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 別の話はしなくていい

「え、ヤダ」
「えー」

そうだよな。と総北の面々は頷いた。奏が喜んでやっている二人乗りは自校である総北メンバーだから楽しいのであって、そうではない箱学の人間と二人乗りをしてもまったく楽しくはないだろう。

「私貴方と二人乗りするんだったら巻島と二人乗りするか逆に鳴子か青八木を前にして私が乗るわ」
「そこは譲れんわ、漕ぐのが男のロマンってやつや」

時間も時間ということで、奏との二人乗りの順番待ちは午後の練習が終わってから、もしくは明日という事で決着がつこうとしたときに新開が「オレも仲間に入れて」とやってきた。当然奏は新開の申し出に潔く断りを入れていた。

「えーっと、朱堂奏ちゃん?」
「馴れ馴れしい」
「オレ新開隼人」
「箱学4番でしょ、その位知ってますけど」
「じゃあ隼人くんって」
「スパッとお断りだ」
「そちらさん、お局さんに失礼やで」
「鳴子、お前も大概失礼なんだぞわかってんのか」

ペチッと奏の手が鳴子の頭を軽く叩く。奏はそれから新開を無視するように鳴子からロードを引っ張って午後からの練習に邪魔にならないところに運ぶ。といっても総北が置かせてもらっている置き場でしかないが。午後からの練習はマネージャーとしての仕事、というよりも後輩の寒咲の手伝いと言った方が良いだろう。
奏の予想外の出来事ではあったが、それなりに良い思いをさせてもらった。今度は手伝いという形で返さなければいけない。
それから午後の練習が始まり、奏は予定通りに寒咲と共にマネージャー業に励む。コースを同じく使っている箱学の例の4番が何かと手を振ったりしてきたが、奏は無視するし仲間の2番に何か言われていたので注意されていたのだろう。
無事に午後の練習が終わり、今泉が奏のところにやってきた。

「お疲れ。どうした?」
「朱堂さん、次オレの番です」
「あ、朱堂さんと二人乗りってやつ?今泉くんもするんだね!」
「あー、それか。よく覚えてたね、疲れてるのにやってくれるの?」
「はい」

息が少し上がっている今泉に奏はうんうんと頷く。では自分のロードを持ってくるねと奏は練習前に置いたロードを取りに行く。
奏からしてみれば、今泉の申し出には驚きと嬉しさが行きかうものだ。今泉の性格を奏から見れば、いえば少し扱いにくい部類だと思っていた。少しだけ懐いているようにも見えるが、一緒に走ったことも、走りを見せたこともない後輩だ。
昼に乗れたので今回も少し挑戦してみる。思ったよりもスムーズに乗ることができたので、今までの苦労はなんだっのかと奏は少し悩んだ。

「お待たせーって、いっぱいいる」
「お局さん、まだワイ終わっとらん!」
「ヤダよ、恐い。よって次今泉」
「はい」
「お局さんの意気地なし!根性なし!」
「防衛本能じゃボケ」

ロードを今泉に引渡し、二人乗りを始める体勢をとると金城が携帯を取り出してパシャリと音を立てる。どうやら写真を撮られたらしい。

「リア充ごっこ、だろ?」
「いいねそれ!今泉、私のでも撮ってもいい?」
「え、あ…はい。どうぞ」
「おっし。金城、これでもよろしく」

奏はそれこそノリで「イエーイ」と両手でピースする。今泉は特に笑顔になることもなくいつもの顔のままだ。
金城に撮影してもらい、奏はそのまま今泉とコースに出る。

「なんや、ワイかてできるのに」
「朱堂は鳴子に何かあったら大変だと思って嫌がっていたんだろう」
「いや、あの朱堂の目は本当に恐いって目だったぜ金城」
「お局さんの度胸なし!」
「鳴子くん…」

小さくなって、カーブに入って姿が消えた二人。どのコースに入ったかはわからないが、恐らくはショートコースだろうと思われる。練習終わりであり、今泉も疲れているはずだ。変な対抗意識がなければ短時間で終わり、手嶋に対抗意識があれば少し時間がかかるだろう。

「あれ?これ奏ちゃん待ちの?」
「せやで」
「オレも並ぼ。寿一も並ぶ?」
「お局さん嫌がっとったやん」
「いや…」
「やめろよ、朱堂が可哀想だろ」
「田所」

いいんだ。と言って新開に誘われた福富は後から来た荒北と共に帰って行った。
ついでに東堂も来たが、巻島に追い立てられるようにして追い出され行く。

「やっぱり奏ちゃん寿一駄目かー」
「仕方ないさ、福富のしたことは朱堂にとって消えないからな」
「つうか金城が異常っショ」
「まったくだ」
「寿一を奏ちゃんと仲直りさせたいなって思って」
「無理っショ」
「無理だな」
「朱堂は駄目だろうな」

綺麗にそれは不可能だと言われ、新開は苦笑いをこぼす。それから今泉と奏が戻ってくるまでしばらく話ながら待つ。
何処に進学するのか、これからの部活はどうだとか。

「帰ってきたな」
「朱堂すげぇいい笑顔しててキモいっショ」
「えー、そう?」

「すっごい楽しかった!今泉可愛いわ」
「可愛くありません、やめてください」
「今泉くん、朱堂さんと何があったの?」
「あのね」
「やめてください。いいか小野田、この話題は今後一切触れるな、いいな」
「なんや、お局さんとなんかあったんか」
「アズキ、今泉超可愛い」
「朱堂さん!」
「今泉、お前本当可愛いな」

ニヤニヤしている奏に今泉は恥ずかしそうに怒っている。二人の間に何があったのかは当事者二人以外は知らないが、とりあえず奏は上機嫌だ。ついでに今泉が少しブスッとしているが、そこは気にしなくていいだろう。

「朱堂さん、あの…次、ボクなんですけど……」
「小野田かー…行けそう?」
「が、頑張ります!」
「よし行こうか」

和やかに始まった小野田と奏の二人乗りだが、案の定というより想定内として10メートルほどで終わった。
必死に謝る小野田に奏は「気持ちだけで嬉しいよ」と笑って肩を叩いて慰める。少々小柄な小野田や鳴子、そして青八木には無理とは言わないが難しい所があると奏もわかっている。

「次は田所?」
「いや、オレ」
「げ!ヤダよ巻島ののぼり恐いし平地でも恐い」
「はぁ!?んだと!?」
「なら巻島は小野田と行けばいい」
「え!」
「なんで小野田となんだよ…」
「だから私は恐いって言ってるでしょうよ」
「まあ朱堂」
「そんなこと言わずに巻島と行けよ」

珍しく巻島が自分からやるっていたんだぞ。と金城と田所がバラすと巻島が奇怪な奇声を発した。



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