弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 金魚にはなれない

※リクエスト


「何故浴衣ではないのだ朱堂!」
「そうだぞ朱堂、祭りに女子は浴衣だって決まってるだろ?」

部活も少し落ち着き、涼しいとはまだ到底言えない頃。
今日は祭りがあるんだと部活で話題になり、去年はそれを知らなかった奏が深くは考えずに「お祭り楽しそうだね」と言った一言から部活仲間である彼らに誘われたのだ。
奏からしてみれば女子から人気のある東堂と新開と一緒というのは抵抗があったが、それに加えて福富や荒北が一緒ということもあり、それに部活仲間だという免罪符が付くことによって少し渋々という言葉がつくが一緒に行くこととなった。

「ご、ごめん…?」
「別に朱堂ちゃん謝る事ねェよ。だいたい今日言ってすぐ準備なんかできねェんだよバァカちゃん」
「去年は行かなかったのか?」
「うん、色々忙しかったし、余裕もなくて」

しかし女子が一緒だと浮かれていたらしい二人からは駄目だしを受ける奏。正直納得はできないが、全員が全員そう思っていたのではないのか唯一の救いかもしれない。
事実去年の奏はIHの後のまだ落ち着かない時期であり、それを除いても余裕自体がなかったので祭りがあったというのを後日知ったというのが正解かもしれない。

「でも浴衣の女の子だったら二人で女子誘えばよかったんじゃない?きっと喜んで着てくれると思うけど」
「そもそも俺達にそんな余裕があると思うのか?」
「ないの?」
「毎日部活の日々だぞ?」
「そっちの余裕か…」
「朱堂は何の余裕だと思ったんだ?」
「えーっと、女の子と喋る余裕の方かと思った。女子からキャアキャア言われてるのになって」

質問してきた福富も奏の答えに納得したのか、小さく「ああ」と頷いた。
そもそも箱根学園の自転車競技部という部活に属している身で時間に余裕がある者は少ないだろう。それが選手でなくても、だ。誰もがレギュラーを目指して日々体を動かしているのだ。一瞬でも気を抜けば下級生が上級生を蹴落としてレギュラーになるのは常日頃の事で、言えば弱肉強食だ。苦労して手に入れた座を易々と譲るような人間は恐らく部内にはいないだろう。

「何を言う朱堂。俺が一人を選んだら女子が泣くだろう」
「……うん、そうだね東堂くん」
「東堂、ここで唯一朱堂が女子だぞ」
「問題ない、なぜなら朱堂はマネージャーだからだ!」
「そうか!」
「福ちゃーん、んな馬鹿置いて行こうぜぇー」
「俺焼きそば食いたい」
「寮のご飯食べてないの?珍しいね」
「食べたけど、腹減ってさ」

一悶着の後、ゆっくりと集合場所から移動して祭りを見て回る。
それなりの祭りらしくメジャーな物が点々とあり、それには小さいながらも列が作られている。祭り独特の雰囲気につかりながら昼間の部活が疲れたねといつものなんてことのない話題を離しながら眺めては新開が並ぶために抜けては入りを繰り返し、東堂はファンクラブの女子に会ってはきゃあと声をあげられていた。
それとは頻度が少ないが、奏も奏でクラスの友人らに声を掛けられては「え、東堂様と一緒…新開くんも!?」と何度も言われ、その度に他のメンバーを見ては「ああ部活の仲間か」と納得されていた。

「…朱堂は女子と一緒じゃなくて良かったのか?」
「え?…うん、去年も今年もお祭り自体わかってなかったし、部活もあったし」
「でもさぁ、オトモダチに何人か会ってんじゃん。そいつらも薄情だよなぁ?朱堂ちゃん誘わねェで自分らばっかでヨォ」
「そうかな…皆私が部活で忙しいの知ってるし、皆が皆ここの近所じゃないし…そう思ったことはないよ。あ、もしかして私がいると迷惑だった?ごめんね…」
「ああああ!違う!違うヨォ朱堂ちゃん」
「あ、靖友が朱堂困らせてる」
「なんだと!?荒北、朱堂に相手にされんからといってイジメるのは良くないぞ!」
「はぁ!?オメェらなぁ!!」

わははは。と走り回る直線の鬼と山神に運び屋はギャアギャア騒ぎ、残されてしまった福富と奏はしばらくそれを眺めてから「かき氷でも買おう」と二人で並んで戻ってきてもまだ騒いでいる三人をまた眺めながらかき氷を食べていた。



prev|next