弱虫 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 ガードマンがやってきた

※今泉が早明に進学してます。



「今泉ー!入学おめでとーう!先輩は、先輩はすんごく嬉しいです」
「ありがとうございます」
「でもアレだな、高校の時の可愛さがないな」

あはははは。と奏は笑う。
今日は早明大学 自転車競技サークルの新入生歓迎会という名のコンパだ。先輩で飲酒が可能なものはそれをダシに飲んで騒いでいる。
どうして奏がそれに参加しているかといえば、例の友人に半強制的にサークルに参加せられ、経験者である奏がありがたがられる頃には姿を消していた。そんなこんながあり、今現在なんちゃってマネージャーをしている。どうして「なんちゃって」なのかといえば、正直真面目に参加していないからだ。

「朱堂さんは上級生のところで飲まなくていいんですか?」
「だって私、真面目に参加してないもん普段。なんちゃってマネだし。そういう今泉だって先輩に媚売っといたほうがいいよ。人間関係大切よ」
「その言葉、そのままお返しします」
「それでこそ今泉だ」

うん。と頷く。
ちなみに奏のグラスは酒ではない。奏自身飲酒はするが、どうも苦手でこういう場でもあまり飲まない。それが理由で上級生の騒ぎに入ろうとはしないのだ。
今泉の他にも新入生はいるが、やはり半分以上は先輩に媚を売りに出ているし、それが奏も正解というか、手っ取り早い事だと思っている。

「鳴子と小野田と、えーっと杉元はどこ行ったの?」
「県外です。ロードは続けるって言っていたのでレースで会えると思います」
「んー、そっか。寒咲は実家?」
「いえ、自転車の事をよく知るためにとか言って進学してます」
「ゆるぎないなー」
「金城さんと田所さんと、巻島さんは?」
「金城はレースで会うし、田所は里帰りで会うくらいかな。巻島もIHであったくらいか」

高校で仲良くてもこんなもんかな。と奏は笑う。
そもそも今の拠点が違うのだから仕方がないのだ。会いたいなと思って会える距離ではないし、もう高校の様に気軽に会える時間もない。

「今泉はさ」
「朱堂!!」
「うお、はい…って、なに。」
「朱堂!!」
「なんだよ福富…顔真っ赤だぞ」
「朱堂!!」
「だからなんだっての」
「朱堂、今から福富からの告白だぞ」

見れば奏からみて一つ上の先輩と同学年の学生がニヤニヤして奏と福富を見ている。そこに新開の姿がない事に気付いた奏はサッと顔色を悪くする。奏にはただ悪い予感しかないからだ。

「福富、トイレ行くぞ。今泉ちょっと手伝って」
「は、はい」
「朱堂!!」
「うるさい、黙れ。今泉!どうしてこういう時に新開居ないかな!」
「オレは、お前に許されないころをしら!!」
「はいはいそっすね。ほら立て、今そこで土下座したら多分中身出るぞ」
「ろうして…優しくすうんだ…」
「そこで吐かれたら私が困るからだ」

今泉の肩に寄り掛かる様にして奏と共にトイレに行かされる福富を何やら宛の外れた期待だけが取り残されて会場は静まる。おそらく普段から福富が奏を気にしていたのを周りが勘違いしていたのだろう。それで最近飲めるようになった福富に酒を飲ませて勢い付かせて告白させてやろうぜ!という本当に要らないお節介を焼いただの。

「あれ?どうしたの?」
「いや、福富に告白させてやろうと思って背中押したら…」
「誰に?」
「朱堂」
「えっ」
「そうしたら朱堂が今泉連れて福富をトイレに」
「じゅ、寿一ー!?」

「まあ吐かせに行ってるんだけど」という残りの言葉は新開の耳にはる事はなく、新開は近くのトイレに走った。

「福富は朱堂の事が好きなんじゃなかったのか?」
「今泉が今彼とか」
「三角関係か…」
「よし、今度今泉レースで潰すぞ」
「おとな気ないな…よし乗った」




「奏ちゃん、寿一は!?」
「トイレで吐いてる。今泉につき合わせてるからお礼よろしく」
「吐いてる…?」
「真っ赤な顔して私のところ来て土下座しようとしてたから。勘で吐きそうだなって思ったら案の定。あと、一人で飲ませるなよ。私心臓止まるかと思った」
「……ごめん。」

