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 青春に告ぐ

「……朱堂さん」
「今日朱堂は休みだぞ真波」
「柔らかいんですよ」

その真波の言葉にその場にいた人間は固まる。朱堂奏は生きた人間で、マネキンではないのでそれは確かに柔らかいだろう。しかし、その言葉の後に始まった真波の動きが悪いのだ、それはまるで抱きしめるかのような動きだ。

「こう、腕をね、こうすると、すごく柔らかくて」
「……いきなりどうした」
「また朱堂さん抱きしめてくれないかなって」
「…真波、お前いつ朱堂ちゃんに抱きしめてもらったんだヨ」
「IHのゴールで」

その言葉を聞いて、荒北が持っていたボトルを落とした。真波はそんなことはまるで構わないといった様にまだ続ける。

「いい匂いがしたんです」
「……」
「あ、福富さんもハグしてましたよね」
「ああ…」
「新開さんも、東堂さんは…」
「うるさい、オレはハイタッチだったんだ文句あるか!」

そうそう、朱堂さんが嫌って逃げたんですよね。と笑っている。
朱堂からすると、ファンクラブのある東堂はちょっと扱いが面倒らしい。それは誰が見てもわかる。ついで人気のあるだろうと思われる新開にもちょっとだけ神経を使っている。

「…オレ、されてない……」
「泉田さんもしてないと思いますよ」
「お疲れ様とぼくは握手はしましたよ」
「靖友…」
「握手さえもしてないオレ…」



「え、」
「なので、また抱きしめてもいいですか」
「……うーん」

次の日、部室で間をじわりじわりと詰める真波の姿と、それに抵抗している朱堂の姿。朱堂は部室に来たばかりらしく、鞄を肩にかけている。

「昨日の続きか真波」
「朱堂さんが逃げるんですよ、福富さんからも言ってくださいよ」
「福富くんが言ってもそれは変わらないからね真波くん!」
「ねー、朱堂ちゃん。オレ、IHの時ハグもハイタッチも握手もなかったんだけど」
「え、しなかったっけ!?って真波くん、いきなりそれはどうかと思うよ先輩!!」

荒北が朱堂に話しかけている隙にがばっと攻めてきた真波を間一髪で避ける。相当驚いたのか、いつもより焦った声色をしている。それからゆっくりと福富と荒北の後ろに移動し、上級生バリアをちゃっかり張っているあたり頭がいい。

「じゃあ、荒北くんと真波くんが今ハグしたらいいよ」
「それオレにも真波にもダメージしかないんじゃない?」
「そうですよ、何が楽しくて荒北さんの硬い体触らなきゃダメなんですか」
「それ、私にも言えなくない?」
「奏さんすごく柔らかくていい匂いです!」
「何オメェちゃっかり名前呼びしてんだよ」

ひゃー!という少し間抜けな声を出して朱堂が顔を隠してしゃがみこむ。福富が「具合が悪いのか?」と同じくしゃがんで朱堂に声をかけるが、朱堂は無言で違うと頭を振る。すると荒北も同じくしゃがみ、「朱堂ちゃーん?」と声をかけるが「大丈夫、大丈夫だから…」と。それに便乗した真波も「奏さん?」というと、また朱堂は「ひやあー」という。

「朱堂、お前もしかして…照れているのか」
「そうです、そうですよ…だって男の子に、名前で呼ばれるとか…中学生の時以来なんだもん…恥ずかしい…なにこれ」
「奏ちゃーん」
「荒北くんやめて!」
「奏さーん」
「やめて真波くん!」
「奏」
「やーめー!!」

耳まで赤くなっている。これはよほど恥ずかしいらしい。ちょっとした悪戯心が出てきたのか、三人は朱堂を囲んで名前で呼び始めて遊んでいる。

「奏ちゃーん」
「奏」
「奏さーん。でも、これ福富さんが一番すごいですよね、呼び捨て」
「まあ福ちゃんが奏ちゃんとか、奏さんってがらでもねえし」
「ダメか?」
「いいんじゃナイの」
「山岳、靖友、寿一!」
「お?」
「こうなったら私も呼んでやる!山岳!」
「はい!」
「靖友!」
「おす」
「寿一!」
「奏」
「ぎゃー」
「福ちゃん最強」

鉄仮面最強じゃね?と荒北が茶化す。結局朱堂は半無抵抗なまま三人が呼んで遊んでいると新開と東堂が部室に入ってその異様な場面に遭遇して、珍しく困っている。

「朱堂を囲んでイジメか?」
「ちげぇよ、朱堂ちゃんの下の名前で呼んで遊んでんの」
「もうやめてよー。死んでしまうー」
「やめてって言ってるぞ」
「新開くーん、東堂くーん」
「奏さーん」
「いやああ」

これ、呼び続けてると朱堂ちゃん名前呼びして対抗してくるんだけど、朱堂ちゃん結局恥ずかしくてこうなるんだよ。さっきそうだった。と荒北がいうと、二人は可を見合わせてその輪に入る。

「奏ー」
「奏ー」
「いやああ」
「お二人も呼び捨てですね」
「奏、奏が俺達を名前で呼んだらやめてやってもいいぜ」
「……尽八、隼人」
「え?なんだって奏」
「尽八!隼人!いい!?これで!!」

きー!!と顔を真っ赤に染め、ついでに涙目で言ってきたのでそろそろ可哀想になり、その遊びは幕を閉じた



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