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 いつか出会った鳥

※Not箱学マネ



「…山岳、くん?」
「…え、あ!わー!奏ちゃん!!久しぶり、元気だった?」

ボクの幼馴染である朱堂奏さんに飛びついた真波くん。どうやら二人は知り合いらしいけど、どういうことだろう。
ボクはただ、奏ちゃんが困ったように笑いながら、真波くんにされるがままになっている奏ちゃんを傍観することしかできない。

「えー…っと?」
「どうして坂道くんと一緒にいるの?奏ちゃんと知り合い?」
「坂道くんとは、引っ越してからのお友達っていうか、幼馴染っていうか。同じ高校で、同じ部活なんだよ。あとね、ちょっと放してほしいな…」
「えー」
「ま、真波くんっ」

他の人見てるし…とボクが慌てると、少し不満そうに奏ちゃんを解放してくれた。
奏ちゃんは同じ部活と言っても、マネージャーの方で総北らしい恰好はしてない。らしい、というのはジャージの事で、今来ている服はどちらかと言えば私服。首からかけてあるプレートが総北関係者っていうのがわかる唯一のモノでしかない。パッと見普通の観戦者に近いから真波くんの言うのも…ちょっと、わかる、かな。

「真波くんと奏ちゃんはお友達なの?」
「入院友達?」
「小さい頃体弱くて、よく入院してたんだ。その病院で山岳くんと友達になって。よく病院内で遊んだよね」
「懐かしいなー。今は元気なの?」
「元気だよ。山岳くんは箱学のレギュラーなんでしょ?私より元気だね」

二人で盛り上がって凄く楽しそうで羨ましい反面、別にここにいて悪いわけじゃないんだろうけど…なんだか居心地が悪い。
真波くんも奏ちゃんもいい人なのはわかってる。でも、なんていうか…こう、二人の仲の良さっていうのかな…。ここにボクが居ると邪魔なんじゃないかって思えてくる。

「昔は私と同じくらいの身長だったのに…」
「あはは。昔は奏ちゃんガリガリだったよね」
「今はデブってこと!?酷い!」
「えー、女の子らしくて可愛いよ?」
「褒めてない!」

あ、あとね…奏ちゃん。
周りの女の人の視線が…ちょっと恐いよ?気づいて…ないみたいだけど。

「奏ちゃん、そろそろ戻ろうよ。準備あるし、ね?」
「あ、うん。じゃあね、山岳くん」
「ちょっと待て。アドレスと番号!交換しよう」
「あ、うん。ちょっと待ってね…えっと、はい」

目の前でアドレス交換が行われてる…。凄いな、久しぶりに会った友達でもこうやって自然にアドレスの交換ができるなんて。きっとボクには無理だろうな…。
真波くんは奏ちゃんのアドレスを確認してから「じゃあね!」と爽やかに行ってしまった。
それからは奏ちゃんと一緒にテントの方に戻って、最終的な打ち合わせをして、ボクはボクで選手としてのスタンバイに入る。

「坂道くん、頑張ってね!」
「朱堂さん、ワイは?」
「鳴子くんも今泉くんも頑張れ!!先輩も応援してます!」

奏ちゃんも寒咲さんと同じマネージャーだけど、他にサポーターとして手嶋さんや青八木さんもいる。人数はあまり多くはないけど、交代で応援に出たりマネージャーとしての仕事をするって奏ちゃんが言ってた。それで今は奏ちゃんが応援しに来てくれているんだと思う。


「あれ?坂道くん、奏ちゃんは?」
「奏ちゃんは多分、明日の準備っていうか、今日の片付けしてるんだと思うよ。何か用事?呼んでこようか?」

IH1日目が終わって、表彰の時間。
表彰を全部見たいけど時間の関係で奏ちゃんは田所さんの部分だけを見るので、それ以外はマネージャーの仕事に従事するって言っていた。他の学校の事情は知らないけど、人数が少なめな総北なので皆が協力して色々してるんだと思う。

「ううん、忙しそうだからいいや。坂道くん奏ちゃんと幼馴染なんだね」
「うん、小さい時に奏ちゃんが近所に越してきて、それから。昔はあんまり体強くなかったみたいだけど、今じゃ元気だよ」
「冬も元気?」
「冬は…苦手みたい」
「そっか、それは変わってないんだ」

なんだか嬉しそうに笑う真波くん。
ボクは真波くんの事をあまりよく知らない。それは出会ってからそんなに時間が経ってないっていうこともある。奏ちゃんとの付き合いは、小さい頃からで、長い。
でも、それよりもこの二人には、ボクが知らない時間の共有があるんだなと思うと…なんだか、ほんの少しだけ、寂しいような気分になった。



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