弱虫 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 では私から切っ掛けを作ってあげようではないか

「あ…」

夏の暑い日だ。セミがうるさいくらいに鳴いているし、アスファルトの照り返しも暑い。言えば夏らしい夏の日。
いつもの様に奏はあまりやる気のないサークルに参加している。とりあえずは高校の後輩も居るので、先輩としては一応の参加態度というものも気になってはいるので真面目なフリをして参加していた。

「どうし…だ、大丈夫!?」
「暑さにやられかな」

ぽたぽたと鮮やかな血が流れている。
同じマネージャー仲間の子が奏の顔を見てサッと顔色を悪くする。奏の鼻から血が流れているのだ。

「血が出ちゃったよ。鼻血」
「何冷静にしてるの!医務室!えっと、一人で平気?」
「余裕。タオル貰っていくね」
「いいけど、本当一人で平気?頭大丈夫?」
「くらくらはしてないから大丈夫だよ多分」

持っていたタオルを貰い、奏はそれを自分の鼻に当てる。とりあえずの止血と服を汚さないために。心配する仲間に見送られながら奏は普通に歩き出す。
奏は鼻血を出すのは恐らく高校以来だなとぼんやり考える。確か最後に流したのは合宿の時。一生懸命になりすぎて巻島に言われるまでずっと鼻水だと思っていて血みどろになっていたことがあった。

「…朱堂、」
「げ」
「どうした…?」
「鼻血が出たから医務室行く」
「付いて行く」
「断る」
「途中で倒れたらどうする」
「倒れない」
「万が一」
「倒れない」

福富は休憩をしていたらしく、奏が一人でタオルを顔に当てているのを変だと思ったのだろう。奏はそれなりに友人が居るし、後輩である今泉が何かと一緒に居ることが多い。その奏が一人とうのは普段あまり目にしないのだ。
それに4年前の負い目もあり、奏には人一倍気にしている。
奏についてくるなと言われながらも福富は「危ない」と言って奏の後ろをついてくる。

「ついてくるな」
「危険だ」
「……なら私の前歩いて」
「………ああ、わかった」

ささっと奏の前を歩く福富。その理由は言うまでもない。奏は特に福富が後ろにいることを嫌がる。それは学食で並んでいる時も、ミーティングの時でさえも。理由を知る新開や今泉は不自然ではない程度に二人を離すし、福富も気にして奏の後ろには立たないようにしている。しかし今の場合は例外で、福富も顔には出てはいいないが心配して忘れていたらしい。
福富が前に出ると奏も黙り、静かに医務室に向かう。
医務室で適切な処置をしてもらい、しばらく休んでから行きなさいと言われたので奏はそこでしばらく休むことにしたのはいいのだが、そこで「少し席を外すからそこの君、すこし彼女の様子見てて。何かあったら事務室まで行って」と言われてしまった。

「…すまない」
「何が」
「オレでは、気分が悪いだろう」
「………いつまでそうしてんの?」
「…っ」
「いつもそうじゃん。私に許してほしそうな顔ばっかりしている割に黙ってばかり」
「……」
「どうしたいの、自分が許されたいの?私に許してほしいの?」

奏からしてみれば、純粋な疑問であり、福富から見れば残酷な質問だろう。
奏はもう過ぎた事だし。と許せるほど心が広いわけでも、金城の様に優しくはできない。最後のIHに出ることができなかったばかりか、好きだったロードが恐くなった時期さえあるのだ。今は仲間のおかげで自由に乗れることはできるが、前の様に体と作っていたわけではないので選手の様には走れない。それとは逆に福富は自由に走れるし選手、まして性別は男であり、女の奏とは別格なのだ。

「…すまない」
「それって、何に対して?」
「…っ」
「とりあえず私に謝っとけばいいやってやつ?」
「ちが…う、」
「ふーん?」
「オレ…は、朱堂に……許して、欲しい」
「私に許してほしいんだ」
「………ああ」
「じゃあさ、私と勝負してよ」

ロードで。と奏は続ける。
当然福富と奏の現在では圧倒的に奏が不利であり、勝てる要素はまずない。むしろ勝負を申し込む時点で間違っているのだ、勝負にさえならないのだから。

「次の日曜オフでしょ?あそこのサイクリング場」
「しかし…」
「どうせ勝負にならないとか思ってるんだろ。顔見ればわかる。いいんだ、勝負にならなくてもさ。私もさ、あの日から決別しなきゃだし。先に進まないとダメなんだよね」
「………っ」
「いつまでも嫌ってばかりもいられないっショ」

あ、巻島元気かなー。とまったく別の事を話し出す。福富にはあまり関わりのない巻島なので知らないのだろうが、「っショ」は巻島の口癖だった。

「9時半現地集合。事情を知っている人間のみ誘っていい事で」
「……わかった」
「止まったかなー、あ」

血にあまり慣れていないのか、ドロリと出た血に福富は奏以上に青い顔をして焦った。



prevnext