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 私の夏は終わったのだ

気が付けばそこは真夏の日光が照りつける道の上ではなく、真っ白な天井と消毒の匂いが蔓延する部屋。腕には点滴の管が繋がり、起き上ろうとしても体が痛んで起き上ることさえできない。
ゆっくりと呼吸をしてみても、自然とは程遠い匂いでしかなく、肺を満たす酸素さえ作られた何かの様な気がする。
冷静に考えて、ここは病院なんだろうという見当はついた。
要は私はIHの最中に何らかによって入院を余儀なくされたと言う事だろう。冷静に見えるかもしれないが、多分冷静に装っているんだと思う。
IHには魔物がとか、よく言うけど。それに私は食われてしまったに違いない。こうして体に痛みが走ると言う事は落車して体だけではく頭の打ちどころも悪かったようにも思える。今日が何月の何日かは予想がつかないが、あの暑いIHの陽射しが窓から見える太陽とは少し違う気がする。

聞けばやはり私は落車をしたらしい。らしいというのは私にその時の記憶がないからであり、結局自分の記憶がなく記録映像がないので「らしい」という表現になってしまう。
総北の選手3人が負傷とは笑えない。
私が引いていたエースの金城も負傷、後輩の古賀も負傷。なんだ総北呪われているのかと言いたい。その中での私が一番重傷だったらしく、意識が戻らなかった。他の二人は意識はずっとあったと聞いた。


「よう」
「よう金城、元気そうでなにより。一人?」
「ああ。良かったな、意識が戻って」

まあ座れよ。と壁に立てかけてあるパイプ椅子を指さす。出してやりたい気持ちは山々だが、痛みがあって動くと時間がかかってしまう。それをわかっている金城は椅子を開いてそこに座る。金城の怪我はアバラをやったと聞いていたが、私に比べたらまだ軽いんだろう。こうして動いていられるんだろう。

「……怪我の具合は」
「まだちょっとねー、定期考査までにいけるかな?って感じ」
「そうか」
「金城の方は?怪我、したんでしょ?古賀も」
「オレもまだ少し、な…古賀はまだ駄目らしい」
「そっか…ごめんね、金城。私がもっとちゃんとしてたら金城は怪我しなくて済んだかもしれなかったのに」
「朱堂のせいじゃない、それは…絶対に。朱堂の引きは、」

最高だ。と消えそうな声がする。

「朱堂は、あの時の事、覚えているのか?」
「落車の時?」
「…ああ」
「覚えてないんだよね。ぐらってしたと思ったら、病院だった」

凄いよね、私のここに刺さってたんだって。と軽く言ってみるものの、金城は当たり前の様に笑わない。
笑えない話だ。私は自分の体重以上にかかった圧で大怪我をしたんだから。でも痛みを覚えているわけではないし、今は痛いけどきっとあの時に比べたら痛くはないはず。

「金城、私は金城が私より軽傷で良かった。また、この怪我が治ったら金城のアシストになりたい。だから、早く治すよ」


その数日後、私は自宅療養となったと同時に医師から前の様にロードに乗れないだろうという診断を下された。



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