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 気高き遠吠え

※待宮が洋南と聞いてのお話
※偽広島弁



「お、」

なんじゃこれ。と待宮が人のカバンを勝手に探る。別段変なものというか、待宮が興味を示すものなの入れた記憶はない。入っているのは簡単な筆記用具とルーズリーフ、あとは講座で使うその他。

「待宮、てめぇ勝手に人の持ちモン触ってんじゃねえよ」
「荒北靖友様、差出人は…朱堂奏?誰じゃ、女か」
「オトモダチだよ、返せ」

そういえば、昨日覗かなかった郵便ポストに懐かしい名前が書かれた封筒が入っていたのを持ってきていた。差出人は高校の部活のマネージャーの朱堂ちゃん。確か福ちゃんと新開と同じ大学に行ったはずだ。たまに朱堂ちゃんから福ちゃんと新開の謎ツーショットが送られてくるくらいには交流はある。

「また可愛い字を書くオトモダチじゃのう、あけるぞ」
「あけんな!!」
「待宮、それはさすがにやめろ…」
「もっと言え、金城」

傍観を決め込んでいると思った人物が、思いのほか良心的だったことに感謝する。じゃっかん引いた目で待宮をみる金城は実に常識的だと思う。さすがにこれでは分が悪いと思ったのか、待宮は黙って封筒を返してきた。
確かに封筒に書かれた字は可愛いのかもしれない。この字は高校時代によく目にしていたから、そういう感覚はあまりなかった。

「マネージャーか?」
「まあな」
「女子マネか!羨ましいのう」
「うちにもいたぞ、2こ下の」
「かー!女子がいたとこはええのお。んで、なんの手紙だ」
「知らねえよ、見てねえもん」
「見ろよ」
「うっせ」

普段はメールをしているから、それほど重要なことは書いていない。それに手紙を送るなんて一言もメールには書いていなかった。それにここで見てやる義理はないし、なにより、特に待宮にみられるのは凄く嫌だ。
朱堂ちゃんとはそういう関係ではないが、なんか嫌だ。

「見つけたからには見たいに決まってるじゃろ」
「オレが嫌なんだよ」
「見せえ、減るもんじゃなかろ」
「減る」
「ラブレターか」
「んなわけあるか」
「ならいいじゃろ、見せえ」

たぶんこれ見せないと終わりがないぞ。と金城が笑いながら言えば、待宮は調子づく。
持ってこなければよかったと思うが、そのまま部屋に置いてくるのも何故か嫌だった。朱堂ちゃんの事だから、変な事が書いてあるわけではなさそうなので、本意ではまったくもってないが、仕方なく開けることにした。
朱堂ちゃんが選んだであろうちょっと厚めの封筒を開けるのは少しだけ緊張する。

「…手紙と、写真?」
「彼氏ができました報告か?」
「お前本当いい加減黙れよ」
「で、何の写真だ」
「金城…お前…」

いつの間にか乗り気になっていた金城。お前そういうやつだったか?と睨むが、どうやら興味は写真らしく、気づいていない。これが福ちゃんのライバルだったのかと思うと、なんだか溜息がでてしまう。
さっと手紙だけと抜き取り、封筒に残った写真は机とオレの手のひらでサンドして見せないようにする。どうせカバンの中に放り込んでも探す奴らだ。

「ッチ!」
「舌打ちすんな」
「で、その奏ちゃんはなんだってよ」
「お前が奏ちゃんとかいうなボケ」
「奏ちゃーん、奏ちゃーん」
「待宮、そろそろ荒北が切れそうだぞ」

けっ!と手紙を見ると、封筒と同じ字で文章が書いてある。
そこにはもっと早く渡そうと思ったんだけど、渡しそびれた写真を同封しますと書いてある。写真で思い当たるのは卒業式の写真だろうか。あとジャージ姿で撮ったやつ。確かにあの写真をもらった記憶はない。というか、くれるとか思ってもいなかった。

「彼氏ができたって?」
「ちげえよ、卒業式の写真じゃねえか。渡しそびれてた写真って書いてある」
「律儀じゃのう」
「朱堂ちゃんはそういう子なの」
「見せえ」
「俺も見たい」

まあ、たぶん変な写真はないはずだ。朱堂ちゃんも変な写真を撮る趣味はないし、あの時のノリで変なことをした記憶はない。朱堂ちゃんが東堂に爆弾を落とした以外は通常運転だった。まあいいか、とその手紙を最初と同じように折ってカバンに放り込む。どうせコイツらの興味は写真だ。

「追い出しん時の写真だろ、あと卒業式の」
「お、これが奏ちゃんか」
「奏ちゃん言うな」
「ああ、この子か。IHで見かけた覚えがある」

追い出しの時の集合写真、といっても、3年メンバーと朱堂ちゃんだ。福ちゃんはいつもの鉄仮面だし、新開もいつも通り、東堂はいつも通りうざい。そして朱堂ちゃんもいつもと同じだった。男子に囲まれている朱堂ちゃんは小さく見えるのが不思議だ。それからIHメンバーの写真が入り、いつとったのかわからない福ちゃんとオレの写真。オレと朱堂ちゃんの写真は今でも覚えてる。

「荒北、今度紹介せぇ」
「ふざけんな、朱堂ちゃんが穢れる」
「お前は彼女の親か」
「まあお前みたいな男なんて朱堂ちゃんの手にかかれば一捻りだっての」
「小悪魔か!」
「いや、物理的に」
「周りの男が黙ってないってか」

笑う待宮に金城は「まあ男ばかりの女子だしな」と一緒に笑う。だがそっちの意味じゃない。朱堂ちゃんは強い、物理的に。高校の時にひったくり犯を捕まえたり、女子の友達と電車で出かけた時には痴漢を捕まえたりと肝が据わっている。それを知らずに言っているんだからこの二人の頭はお花畑だ。ついでに言えば、オレが絡まれているときに助けてくれてこともある。その時は相手が「朱堂さんの知り合いじゃ仕方ない」と言っていたのは今でも覚えている。本当朱堂ちゃん何者だよ。

「朱堂ちゃんかー、メールするけどこうしてみると懐かしいもんだな」
「アドレス教えろ荒北。奏ちゃんにオレ紹介せえ」
「朱堂ちゃんの好みじゃないからパス」
「荒北でも彼女の友達なんだ、待宮とそう変わらないだろう」
「金城てめぇ…オレと待宮がどう同じなんだよ!だいたい朱堂ちゃんはもっと誠実な男がお似合いなの」
「誠実誠実」
「呉南がよく言うな、おい」
「勝つためじゃ」
「絶対ぇ紹介なんかしてやらねえよ!」

朱堂ちゃん可愛いから野獣にゃやんねえよ!


御題:休憩



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