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 冬の鳥

※いつか出会った鳥の続き



「…私も一緒に居ていいの、かな?」

自分が場違いなのは重々承知している、というか、場違いなんだろうっていうのはわかる。
山岳くんからメールが来て、坂道くんと一緒に箱根までやってきた。そこまでは、まあいいとして。そこには箱学3年の東堂さんが居たというわけ。
話を聞けば、二人のどちらかに東堂さんが持っている「山神」の称号を譲るという事。

「いいよ!だってオレのモチベーションあがるもん」
「でも朱堂奏さんと言ったか、彼女はここでオレと二人の勝負が終わるのを待っている待機組だがな」
「えー!?」
「彼女ロードがないだろう」
「あ、そっか。東堂さん貸してください」
「馬鹿者」

坂道くんの様にロードが乗れて、山が得意ならわかるけど…私には到底無理な話。通学のママチャリでさえ息を切らせて学校まで行っているんだから。
困っていると、隣の坂道くんも困っているのか、目が合うと一緒に困ったような笑いが出る。

「でも奏ちゃん、その恰好寒くない?」
「ちょっと寒いけど、焚火に当たらせてもらうから多分大丈夫じゃないかな」
「ネックウォーマー貸そう?」
「山岳くんが寒くて風邪ひいたら箱学の人に恨まれちゃうから大丈夫だよ」
「手袋は?」
「持ってる」
「真波…お前普段からその位気をまわせ」

やたらと私を心配してくる山岳くんを東堂さんが睨んてくる。私よりちょっと…でもないけど身長が高いくらいでお兄さん気取りか。可愛いぞ山岳くん。
と、そんなことを考えて我に返る。違う違う、今はそんなことしているんじゃない。

「東堂さん、奏ちゃん寒さに弱いから暖かくしてあげてくださいね。すぐ熱出しちゃうんで」
「…ぐ、反論できないこのもどかしさ」
「奏ちゃん風邪ひきやすいもんね…」
「ああわかった。冷えないよう善処する。だから二人は早く行け」

「奏ちゃーん、具合悪くなったら東堂さんにすぐ言うんだよー」と言いながら坂道くんと自転車に乗って小さくなる山岳くん。なんていうか恥ずかしい。最近…というには少しだけ時間が経っているけど、小さい時以来の再会だけど、なんていうか恥ずかしい。

「……あの、なんていうか、すみません」
「なにがだ?むしろこちらこそすまん。体があまり丈夫でないとは知らなくてな…」
「でも昔に比べたら大丈夫です、すみません」
「何か温かい飲み物でもご馳走しよう。自販機でしかないが、何がいいだろう?ココアかコーンポタージュ、紅茶は好きか?」
「あ、いや…そんな申し訳ないです」
「ははは、気にすることはない。ここで断られてはオレの男が下がるというものだ」

東堂さんに火の番を頼むと言われて、焚火に当たりながら東堂さんが向かった方向を見たり、二人が消えた方を見たり。一人の時間をなんとなく潰す。
東堂さんの事はよく知らないけど、巻島さんと仲の良い坂道くん経由から聞いた話程度。でも、それでも凄い人っていうのは知ってる。あの巻島さんと勝負して勝った人だ。あと女子にキャーキャー言われて、東堂「様」って言われてる。うちの学校で言うと今泉くんみたいな感じなのかな。
私は東堂さんか今泉くんかと聞かれれば、同じ学校っていう理由もあるかも知れないけど今泉くんかな。

それから東堂さんからココアをいただいて、二人で焚火に当たりながら適当な話をする。
というか、東堂さんの話を聞いたり、巻島さんの事を聞かれたんだけど。
東堂さんは巻島さんとは違って、話していて面白い。巻島さんにはちょっと失礼な言い方なので、この事は私だけの秘密だ。東堂さんはどちらかと言えば話慣れているという感じで、聞きやすいのだ。巻島さんは話が苦手なのか、どちらかと言えば聞き役の方だったし。

「お」
「え?」
「二人が戻ってきたぞ」
「東堂さんはどっちが勝ったと思います?」
「さあ、どうだろうな」

寒いので焚火に当たりながら出迎える。
二人とも寒いので頬とおでこと鼻が赤い。雪降ってるし、それは仕方ないか。

「おかえ」
「奏ちゃん大丈夫?寒くない?風邪ひいてない?熱は!?」
「おい真波、朱堂さんの頬をムギューとしながら聞いては朱堂さんが喋れまい。その前にオレの話を聞け!!」
「奏ちゃん!真波くん!?」

山岳くんの冷たい手、と言ってもグローブしているんだけど。その手に挟まれた私の両頬は見るも無残に潰されているんだと思う。それで色々聞いてくる山岳くんは少し鬼畜ではないだろうか。私喋れないし、ないより頬が冷たい痛い。

「奏ちゃんほっぺ暖かいね」
「……で、勝負の結果は」

あ、東堂さん私を見捨てた!
山岳くんは山岳くんで私の頬をムニムニしながら暖を取っているし、坂道くんに関してはもう私に「ごめんね」と口パクで謝ってきている。
うん、知ってた。私は山岳くんという人間の犠牲になっているってこと。
結局私は山岳くんのおもちゃになりながら東堂さんの話を聞くことに。
結果としては最後まで勝負がつかずに次のIHに勝負がお預けになったと言う事だ。

「ま、真波くん…奏ちゃん、苦しそうだよ?」
「え?あ、本当だ。大丈夫?」
「顔が冷たくなった…」
「オレの手暖かくなったよ」
「熱が取られて寒い!」
「熱、返せるかな…」

自分の両手を見て、それから私の頬にまた手を当てようと伸ばそうとする山岳くんに私は構え、その姿勢のまま東堂さんの後ろに隠れる。さすがに先輩という盾があれば追ってこないだろうという私の安易な考えだ。

「東堂さん、邪魔」
「んな!?大体な、真波。朱堂さんは嫌がっているのだ、やめるのが男だ」
「えー?」
「うん、多分奏ちゃん嫌がってるよ…」
「…本当?」
「うむ!私は嫌がってます!普通私で暖とらないでしょ!焚火に当たるべきだよ」

あと勝手に顔触るの禁止!と言えば山岳くんは「えー」と抗議の声。そんな声私に通用すると思ってか!私はカイロじゃないんだぞ!




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