奏は男性用トイレは使えないので、その前の廊下で待っている。さすがに今泉に投げて自分は戻るというのはできなかったらしい。ついでにあの場に一人で戻る勇気もない。
新開は事情を奏から聞くと急いでトイレに入って、吐いている福富に付き合っている今泉と交代した。

「ごめんな、今泉」
「いえ…朱堂さん、福富さんがいるのにこのサークルによく入りましたね」
「入るつもりなかったんだけどねー色々あって。でも楽しいよ」

福富の事は新開に任せて二人で会場に戻る。もうあのことなんて記憶にはないのだろう。どんちゃん騒ぎが再開されている。

「おー、朱堂。福富は置いてけぼりかー?」
「新開に任せてきました。私女なのでトイレまで入れませんし」
「んで、お前今泉と付き合ってんの?」
「うふ。ご想像にお任せしまーす」
「なんだぞれ、オカンのギャグっぽい!!」
「先輩は絡みづらいオッサンの様ですよ」

今泉は知っている。
前に二つ上の先輩、巻島も千葉にいるという奇跡の様な事があり、そこでIH優勝した学年の集まり兼夕食会があった。当時まだ飲酒が出来なかった奏と金城。巻島と田所が飲酒をして奏に絡んだことがあった。その時の飲酒者VS素面者の毒の吐合いは酷かった思い出がある。奏曰く後輩には「いいか、飲酒している人間がまともに頭のまわる素面の人間に勝つのは無理だと思え。よっぽどでなければ素面には勝てない」と言って聞かせていた。

「朱堂が冷たーい。なあ、今泉ぃ」
「そ、…」
「ちょっと止めてくださいよ、私の高校の後輩ですよ。教育によろしくありません」
「朱堂は今泉の保護者か」
「私のポジションの後輩でしたからね、それなりに保護者気取りますよ。あと酒臭いです」
「そうだ、2次会そろそろだけど行く?」
「私は遠慮します」
「オレも遠慮します…」
「やっぱ付き合ってんだろお前ら!」
「付き合ってませんよ」

先輩そうやって絡むからか彼女できないんですよ。と奏は酷い事を言ってその先輩を撃沈させる。しかし相手は酔っぱらっているのですぐに立ち直って「飲み直しだー!!」会場を変えるために各自荷物を纏める。
そういえばあの二人が戻っていないと気付いてその二人の荷物も纏めて持つ。

「あのお二人の荷物ですか?オレ持ちます」
「おう、ありがと」
「まだトイレですかね」
「そうじゃない?知らないけど」
「オレも知りませんけど」

2次会はあの二人も出ないだろう。あの様子では福富を心配して新開も参加しないだろうし、当の福富は論外だろう。今泉と奏がトイレ付近に行くと二人が出てきた。

「お開き。2次会行かないでしょ、二人とも」
「うん、無理だな…」
「はい荷物。今泉が持ってるんだけどね」
「ありがとう。ごめんな奏ちゃん、今泉くん。2次会行けなくて」
「いえ」
「私そもそもこの飲み会も参加するつもりなかったし」
「…朱堂、すまん…」
「酒は飲んでも、」
「飲まれるな」

今泉よくできました。と奏が褒める。

「まあ、そういう事だな。具合が悪いなら仕方がないが、自業自得だボケ。とでも言っておこうか」
「………すまん」
「よし、今泉帰るぞ」
「はい。それじゃ失礼します」
「え、ちょ…手伝って、くれない?」
「面倒くさい」
「朱堂さんを一人で帰すのは後輩として譲れないので」
「付き合ってるの?」
「いえ、でも尊敬する先輩の女性を一人で帰して何かあったらどうするんですか」

去年まで一人だったけどな。と奏は笑った。



prevnext