弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 守られるのは望んでいませんでした

「どこへ行く」
「自販機に飲み物買いに」

合宿をしている宿の廊下で、ちょうど出てきた福富くんが何故か心配そうに声をかけてくれた。
まだ消灯時間には早いし、だからといって出歩く時間ではない。そもそも私自身、近くのコンビニまで行こうと思えるほどの体力は日中のマネージャー業でほとんど使い果たしている。

「付き合う、少し待っていろ」
「え?あ、うん」

バタンと部屋の扉がしまり、中から話し声が聞こえる。確か福富くんと相部屋になっているのは荒北くんだったはず。荒北くんは「ベプシよろしくねェ」なんて言っているのかもしれない。

「待たせた」
「荒北くんはベプシ?」
「ああ」

宿は毎年箱学が使っているし、それに他の学校も使うので自販機はたくさんの種類がある。冷凍食品もあるので食べ盛りの私達にもすごく優しい。でも、バランスを考えている人にはただの誘惑でしかないらしく、絶対に自販機のところにいかない!という人もいる。ちなみに私はマネージャーなので特に気にしてはいない、けどやっぱり体型というか体重は気になるのでちょっと我慢したりもする。

「福富くんは飲み物?食べ物?」
「そうだな…見てから決めようと思う」
「口寂しいってやつ?」
「いや、朱堂が一人では危ないだろう」
「えっ」
「一人歩きは危険だ」
「危険て…自販機だよ、宿の」
「朱堂は女子だ」
「…私、階段から落ちたりしないよ」
「そういう事じゃない」

一応、女の子扱いをしてくれているのだと思うけど、それ今するところ?という言葉が出掛けたが飲み込んだ。宿といっていいのか、それともホテル?その中間のここは自転車部の私達の他にも客はいる。たぶん、それでいってくれているのだと思う。
細かいことを気にしたら敗けだ、たぶん。何気無い話をしながら二人で歩いてエレベーターに乗り込み、自販機ルームと部員が呼んでいる自販機だけを集めたような小部屋についた。

「各階にあるといいのにね」
「あるだけマシだろう」
「そうだけどさ、いちいちここまで来ないとだし…何にしようかなー」
「そっちベプシあるか?」
「ベプシはね…あ、そこにあるよ」

私が指差した先を見て福富くんはお金をいれてベプシのボタンを押す。あの独特のガコンという音が響いてベプシが落ちてきた。

「アイスかー、アイスもいいよね」
「腹壊すなよ」
「そんなやわな腹ではありません故、何卒ご安心めされよ」
「滅茶苦茶だな」
「ま、大丈夫ってこと」
「考査が近いが大丈夫か?」
「その点は抜かりないから大丈夫ー。私お茶とアイスにしよっと、福富くんどうする?」
「そうだな、水にする」

お互い目当ての自販機にお金をいれてボタンを押すと、ガコンガコンと品物が落ちる。

「食べ物はいいの?」
「必要ない」

私の手にはアイスとお茶のペットボトルと財布。福富くんの手にはベプシと水のペットボトル。ちなみに福富くんは小銭だけを持ってきたらしく、歩く度にポケットで音がする。

「寿一と朱堂か」
「新開くんも食料調達?」
「まあな。尽八とジャンケンに負けてな…」
「そっか」
「お!朱堂、それアイスか?一口…」
「新開、朱堂にたかるな」
「寿一…いいじゃないか、友達だろ」
「お前の友達に対する要求は度を越えている。朱堂の優しさに漬け込むな」
「福富くん…!」

格好良い、惚れちゃう!と私が言うと、福富くんは柄にもなく照れて赤くなった。そういうところは可愛いよ、福富くん。



prevnext