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 夏が終わる

「自転車興味あるの?」

それが私と彼、新開くんとの出会いである。なんて、少女漫画の様な展開では決してなかった。
私はただ中学を卒業して親が転勤というこで地元を離れ、こうして親の転勤先であるこの地にやって来た。そう、友達がいないのだ。
どう答えていいかわからないのと、男の子と殆どしゃべっらなくなっていた私は「えっと…その、」と言葉を選ぶように濁していた。
それをどうして「自転車に興味あります」と解釈したのか、「ならマネージャーになって」と強制連行。部室には私の目からみたら厳つい先輩がいて、イヤだと言えないままマネージャーになってしまった。

廻りは男子だし厳ついし、男子だから男臭い。正直最初はおっかなびっくりというよりも、イヤでイヤでしょうがなかった。
でも私には友達がいないから、誰にも相談できなかった。

なんとか友達もできて、部活にもなれたそんなある日、福富くんの自転車を誰かが乗っているのを見かけた。あの変な髪型は不良だと友達がコソコソと噂していた人だろうか。

「あ、あの…」
「ああ!?」
「そ、その自転車…福富くんの、自転車部の」
「借りてんだよ!」

怖くて「が、頑張ってね!」と心にもないことを言って逃げた。
最初は好きじゃなかった新開くんはいい人だし、福富くんも私の話をゆっくり聞いてくれる。東堂くんは話が面白い。そんないい人達に囲まれていた私にとっては彼は異質で不良で恐い存在だった。
福富くんに「福富くんの自転車が不良くんが乗って不良くんが」と意味のわからない言葉で羅列していたはずなのに福富くんは「いいんだ」と一言。普通なら私は「よ、よくないよ…?」と言うところなんだろうけど、その時の福富くんの表情を見て黙って頷いた。

うんうんと悩んでいると東堂くんが「恋煩いか!?」ととんでもないことを言うので「そうだったらよかったんだけど…」と言えば東堂くんの口が大きく開いた。

「な、悩み事か…朱堂…まさか、部活を、マネージャーをやめると言うのではないのか…?」
「……なんで?」
「なんでもなにも、部活を辛そうにしていたではないか!なんだ、新開か!?アイツが変なことをしたのだろ!謝らせるから思い止まれ!!」
「どうして、新開くんの名前がでてくるの?」
「じゃあ福か!?いや、ままままさかこの俺…!!?」

福富くんの自転車の話をすると、何故か東堂くんは「マネージャーをやめるのではないのか、よかった…」と安心していた。
不思議に思って聞くと、私が常にビクビクしていて黙って下を向いて部活をしていたから同学年同士で守ってやろうと気を使ってくれていたらしい。
その話が凄く嬉しくて、少し泣いてしまい、東堂くんを凄く焦らせてしまったのは今でも申し訳ないと思っている。
その日の部活で皆に「ありがとう」とお礼を言った。

それから暫くして荒北くんが部活に入った。
恐くて嫌だったけど、私を見つけて「ビビらせて悪かった」と謝ってくれたので、多分荒北くんは悪い人じゃないんだと思った。でも目付きが恐いし話し方も恐い。慣れるまで時間はかかったけど、私が一方的に初心者同士だと思って親しみを感じていた。


三年の先輩が引退して、私達は進級して、後輩が入り、そしてまたひとつ上の先輩が引退して、私達が今度は部を引っ張る立場になった。
その頃になると私もマネージャーらしくなり、同学年の彼らには怒鳴るくらいの肝が座るようになっていた。後輩は私を尊敬してくれいたし、部長になった福富くんには色々任させらるようになった。
そして私はらしくもなく、私達が主体になった時に願掛けとして髪を伸ばし始めた。勿論、誰にもいっていない私だけの秘密で。


「では、マネージャーから」
「えーっと、こんな事をいうのはちょっとアレですが、えっと」
「落ち着けよ朱堂チャアン」
「荒北くんうるさい。えっと、私最初は部活辞めたくて辞めたくて凄く辞めたかったんだけど、辞めなくてよかった…すごく、良かったって…思ってます。
私をこの部活に入れた新開くんを凄く恨んだし、嫌だって言えなかった私が凄く嫌でした。
でも、東堂くんに色々教えてもらって、本当は仲間に凄く思ってもらっていることを知って、感謝しました。
荒北くんは私と同じ初心者だと思って勝手に親近感わいていたけど、すぐレギュラーになって、凄いなと思って尊敬しているし、そんな荒北くんを部活に招いた福富くんは凄すぎるし、何より私の話を一年の時から聞いてくれる頼れる主将です」
「俺悪口しか言われてない!」
「新開くんうるさい。
えっと、改めて福富くん、新開くん、荒北くん、東堂くん。
ありがとう」
「なんで荒北の後なのだ!」
「いい加減私の話遮るのやめてよ!私が話してるのに」
「そりゃ、おめさんが俺達を泣かそうとしているからだろ」

え?と横に並んでいた三年を見ると、目が確かに潤んでいる。
こうも良いいガタイの男が揃いも揃って泣きそうにしているのはマヌケだ。
ああ、だから対面している後輩もつられているのか。

「………、そして、二年生、一年生。こんな先輩で、マネージャーだった私に、色々協力してくれてありがとう。立派な先輩じゃ、なかったけど、皆は立派な、凄く良い後輩です。来年は、IHで、優勝してください」
「「「はい!」」」
「あと、週末には髪を切る予定なので、ロングの私の見納めです!もし、写真とか万が一、億が一とりたい人は今週中に!短くても良いならいつでも良いよ!以上、三年マネージャーの朱堂奏!本当に、本当にありがとうございました!!」

バッと頭を下げて一礼すると、目にたまっていた涙がポロポロと足元に落ちた。どうやら私も泣いていたらしく、後輩が「朱堂さん」「朱堂さん」と呼んでくれている。少し恥ずかしい。でも、凄く嬉しい。

それから皆で集合写真を撮って、私はこっそりと持ってきたデジカメを取り出して三年だけの集合写真と、一人一人とのツーショットを撮らせてもらった。


「ごめんな朱堂、おめさんが嫌がってたのわかったのが入部した後だったんだ」
「いいよ、今となっては良い思い出だし、感謝してるから。笑って笑って」
頬と頬が近い気がしたけど、まあ気にしない。

「なんでジャージでとるのサ」
「だってもうジャージ着ないでしょ?卒業式は卒業式で撮ろうね」
私結構荒北くんの事好きだよ。と言ったら照れて、良い感じのレアな写真が撮れた。

「この俺と二人の写真とはやるな朱堂!」
「スリーピングビューティーの意味知ってる?黙っていれば美形」これは写真を撮ってくれようとしていた荒北くんが吹き出し、揺れてダメだったから福富くんが撮ってくれた。

「色々ありがとう。私話聞いてくれたから私部活続けられたんだよ」
「俺も感謝している。朱堂はいいマネージャーだ」
優しい顔をしてくれた福富くんは私を本当に労ってくれていて、それだけで嬉しかった。

「ねー朱堂チャアン?なんで髪切る宣言したわけ?」
「願掛けが終わったから。来週私の髪が短くなったのを見てちょっと悲しくなればいい」
「失恋かと思ったぞ!」

優勝に失恋した。
と言うのはあまりに残酷な冗談な気がして私はただ「ちゃんと髪切った私に感想言わないと駄目なんだからね」と言って笑った。



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