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 花に言葉

※卒業式後ねつ造



「朱堂さーん」

卒業式が終わって、教室に戻り、担任と副任の先生からの祝辞をもらってからの放課。友達と「卒業おめでとー!」と卒業証書を片手に撮影して、卒業アルバムに寄せ書きをしたりしていた。卒業ということもあって、部活に所属していたクラスメートは後輩が呼びに来たりしてポツリポツリと姿を消している。そんな時に友達と写真を撮り合っていた私を呼ぶ後輩の声。クラスの「あー真波くんだ」と真波ファンが甘い声をだしている。

「朱堂奏さーん」
「はーい。なんでしょうか真波くん」
「えーっと、お迎えにあがりました」
「私のお迎えは真波くんかー」
「はーい、オレです」
「東堂くんのお迎えだと思ってた」
「もう行ってきました」

部内で毎年恒例の卒業生を後輩が迎えに来て部室まで案内し、そこでちょっとしたイベントがある。イベントといってもちょっとした卒業パーティーのようなもので、そこでお菓子とジュースをもらって食べる。毎年先輩一人に対して学年関係なく後輩一人が迎えに来るのが決まり。誰がどの先輩を迎えに来るかは後輩たちが決める。もちろん一人が複数の先輩を迎えにきてもいいのだが、たいていは一人、一人。複数の後輩が来てもいいのだけれど、部員の人数が人数なのでそこは控えている。

「真波くんが二人もお迎えって意外」
「東堂さんにはお世話になったし。それにだってオレ、朱堂さんも好きだし」
「ほんとう?ありがとう」
「朱堂さんのお迎え、結構な競争率だったんですよー。朱堂さんのお迎え権争奪レースになったんですよ」
「そうなんだ、うれしいなー」

同じクラスの福富くんは葦木場くんが迎えに来ていた。その時に手を振られたので振り返したら喜んでくれていたなーと思いだす。もう少し前は荒北くんと黒田くんが一緒に歩いていた。

「朱堂さん、行きましょう」
「うん、ちょっと待ってねー」

荷物を片付けている間、私の友達に囲まれてニコニコしている。第二の東堂くんと勝手に呼ばせてもらおう。東堂くんよりもクセはない…かな。あ、撮影会が始まった。

「ね、奏。部活のそれいつ終わる?」
「んー、毎年一時間くらい…?」
「じゃあ、それ終わったらいつものクレープ屋ね」
「うん、わかった。真波くん、いいよー」
「はーい」

それじゃあ皆さん。とにこやかに手を振る爽やかくん。そうか、部活中はあんまり気にしたことがなかったけど、というか東堂くんの存在で気にしてなかったけど、君そういう人だったんだね。と思いながら真波くんと一緒に歩く。そういえばなぜか知らないけど去年は主将に名指しで指名されたっけ。今でも思うけど、これ後輩が先輩をなのに…どうして私だけ指名されたんだろう。福富くんに「オレの分まで…頼む」とか言われたんだよな…。

「IHメンバーはすぐ決まったんですよ」
「葦木場くんと黒田くんは見たよ、福富くんと荒北くんと一緒だった」
「で、新開さんは泉田さんで、東堂さんはオレ」
「なんとなく予想通り」
「で、朱堂さんのはすごく揉めて。真波は東堂さん行くだろって言われたんですけど、来ちゃいました」
「……そっかー」

前に上った名前を考えると、そんな感じはした。葦木場くんや黒田くん、そして泉田くんの性格からして一人の先輩を、という考えはわかる。真波くんは意外とよくばりなのかもしれない。今まで私が知る限り、そんな後輩はいなかった。逆指名した先輩はいたけど。
最近部活はどう?とか話しながら歩けば、懐かしの部室がもうすぐそばまで迫ってる。ほんの数か月前に追い出し式があったんだよね。なんて思わず口からこぼれた。

「朱堂さんが最後なんですよ」
「真波くん欲張って二人だもんね」
「まあ、それもありますけど」

目、瞑ってください。とニコリとほほ笑む真波くん。どうやらこれが今回の趣向らしい。去年は私たちが企画を考えたんだよなーなんて思い出していると、真波くんに「早く」とせかされてしまった。片手で両目を覆って、真波くんの制服の上着をつかんで誘導してもらう。ガチャリという部室の扉が開く音がして、暖かい空気が頬を撫でる。

「部室暖かい!」
「空気壊さないでください」
「あ、ごめん。どこ立てばいい?」
「誘導しますから」

まさか真波くんに呆れられる日がこようとは。周りで笑いをこらえている部員の気配がするのは私の思い違いではないらしい。その証拠につかんでいる真波くんの上着が震えている。これ真波くんも一緒に笑ってるな、うん。
そんな真波くんに誘導されて、私の立ち位置らしいところに立たされる。

「朱堂ちゃん、部室暖かくてよかったネ」
「荒北くん…あれ、目瞑ってるの私だけ?」
「そー、朱堂ちゃんだけ。オレらは開けてるよ」
「真波の上着引っ張ってて可愛かったぞ」
「この声は…たぶん新開くん」
「たぶん!?」
「ところでさ、私はいつまで疎外感を感じていればいいの?それとも目を開けたら皆が女装してるとかそんな予想をまだしていればいいの?」
「…朱堂オレたちの女装が見たいのか?」
「ネタとしてはいけるかと」

真波くんは似合いそう。と私がつぶやくと荒北くんが盛大に吹き出した。いや、だからね、私目瞑ってるからね。そんな反応されても避ける手立てがね。と思っていると、新部長もとい新主将の泉田くんが咳払いをする。ごめんね、私まだ見えないから泉田くんに気付けなくて。

「では朱堂さん、目を開けてください」
「…!え、」

そこには大きな花束が。メッセージカードが添えられており、それには「朱堂奏さんマネージャーお疲れ様でした!」と書いてある。それはいつか、私が「マネージャーには追い出し式がない」と愚痴ったのが現実に現れたかのようだった。

「………っ」
「朱堂が無言になるとは珍しい」
「おめえは黙れよ、東堂」
「はな、たば…だ」
「これは僕ら部員と、卒業生の皆さんからです」
「えー…え、え……い、いいの?」
「追い出してやるからいいんだ。これをもらったら文句もないだろう」
「あ、ありがとう…これは、ホワイトデー以来の感動…」

泉田くんに渡されるままに受け取った花束。それは思っていた以上に重くて、それだけの思いが入っているみたいに思えた。

「げ、なに朱堂ちゃん泣いてンの!?」
「嬉しくて…」
「オレの美しさに感動したか!?」
「いや今朱堂がうれしくてっていただろ尽八」
「うあああ、みんな大好きだよー!ありがとう!」
「オレも朱堂さん好きでーす!」

真波くんの一言に私を除く部員全員の目が向いたと思う。私はその前に好きですということ言われていたので特に気にしてはいない。
この花束は後で友達に自慢してやる。たぶん笑われてしまうかもだけど、自慢だ。

それからは毎年恒例のお祝いが始まり、最後には集合写真を撮って終わった。私は追い出し式の予告通りにまたツーショット写真を撮りまくり、最後にはIHメンバーの写真を撮らせてもらった。ついでに東堂くんも。東堂くんはファンクラブの子にあげる分。



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