弱虫 | ナノ
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

 終わってしまえば容易いのだ

「金城ー田所ー二人乗りしてリア充ごっこしようぜ」
「どうしてオレ誘わないんだよ」
「だって巻島の登り方恐いんだもん、落とされそうで」

昼休みの事だ。
午前中は古賀と一周コースに出て、なんとなくは満足した。なんとなくでしかないが、それでも自分でペダルを踏めたことは嬉しい。でももう前の様には走れないと言う事もわかってしまった。また練習すればどうにかなるかもしれないが、奏はこれからロードを続けようとは思っていない。

「朱堂、二人乗りは危険で道路交通法で禁止されている」
「公道の場合でしょ。私有地なら問題ないし、私のロードでやればいいし」
「まさかここでやるつもりか?」
「イエース。古賀とはもうしてきた」

て言っても、10メートルくらいだけど。と奏は笑う。
ロードの二人乗りというと、一人がサドルに座って普通に漕ぎ、もう一人はその前のボディの方に座ってハンドルの中側に手を添えるヤツだろう。
よく古賀が付き合ってくれたなと思った3人は、すぐに「まあ古賀だしな」と納得した。

「朱堂さん」
「ん?どうした青八木と手嶋」
「オレ達も」
「奏さんと二人乗りしたいです」
「え、本当!?やだ嬉しい、やろうやろう」

善は急げだ!と言わんばかりに奏は二人を引き連れ外に行く。それを三人はなんとなく見送る。

「あれ?お局さんどこや?」
「鳴子、朱堂をお局と言うのはいい加減止めろ。朱堂なら今手嶋と青八木と一緒に外に行ったぞ」
「なんか用事か?」
「先越された!小野田くんスカシ!お局さんもう二人に持って行かれた!」

バタバタと来たと思えば、どうやら2年の二人と同じ目的らしい。
先を越されたと言う事は、古賀が1年にも話したのだろう。そこに杉元が居ないのはさすがに遠慮したというか、辞退したのだろう。
金城に奏の事を聞いて1年の3人はまたバタバタと出ていく。

「朱堂、意外と後輩に好かれてるんだな…オレとは大違いっショ」
「女子選手だったしな」
「何かと面倒見てたからな、特にひとつ下は」
「………オレ、朱堂の誘いに乗ってくるっショ」
「巻島、お前は誘われてないぞ」
「いいんだよ!こっちが…誘うっショ」

ノロノロと出口に向かう巻島を見て、それから顔を見合わせる金城と田所。
金城も田所も巻島も、もう奏がロードに乗ることがないであろうという予想がついている。あれだけ乗っていなかったロードに、今日やっと乗れたと喜んでいた奏だ。一緒にはもう走れないけど嬉しい。それが奏の言葉だった。
もう一緒に走れない。それは選手ではない、もうレースはない、もう走る気はない。それをひっくるめての言葉だった。
もう一度顔を見合わせて、「オレ達も行くか」と巻島の後に続いた。


「朱堂はどうした?」
「今、手嶋とコースに」
「コース走ってんのか!?」
「朱堂さん、監督と管理人さんに許可取ったって。一番短いコース」

言えばこのコースは総北と箱学の貸切状態。箱学に迷惑がかからなければいいという監督の意向なのか、それとももう大人でしょ?と言う事なのか。主将である金城はどうしたものかと頭を抱える。

「次、オレ…」
「無口センパイの次ワイやで!」
「その次はオレです」
「次、ボクです…」
「順番待ちか」
「じゃあ小野田の次は巻島で、その次どうする」
「お前行けよ金城」
「トリは田所か」
「空気読めや、トリは主将って決まっとるやろ」

別に順番について文句があるわけではないので鳴子の提案に二人で頷く。順番を考えるもの面倒だし、この順だからどうと言う事はない。
それから暫く待っていると、遠くから手嶋と奏が見えてきた。

「青八木聞いてよ。手嶋中間距離コース行ったんだよ」
「いいじゃないですか、朱堂さんだって楽しんでたじゃないですか」
「そうだけどさー。じゃあ次青八木行こうか」
「そん次ワイやでお局さん!」
「お、鳴子もかーよしよし」
「次オレです」
「その次は…ボク、いいですか」
「わーちょっと私モテ期なの?私の後輩が可愛い」

