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 メイクアップ?ダウン?

「…と、こんな感じで」

文化祭の部の出し物で自転車競技部はメイドカフェをすることになった。まあ文化祭なのでガチじゃないし、ネタとして楽しむのがメインだし。
男ばかりのこの部活でメイドっていうのも既にネタ。主将の寿一も少し顔をしかめたけど、学校行事ということで渋々頷いていた。
ただ女装をするのも面白くないと尽八が駄々をこねた。となると、化粧をしないといけないということになり、誰にそれを頼むかだ。勿論この部内でそんなことが出来るやつはない。いたら逆に怖い。
そこでオレが奏が女子に化粧をしていたことを思い出して引っ張ってきたってワケだ。
で、事情説明をして最初は案の定断られた。そこをなんとかなんとか頼み込んで了解してもらい、今靖友が生け贄になった。

「これが荒北だと…!?」
「………」
「なんか言えよ福チャン…」
「靖友化けたなー」
「っせ!」

奏が靖友を選んだ理由としては、顔が扱いやすいってことらしい。あと幼なじみで雑に扱えるとか。実際は尽八とオレは顔が濃い、寿一は「女装を諦めろ」と一刀両断されていた。

「まだ完成してないから動くな」
「でっ!」
「で、最後にウィッグを付けてっと」
「カラコンはしないのか?」
「眼科行って処方してもらってからね。でもそこまでしないでしょ?」
「誰が医者行くかヨ!」

綺麗にウィッグを整えて、奏がポンと靖友の頭を叩いて終わったらしい。

「まあちょいブス、愛嬌のある女子の出来上がり」
「おい今ブスって言ったか、言ったよナ」
「おっと本音が。化粧にも限界があるから仕方がない。私は全力を出し切った」
「靖友可愛いぞ」
「っせ!なら新開テメェがやれヨ!」
「似合わないに1票」
「ならオレは!?」
「薄化粧に留めるべきに1票」

寿一が立候補するまでもなく奏によって「福富くんは論外」と刺された。
でもそこで尽八が「はいそうですか」なんて納得するとは思えなかった。やっぱり案の定「荒北がそれだけ変わるんなら、オレだって!!」と靖友を立たせて、靖友が座っていた椅子に座って「次はオレだ!」と息巻いている。

「……まあいいか」
「いいんだ…なら、次オレもしたい」
「なんだこの部活、女装癖があるやつ多いな」
「オレもそれ含まれてんのかぁ?ああ?」
「いや、靖友は実験台だし」

唸っている靖友を無視して奏は尽八の顔をまじまじと見ている。何してるのかと眺めていると、尽八が「いい男だからと言ってそんなに見るな」と茶化せば奏は顔色一つ変えずに「ファンデはいらないか」と一人で納得して化粧道具の入ったポーチを探っている。

「東堂、奏にそういうのは通じないヨォ」
「靖子、もっとかわいい声でしゃべろよ」
「だぁれがヤスコだ!!」

それから靖友と同じ手順で化粧を始めるけど、段階が靖友に比べて少ない気がする。靖友にゴテゴテと塗りたくっていたわけじゃないけど、それにしても完成というか、スピードが速い。頬に色が乗り、そして唇に艶が乗る。

「まあ、こんなもんでいいんじゃないかな」
「どうだ?荒北よりも上か?」
「土台が違うんだから勝負にならないでしょう」
「おお!尽八可愛いぞ」
「そうだろう、そうだろう!」

靖友は舌打ちをして、寿一は頷いている。
確かに奏の言うとおり、靖友に比べて時間は短いし、顔のいじり方も少ない。土台が違うっていうのはそういうことらしい。
靖友よりも目がパッチリとしている尽八に余計なものはいらないし、造形的にもいいからなんだろう。

「うむ!」
「まあ東堂くん元がいいからチークとリップ程度だけどね」
「悪くない、余計なものがいらないくらいにオレは美形なのだからな!」
「だから化粧しなくていいっていったのに」
「次オレ!」
「………パス」
「なんで!?」
「新開くんの場合、下手に強調されそうだから。唇お化けになる」

言われて尽八と靖友の唇を見る。二人の唇には女の子らしい可愛い色があり、ぷるっとしている。それは奏が化粧をしているからであり、普段はそんなことはまずない、ありえない。二人に比べれば確かにオレは唇が厚いし、いえばそこがポイントになってくる。

「えー、駄目か?」
「目の印象だって悪くないんだし、化粧しない方がいいと思う。ウィッグで頑張れ」
「じゃあ寿一は」
「それこそやめてあげようか。文化祭のネタとしてならいいと思うけど」

使っていた化粧品とか道具をぬぐって、ポーチにしまう奏。
多分奏の言っていることは正しいんだと思う。女子の間では化粧の事なら奏ってくらいには名前が通っているんだし。

「あ」
「どうした?」
「化粧落とし持って来てなかった。持ってくるから待ってて」
「石鹸で落ちないのノォ?」
「もしかしたら何十回も洗えば落ちるかもだけど」
「早く持ってこいよ、おら」
「それが人にものを頼む態度か。いいのか?このまま私が戻ってこないと靖友そのメイクもままだぞ?いいのか?」
「いざとなったらドラッグストア走るからいいんダヨ」
「その恰好で?」
「…ぐ、新開とか福ちゃんが居るしィ?」
「すまんな、靖友。オレ、そいういうのわからないんだ」
「すまん荒北…」

毎回の事だけど、どうせ奏に勝てないんだから靖友は奏の言うことを聞いていればいいと思う。



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