弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 別の意味で夏が来た

「朱堂さん、サークルの皆で今年も海かプールっていう話なんだけど」
「あー私今年もパス」
「なんで参加しないの?」
「だって日焼けの跡とか恥ずかしい私…」

クネクネしてワザとらしく恥ずかしがる奏にマネージャー仲間が笑う。
奏が水着になりたくない理由は日焼けではないのだが、毎年そうやって逃げている。奏が高校2年の時にIHに参加していた者はその理由を知っているので奏に強制参加を言いつける先輩は今の所居ない。

「でも朱堂さん、そんなに日焼けの跡ないよね」
「私脱ぐと凄いの」

最初こそ参加しない奏に陰口の様なものはあったが、奏のキャラクターでいつの間にかそれもなくなっている。

「新開くんとか朱堂さんの事誘ってくれそうなのに」
「ないない、それはない」
「あと福富くんとか」
「ないわー」
「今泉くんが誘ったら来る?」
「行かなーい。あと今泉は私誘わないよ、絶対」
「絶対?」
「うん」

ふーん?と話していると今泉がちょうど通りかかり、マネージャー仲間の彼女が今泉に話しかける。例のプールの件だ。参加は自由だが、暗黙の了解の様に参加が半強制的になっている。

「今泉くん、サークルで海かプール行くんだけどどうする?」
「…朱堂さん、行かないですよね」
「おう」
「じゃあオレも不参加で」
「えー、行けばいいじゃん。可愛い女の子水着姿とか見れるよ」
「興味ないんで」
「朱堂さんが参加なら参加する?」
「考えます」
「よし、私参加しない」

今泉と奏は高校からの付き合いで、奏自身高校時代に見ていたが今泉はモテる。それこそ非公認ファンクラブがあるくらいには人気がある。なのでその今泉に参加してほしいというのか本心なのだろう。今泉目当てにマネージャー志望の女子が数人いるのだ、ついでにその子たちからの奏の評価はあまりよくない。

「毎年だけどさ、どうして朱堂さん参加しないの?」
「………聞きたい?」
「聞きたい!」
「朱堂さん、時間いいですか」
「ちょっと今泉くん、今私と朱堂さんが」
「ヒント:4年前のIH。おっし、なんだ今泉」
「はい」

きょとんとしている彼女をおいて今泉と離れる奏。
その件を知っているのは恐らくサークル内でももう少数だ。当事者が居る手前、知っていても触れられないのが現状だろう。誰も「そういえば」という感じでも話さないのはそのためだろう。

「いいんですか」
「いいんじゃない?事実だし。どうせ今泉だって私用事ないんだろ」
「……はい」
「飲み物でも奢ってやるよ。先輩思いの後輩にはご褒美がいるだろ」



「新開くん、4年前のIHの事で、朱堂さんが関係してる事って知ってる?」
「え?」

さっき朱堂さんが言ってたんだ、毎年プールとか海に参加しない理由のヒント。と何も知らないマネージャーの彼女は新開に問う。
奏と新開は正直親しいという間柄ではない。しかしIHに出ていたというのは周知の事実であり、それで新開が奏を構っているのだろうというのが周りの反応。ついでに奏に対して矢印を出している雰囲気ではないのもわかっている。

「えっと…それは…なんだろうな」
「新開くんも知らないのか…福富くんは知ってる?」
「……っ」
「福富くん?」
「ごめんな、これからオレ達ちょっと教授に呼び出されてて。行くぞ寿一」
「あ、うん」




「て、言う事があったんだけど」
「ふーん」
「そうなんですか」
「どうしてそういう事言っちゃったの?」
「聞かれたから」

奏が今泉と自販機の間で二人でしゃべりながら過ごしていると、奏の姿を見つけた新開が凄い勢いでやってきた。ついでにその後ろからげっそりした雰囲気の福富も一緒だ。

「私だって日々日焼けの跡がーってやり過ごすのも大変なんですけど」
「それでもさ…」
「まあ勝手に探られるよりいいんじゃない?まだ本人に聞いてきたってことには好感持てるよ、あの子。でもまさか箱学生に行くとは思わなかったけど」
「朱堂さんのヒントがいけないと思います」

そうかなー。と奏は持っている缶を揺らす。
あのIHの落車で奏は大怪我を負い、その怪我は治ったものの、奏の体にはいろんなものを残している。まず一に傷跡、そして体の不調不具合。年数が経ったとはいえ、傷跡は思うように直ぐは消えてくれずに色濃く残っている。水着に慣れないわけではない、ビキニ系統を着なければいいが体を冷やす行為はなるべく避けたい。それに紫外線も敵なのだ。

「すまない…すべてオレの責任だ」
「そうですね、朱堂さんがロードに乗れなくなった責任どうしてくれるんですか」
「今泉が怒ったー」
「福富さんが全部話せばいいじゃないですか。金城さんと朱堂さんを落車させて大怪我させたって、意識不明までに追い込みましたって」
「……っ」
「今泉、怒ってくれるのは嬉しけどな。TPO大切ですよね」

我に返った今泉は「すみません」と奏に向かって頭を下げる。

「あ、もういっそ居ない彼氏を仕立てて『彼が駄目っていうの』にしてしまえばいいのか」
「!」
「もしかしたら写真を求められる場合があるけど…古賀に頼もうかな、確か今フリーだし」
「コガ?」
「高校の部活の後輩で、こっちに進学してて、同じバイト先なんだよね。私と同じく4年前のIHで負傷組。今泉も一緒なんだけどね」
「へー、どこでバイトしてるの?」
「カフェ。場所は言わない。ついでに古賀は金城を凄く尊敬している後輩の一人という事を教えておく」

奏は遠回しに「来ると後輩キレるから来るなよ、絶対に」と言っている。



prevnext