弱虫 | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

 お断りだと言っている

怒涛の夏が終わり、巻島はイギリスへ留学。そして残った3年はめでたく卒業して個々の進路へと旅立った。卒業式には部員全員で写真を撮り、それなりに思い出に残っている。
奏が東京の早明に進学して数日、自分の取っている講義でまさかの再会があった。

「あれ?奏ちゃん?」
「………」
「元気だった?あ、隣いい?」
「いやです」
「朱堂さん、知り合い?」
「知り合いではありません」

奏の隣で友人となった女の子がキラキラとして新開を見ている。奏としてはもう関わりがないと思っていた人物に内心驚きながら無視をしたいと考えている。

「えー?下の名前で呼び合った仲じゃない」
「ちょ、どういうこと!?」
「……高校の部活の関係。以上オシマイ」
「去年の夏の合宿地が同じで、仲良くなったんだ。そうそう寿一もいるんだぜ?オレ新開隼人、よろしくね」

奏を介し、というよりも奏を口実に新開は奏の友人と打ち解け始める。
奏自身なんとなくわかっていたが、恐らくこの新開隼人という人間は下心なくこういうやつなんだろうと。講義が始まり、隣の女子がやたらと奏の方をチラチラと見てくるが、それは奏ではなく奏を通り越して新開を眺めているのだろう。奏はなるべくそれに気づかないふりをして講義に臨む。正直箱学生とはかかわりたくない。
講義が無事に、というより時間通りに終わって一息ついた瞬間だった。

「奏ちゃん、連絡先交換しよ」
「いやだ」
「じゃあ私と交換しようよ新開くん。新開くんサークル何入ってるの?」
「自転車競技のサークルだよ」

私を挟んで会話するな。と友人に言ってから奏はその席を離れようと右往左往するように体をねじって逃げようとする。しかし奏の友人も新開もまるでそれを阻止するように邪魔をしながら話をしている。

「奏ちゃんサークル入っているの?」
「朱堂さんまだどこも入ってないよ」
「じゃあ一緒に入ろうよ、君もどう?」
「でも私、そういうのわからないし…新開くん教えてくれる?」
「いいよ」
「とりあえず私は次の講義が入っているから行かせてくれないか」
「次どこ?」

あ、そっか。と友人の方はすんなりと奏を解放してくれた。
大学で知り合って間もない友人で、どういう性格なのかは奏自身よくは知らない。恐らく彼女の中で「奏<新開」という図式が出来上がったに違いない。奏はさっさとそこから逃げるようにしてバッグを握った。
そうしてしまえば早い、というか友人のある意味の協力で新開という人間から抜け出せた。そして少しだけウンザリして講義室の出入口まで行く。

「…朱堂?」
「え?あ」
「ここの大学だったのか」
「……新開ならまだいるよ、そこで女子と喋ってる」

じゃ。と無言で立ち去るのも悪い気がした奏はそっけなく言う。
まさか大学にまで来て福富寿一と顔を合わせることがあるとは思ってもみなかった。確かにこの早明大学は自転車競技が強い。高校にもスポーツ推薦の枠で来ていた気がすると思い出す。しかし奏にとってはそんなことはまるで関係のない話だ。あれから競技には出ていないし、もう競技に出るつもりもないのだ。

次の講義が始まり、いつもの様に受けていると携帯が震える。誰かから何かしらの連絡かメールマガジンだろう。一人暮らしを始めるに当たり、近所の店の特売情報は必須だと登録している。
こっそりと見てみると、さっきの講義で一緒だった彼女の名前。見てみると「新開くんとどういう関係?あとこの金髪男子も知ってる?」と写真つきだ。面倒だけど返信しないこと今度は電話がきそうな予感がしたので奏は「本人に聞けば?会話のきっかけになるよ」とそっけなく返す。もともと奏は可愛いくするのは苦手なので、なんにしても簡潔だ。



「………」
「一緒にお昼行かない?」
「行かない」
「えー、行こうよ朱堂さん。私と新開くんと福富くんと一緒に」
「ごめんねー、行かない」
「行こうよ奏ちゃん」
「馴れ馴れしい」
「オレが居るからか」
「うん、それじゃ。私は別の人、もしくは一人で食べる」

一人なんて寂しいじゃーん。と言っているが、奏にとってはそんな事どうでもいい。
そもそも友人だって彼女一人ではないし、まだ始まって間もないだけであって友人が少ない人間はたくさんいる。奏は割り切って三人を置いて行った。

「朱堂さんて、福富くんの事嫌いなの?」
「好かれてはいない。それ相応の事を彼女にしている」
「えー?よく分かんないけど、朱堂さんて心狭いの?」
「違う、オレが悪い。朱堂は悪くない」
「まあさ、奏ちゃんも同じ大学なんだしこれからこれから」

奏がひとつクシャミをしていることなど、この三人は全く知らない。



prevnext