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 蟠りはそのまま

「何してんの、お前」
「ご覧の通り負傷した」

風呂の前に置かれた長椅子に奏がまるで我が物顔して座っている。片足をこれでもかと場所をとる様に乗せているのだ。
荒北が奏が指す方を見れば、奏の足の先にはタオルが巻かれて赤く滲んでいる。

「風呂場で転んだワケェ?」
「まあそんなところ。ほら、女子少ないから私たちが終わったら次男子に開放するって言われて」
「馬ァ鹿だネェ」
「まったくだ。昼間にはしゃいだ疲れが出てな…本当私ってバカ…」
「……」

風呂場が旅館やホテルの様に大きいわけでも各部屋に設置されているわけでもなく、男湯と女湯が各1つ。ココではスムーズに入浴ができるようにと女子を先に入れて、次に人数の少ない総北を入れ、箱学は箱学の浴場が与えられた。総北は箱学に比べ、人数が少ないので総北が終われば次は箱学も可とするというお達し済みだ。

「靖友が奏ちゃんイジメてる」
「イジメてネェよ!」
「馴れ馴れしいぞ!」
「おお、総北の二人乗り女子か」
「某山神に変なあだ名をつけられた」
「で、何してるんだ?もう風呂終わったの?」
「簡潔に言うと、昼間はしゃいだツケが風呂場で出て負傷なう」

イエーイ。とおちゃらけてピースするが、全く持って「イエーイ」ではない。

「金城を…呼ぼうか」
「いや、いい。今後輩が救急箱と杖取りに行ってくれてるし」
「そ、そうか……」
「そちらさんたち早く風呂行けよ。後閊えるし、何よりあの時の怪我に比べりゃ可愛いもんだし」
「…っ」
「お前性格悪りぃな!いつまで言ってんだよソレェ!!」

噛みつくように荒北は怒鳴って壁を力一杯叩く。音が響いて近くにいた箱学部員が驚いてこちらを見る。しかし何かヤバそうだと思ったらしく、逃げて行く姿が奏の視界の端に見えた。

「私は福富寿一が私の視界に入る限り言い続けると思う。私だって、多分言いたくはない。でもさ、どんなに頑張っても許せない」
「すまない……」
「謝るならさ、できるだけ私に関わらないでよ」

私だって、こんな事言いたくない。奏が絞り出した答えだった。
それから空気を読んだ東堂が荒北と福富を連れて風呂場に消えた。新開は何を思ったか奏が陣取っている長椅子の隙間に腰を下ろして小さく「ごめんな」と謝ってきた。

「ま、隼人クンが悪いワケじゃないですし?」
「寿一がさ、ずっと気にしてるから奏ちゃんと仲良くできたらなって思って」
「あれ?スルー?」
「ん?あ!隼人くんて呼んでくれた?今」
「そんな仲間思いの隼人クンに大サービス。私はね、福富寿一が私を見ているあの責めてほしいって目が嫌でさー」
「………」
「まあ本人も嫌いなんですけどね」
「朱堂さーん!」
「おー寒咲…」

なんか面倒だから風呂行け。と新開をつついて逃げろと促す。新開を見ると、確かに「なんで一緒に居るのか」と問いただされそうな面々だ。奏のいうカンザキという女子だけではなく、総北が何人か一緒。奏に新開は「じゃあ」と言って風呂に向かった。

「なんやお局さん風呂場でこけるとかコントみたいな人やな」
「金城さんか田所さん呼んだ方が…」
「後輩のこの格差!」

やいのやいの言いながら寒咲から救急箱を受け取って自分で手当てを始める。
それをまじまじと覗き込んでくる今泉と鳴子。ちなみに寒咲は先ほどは自分だけの荷物を部屋に置いてきたが二人に奏を任せて今度は奏の荷物を運んでいる。奏は断ったのだが、「怪我人でしょ!」と言われてしまった。

「吐くなよ」
「大丈夫です」
「お局さんが泣かんか見とりますわ」
「それは心強いことで」

巻いていたタオルをはがしてテキパキと奏がしていると、だんだんと顔色の悪くなる二人。そういえば小野田は?と奏が聞くと「ボク怪我とか…駄目…」と杉元と一緒に部屋で勉強しているらしい。奏からしてみればそれが正解だろう、この二人を見る限り。

「トイレあっちな」
「つうか、お局さん平気な顔し過ぎですわ…グロ」
「女は痛みに強いの。あー痛い痛い。結構パックリいってたね」

力のない声で今泉が「医者は…」と聞いてきたので奏は普通に「そこまでじゃない」と言っておく。縫うまで深くないし切り口が大きいワケでもない。さすがに明日は大人しくしておいた方がよさそうだ、という奏の考えでしかないが。酷いようなら明日病院かなと奏はぼんやりと考える。

「はいお終ーい。あ、ビニール袋ない。どっちか持ってない?」
「なんに使うんですか?」
「この汚れたタオル類を入れる為。ないか、普通」
「ワイが貰ってきます、フロント行けば人おるやろ」
「おーすまん。今泉は顔色悪いぞトイレに行け」
「ここでゲロんなよ、スカシ!」

元気な鳴子とは反対に今泉は元気がない。人の怪我を喜んで見て元気な方がおかしい。鳴子は早々に見るのをやめて違う方向を眺めていた。そのあたりの防衛の差が今の差なのだろうなと奏は思った。

「部屋まで戻れますか?」
「寒咲が杖持って来てくれてるからチンタラ歩けば大丈夫でしょ。1年の入浴最後だけど早めに入れよ、箱学もいるんだし」
「はい…」
「お局さん、貰ってきたで」
「ありがと」

そこに奏は丸めて汚れた部分が外から見えないようにして入れてビニール袋を結ぶ。あとは捨てるだけだ。救急箱とそのゴミ袋を持って部屋に戻るだけだ。

「よし、じゃ戻るわ」
「え、戻りますの?」
「ますの」
「ワイら風呂入るまで遊びましょうや」
「残念だがワイは受験生やねん、勉強させてつかぁさい」

二人が「え?」という顔をしたのを奏は見逃さなかった。



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