奏を降ろして、手嶋はロードを青八木に引き渡す。手嶋に比べて青八木はどちらかと言えば小柄の部類。奏は乗れるかなと言いながら先ほどと同じように座る。

「青八木、大丈夫?行けそう?」
「大丈夫…です」
「一番短いコース、行ける?」
「行けます…!」

フラフラとしながら進むも、奏の体格との差があまりないのでバランスがとりにくければ、また前も見づらいのだろう。あたふたしているのが奏でなくともわかる。それに比べ、古賀は背が高く体格もいいし、手嶋はまだ背が高い。それでバランスがとれていたと言える。奏が青八木に「無理ならもういいんだよ」と言うが、頭を振って拒否している。

「フラフラしてんな、無口センパイ」
「ありゃ一周行けるのか?おい鳴子、お前辞退しろよ」
「なんやて!」
「ボク行けるかな…」
「朱堂重いからな」
「誰が重いだって!!聞こえてんぞ巻島!!」

無理だと青八木というより奏が判断して歩いて戻っている途中だったらしい。ロードを物悲しそうに青八木が引いて奏が巻島も失言腹を立てている。

「青八木、ありがとねー。巻島、お前後で覚えておけよ」
「次ワイ!」
「…アズキ、お前大丈夫か?青八木見てただろ?先輩そんなに気を使ってもらわなくてもいいんだぞ?」
「何言うとんねん!やってみなけりゃわからんわ」

言わなくても想像できるぞ。と鳴子以外が思ったであろう。青八木でもの駄目だったのだ。まだスピードに乗ってしまえばいいのだろうが、そこまで加速するには二人乗りと言う普段しないことになれなければいけない。それまで行く前に青八木ではなく奏が「やめようか」とストップをだした。

「朱堂さん…オレ、できます」
「気持ちだけ貰っとくよ、青八木。正直フラフラしてて私が恐い」
「す、すみませ…」
「ごめんなー青八木、先輩度胸がなくて」
「よっしゃ、行くでお局さん」
「……私がストップ言ったらちゃんと止まれよ」

青八木から鳴子に引き渡されたロード。恨めしい顔をした青八木に奏は「ごめんな」と謝る。
鳴子のスタンバイが出来て、奏は不安そうにしながらも二人乗りを始める。やはり青八木と同じでフラフラして奏も周りも大丈夫かと心配する。

「アズキ…お前本当大丈夫?青八木以上になんか不安なんだけど…」
「まかせ!」

「そろそろ朱堂がストップを出す頃だな」
「あ、鳴子が騒いでる」
「朱堂さんも騒ぎ始めた」

「アズキ、もう止めよう。私が恐い!」
「お局さんの度胸なし!意気地なし!!まだ行ける!」
「ぎゃああ!!アズキ!」

「お、朱堂が我慢できずに足だして抵抗してるっショ」
「あいつ無理矢理行くつもりか」

「ぐぎぎぎぎっ!お局さん足ぃ上げぇ!!」
「嫌だ!!アズキ、ストップだって言ってんだろ!!」


「仲良いよな、朱堂と豆粒」
「朱堂は基本誰とも仲良くなれる感じだからな」

ギャアギャア言ってなかなか進まない。というか奏が進ませようとさせていない。青八木であれば奏の言うことを素直に聞いたのですんなり戻ってきたが、あの我の強い鳴子が言う事を聞くはずがない。何を言っているかは聞き取れないが、とりあえず揉めている。

「オレだって…朱堂さん乗せられる」
「朱堂が恐いっていうのを乗せたら駄目だろ」
「純太ばっかりずるい…。田所さんだって、きっと朱堂さん乗せられる」
「青八木はこれからだろ」

そんな話をしている間も奏と鳴子の言い合いは収まる気配がない。
ズリズリ、ズズズズとペダル踏み込む鳴子に奏は渾身の力で抵抗している。どちらか諦めればいいものの、二人の性格上それが上手くいかないのだろう。さすがに午後の練習時間に迫るので続きは明日か午後の練習が終わってからにするかと奏のいないところで話し合いが始まっている。

「やあ、何してるの?こんなところで固まって総北は」
「よう新開。うちの部員で二人乗りして遊んでたんだけどよ、あの二人で今止まってんだよ」
「へぇ」
「アイツ朱堂っていうんだけどよ、あいつ乗せて二人乗りする順番待ってるけど続きは次だなって話してたんだよ」
「え、じゃあここ並べばあの子と二人乗りできるの?オレもいい?」

それは朱堂が多分嫌がるから駄目だろう。
とその場にいた全員が思った。



prevnext