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 閉じ込めてそれから

「壁ドンて何」

新開がそんな意味もない一言を言ったばかりに、相手をしなきゃいけなくなったオレの身にもなって欲しい。

「あれか?隣が煩いから壁叩くヤツ」
「東堂うるせぇからよくやるぞ」
「煩いとはなんだ、荒北貴様こそオレが巻ちゃんと電話していれば壁をドンドンと」
「いや、そういうんじゃなく…女子にする?らしい」
「なら朱堂に聞けばいいだろう、朱堂は女子だし知っているのではないか?」





「と言うことで、朱堂。壁ドンてなんだ?」

部活が終わって、朱堂ちゃんが備品やら記録が書いてあるノートやらを片付けている時に新開が聞いた。ほら見ろ、朱堂ちゃん嫌な顔してる。

「…ん?」
「朱堂女子だし知ってるだろ?」
「お隣さんがうるさくて壁叩くやつ?」
「そうじゃないやつ」

あ、無視して片付け始めた。
新開が朱堂ちゃんに付きまとってしつこく聞いている。気になるならクラスの女子にでも聞けばいいのに、と朱堂ちゃんは言ってる。まったくもってその通りだと思う。

「荒北くん、新開くんがうるさいです」
「朱堂ちゃん嫌だってよー」
「朱堂本当に知らないのか?本当に?女子なのに?」
「新開くんの中の女子という存在はそんなに万能なんですか。女子はなんでも知っているんですか」

どうやら朱堂ちゃんは機嫌が悪いらしい。いつもならあからさまに嫌な顔をしないのが証拠だ。

「朱堂ちゃん、もしかしてお腹減ってんの?」
「うん。早く帰りたい」
「じゃあさっさと帰んナ。新開は無視して」
「ひどい!だって女子の間で流行ってるんだろ?教えてくれたっていいじゃないか」

そんなの今じゃなくてもいいじゃん!と朱堂ちゃんの正論が飛ぶ。本当に今じゃなくて良い。朱堂ちゃんは相当腹が減っているのか、時たま腹の虫が鳴いては「お腹空いたのー!」と珍しく駄々を捏ねている。

「本当に、もう帰らせてよ…皆みたいに私寮生じゃないんだよ…これから帰らないといけないんだよ…」
「朱堂が教えてくれたらいいだけじゃないか」
「明日クラスの女子に聞いたら良いじゃん!」
「お、これ食べるか?キャラメル」
「いる!」
「じゃあ教えて」

新開は持っていたキャラメルを開けるとひょいと朱堂ちゃんの口に放り込んだ。腹減りの朱堂ちゃんの顔がイライラしていたものからいつもの穏やかな顔に変わるのは見ててちょっと面白い。それだけ飢えていたってわけだけど、そりゃマネージャーだっていっても運動量もバカにはならない。新開みたいに食料を持ち歩くわけでもないし、その時の昼の量もあるわけだ。朱堂ちゃんはたぶん今日昼が少ない。

「……まあ、新開くんにはキャラメルの恩があるからな…」
「安い恩だな朱堂ちゃん」
「壁ドン!壁ドン!」

嬉しそうに手を叩いて拍子をとるあたり、新開はちょっとバカだと思う。
朱堂ちゃんはオレを手招きで呼んで、部室に置いてあるパイプ椅子を持つ。朱堂ちゃんの事だからそれでオレを殴ったりしないよね?と確認すれば、「…荒北くん、私の事そんな風に見てたの?」と言われたので激しく否定した。そのパイプ椅子は壁際に置かれ、朱堂ちゃんはオレに座れと言う。

「なんでオレが座るわけぇ?」
「だって荒北くん私より大きいから」
「なあなあ朱堂、デカイと壁ドンできないのか?」
「できなくはないけど、あれよ。見た目の関係?」
「で、どうするだ」

パイプ椅子に座ると、ちょっと目線を上げれば朱堂ちゃんの胸。なんだか居心地が悪い。男臭くて汗くさいオレとは対照的に制汗剤と女の子の柔らかい香りが生々しくてどうしていいかわからない。

ドン。と頭の上で音がして、今まで朱堂ちゃんの胸と匂いでドキマギしていた頭が現実に戻される。
見上げると朱堂ちゃんがオレを見下ろしている。いつもは逆で、上からいつも見ている朱堂ちゃんの顔が何時もと違って見える。色っぽいというか、ちょっと威圧的というか、とにかく違う。

「ねえ」
「…あ、」
「荒北くん、」

キャラメルを食べていた朱堂ちゃんの息が甘い。

「顔」
「…へ」
「赤いよー」
「んな!?」
「こんな感じで、主に男子が女子を壁際に追い込んで逃げ道を遮りつつ迫るものを壁ドンと呼んでます。ただ、気を付けてもらいたいのは、お互いの了解がないと、なんか罪に問われるらしいよ。脅迫罪?」
「椅子は必要か?」
「新開くんはいらないと思うよ。身長高いし」
「なんで靖友は座らされたんだ?」
「私より身長が高いからです。荒北くん、ありがとう。立っていいよ………荒北くん?」

トンと、肩に朱堂ちゃんの手が触れると柄にもなく飛び上がってしまった。ビックリしている朱堂ちゃんには「わるい、ちょっと…ボーッとしてた」と頭の悪い言い訳をした。

「まさか靖友、おめさん…朱堂を意識したな!」
「な!ば、ばかか新開テメェ!!」

バキュン!といつものポーズでふざける新開に首にかけていたタオルで殴りかかる。

「あとね、壁ドンするときはだいたい恋愛の意味を含むから、むやみやたらにやったら駄目だからね新開くん」
「今このタイミングで言うのかおめさん!今オレ靖友にイタタタタタ」
「自業自得でしょ」
「新開テメェ!!逃げんな!!」
「ぎゃー寿一ぃ!寿一はどこだよー!」
「新開くん、他の壁ドンを知りたい?」
「今いい!悪い、オレが悪かったから靖友…靖友ー!!」

じゃ、私帰るね。といつの間にか帰る準備をしていた朱堂ちゃんは鞄をもって部室のドアに手をかけている。さっきの事があって顔が見れないけど、一応「じゃあね朱堂ちゃん!新開ゴルァアア!」と誤魔化す。
バタンとドアが閉まる音がして、朱堂ちゃんの気配がなくなると新開が「なあ」と真剣な声がしてオレは新開を殴る腕を止める。

「…なんだヨ」
「朱堂、いい匂いたたたたたたたた!!!」

マジこいつ本気で二三発殴る!

御題:休憩



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