揃いなのだ。

「可愛いでしょ、貰ったんだ」
「へー、朱堂さんもそういうの付けるんですね」
「ついでに結んでくれたのも、その子だよ」

いつも面倒でポニーテールにしている髪型も、今日はちょっと違う。まあ、その子のおもちゃになっていただけなんだけど。今度の休みに彼氏とデートだからどんな髪型にしようかと迷っているから協力しろと言われ、協力した結果がこれ。ちなみにボンボンはデートでは使わない。

「朱堂さん、引退したのに今日はどうしたんですか?」
「忘れ物とりにきたんだ。持って帰ったつもりだったんだけど、まだだった」
「へー」
「で、ちょっと部室内を見ていたらちょっと掃除がしたくなってね…」

私が使っていたロッカーは幸いにもまだそのままになっていた。開ければ部活で使っていた小物や、いざという時に使うもの、ついでに投げ込んだままになっていたお菓子まであった。ほかのところは綺麗にしたけど、どうやらここだけそのままにしてしまっていた。お菓子は基本的に新開くんのお腹に入ってしまうのが大半だったな、と思い出す。
そのロッカーの中の物は量からしたらそんなに多くはないので、さっさとそれ用にもってきたトートバッグに入れてある。

「で、真波くんはどうしているの?今日は部活休みじゃないの?」
「なんとなく?朱堂さんの姿が見えたから」
「えー、何それ」
「朱堂さん、その掃除終わります?」
「うん、まあ…」

それでどうするのかと思えば、黙って私の掃除姿を見ているだけの真波くん。どうせなら手伝ってほしい。でももう私も引退した先輩だし、現役の後輩にそんなことを頼むのも変なきがする。上に干してある洗濯物も早く取り込んでほしいなーと思ってちらっと見上げるけど、そんな私の思いは通じることもなく、真波くんは黙っている。

「朱堂さーん、まだー?」
「んー、もうちょっと?真波くんは帰らないの?」
「朱堂さんとお話ししたいから帰らないー」
「そうかー。じゃあもう終わりして帰ろうかなー」
「えー帰るのー」
「うん、私受験生だしね」
「オレ知ってますよ、朱堂さん推薦だって。東堂さん言ってました」

隠しているわけではないので、知っていてもいいんだけど、どういう経緯で知ったんだろう。まあいいや。今日は部活もないし、私も塾とか行っているわけでもないし。せっかく可愛い後輩が私とお話しをしたいと言ってくれているんだからそれに付き合おうではないか。

「なんのお話する?」
「掃除終わったんですか?」
「まあね。どうせ私の荷物とか、そんなの少ないし」
「朱堂さん、バレンタインはくれますか?」
「…んー、その日が登校日ならね」
「そっか、3年はあんまり学校来ないんだっけ」
「そういうこと。だからってそんなにすることもないんだけどね。あ、でも住むとこ探さないとだ」
「東京、でしたっけ」
「そうそう」

並んで座って、他愛もない話をしてみる。そういえば、真波くんとこんな話をするのは初めてかもしれない。同じ学年の人なら教室とかで勉強の話とかするけど、下級生はなかなか会わないし、会ったとしても部活だ。それに真波くんはよく遅刻するし、何かと東堂くんに引っ張られてしまうから話すこともあるにはあるけど、今思うとまあそれなりだったし。それに真波くんは1年生ってこともあるんだよね、1つ下の葦木場くんはよく話しかけてくれたっけ。

「そうだ、勉強は大丈夫?またあの…委員長さんに迷惑かけてるんじゃないの?」
「えー、朱堂さん、オレ高校生だよ」
「真波くんが高校生になれたことが不思議です、私」
「ナチュラルに酷いこと言いますね」
「東堂くんにも言われる」
「オレ、東堂さんと一緒かー」
「クライマー同士仲がよろしいことで」
「朱堂さん、東堂さんてね、すごくきれいに登るんですよ」
「知ってるよ、スーって行くよね」
「わかります?」
「わかるわかる」

と話してどのくらい経っただろうか。話はいろいろと移り変わって東堂くんの話は終わっていたし、そうだ、コンビニのデザートどれが好き?なんて話をしていた時だ。私の携帯がバイブレーションで震えて会話が止まった。

「誰だろ」
「メールですか?」
「長いからたぶん電話かな」
「おうちですか?」
「いや、荒北くんだ。ちょっとごめんね。はい、もしもしー」
『あ、朱堂ちゃん?ちょっと今暇?』
「暇じゃないでーす!!朱堂さんは今オレとお話し中なので後にしてくださーい!!」
「真波くん!?」
『真波ぃ?なんでお前』
「朱堂さんとお話ししたいなら明日にしてください、荒北さん朱堂さんと同学年だから話すチャンスあるでしょー!」

私の手から奪われた携帯は、真波くんの手によってその通話を切られてしまった。
これが不思議ちゃん、いや、電波くんなのだろうか。



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