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 テリトリーには程遠い

「あれ?銅橋くん一人?」
「…お疲れ様です朱堂さん」

お疲れ様ー。と女子特有の高い声で明るく返す。
朱堂さんは3年の女子マネで、最近はレギュラーメンバーの方のサポーターをメインに部活に参加している。でもマネージャー業が部活動なので全体を見つつ、現在はレギュラーという感じらしい。らしいというのはオレがあまりその朱堂さんと関わりがないからだ。

「…一人で掃除してるの?」
「………ああ、はい」
「他の部員は?」
「………」

あまり話した事のない先輩だ。どう返していいかがわからない。
同じ学年の真波はレギュラーになったから、関わりがあるだろうがオレにはない。
無視をするつもりはないが、黙って掃除を再開する。
そうすればたぶん、この先輩も「態度が悪い後輩だ」とか思ってどっかいくだろうという簡単な考えでだ。

「私も手伝うよ。どこまで終わった?」
「え」
「二人でやれば半分で終わるでしょ?」
「でも」
「細かいことは気にしない。大きい身体に見合わず細かいなー銅橋くん」

掃除用具ロッカーを開けて道具を探る。朱堂さんは慣れた手つきで掃除を初めるもんだからこっちが逆に困った。

「部活どう?」
「………」
「銅橋くんてスプリンターなんだっけ?凄く早いんでしょ?」
「………」
「………」
「…すんません、」
「…ん?」

どう返していいのかわかりません。と言えば、朱堂さんは「そっか」とそのまま黙って掃除の続きを始めた。
それからは二人黙ったまま掃除するが、どうも空気が重い気がする。
愛想の悪い後輩を良い奴だと思うはずがないから当然だ。昔からこのデカい図体ははみ出してばかりだし、今更どうにもならない。

「はい、お終い。二人だと半分だよね、時間」
「うっす」
「そうだ、今日料理実習でカップケーキ作ったんだけど食べる?」
「………」
「あ、もしかして甘いの駄目?」
「いや…でも、いいんすか?」
「いいんすよ。スプリンターの人よくお腹空くでしょ?寮のご飯だけじゃ足りないって新開くん言ってるから。一人で掃除していたご褒美に」

朱堂さんカバンから透明なビニールに包まれたそれを取り出して、オレにはいと手渡す。自慢じゃないが似合わないし、それにそんなものを貰えるようなことはしてない。
朱堂さんは3年のレギュラーと仲が良いんだからその誰かにやればいい。

「今度は私のお手伝いもしてもらおうかな。その時はよろしくね」
「これ、オレ貰ってもいいんですか?新開さんとか」
「いいよいいよ。新開くんクラスの女子に沢山貰ってたから。あ、もしかして手作りの駄目な人?それだったら無理しなくていいよ、ごめんね気づかなくて」
「あ、いや…いただきます」
「本当?大丈夫?無理してない?」
「…はい。朱堂さん、変な人なんすね」
「そうかなー。でもこの部員基本変人ばっかりだし…銅橋くんも変人だね」

やっぱり変だ。
朱堂さんは「ご飯もちゃんと食べるんだよ。鍵掛けるから出て」とオレを追い出して自分も外に出て鍵をかける。
一緒に鍵を返すのに付いて行こうとすると「お腹空いてるでしょ?早く食堂に行ってご飯食べる!」と追い返された。後輩だからと言って掃除を押し付けた奴らとは反対に先輩に任せなさいと背中を叩かれた。明日もし話す機会があったら、ちゃんと応えられるようにしたい。



「……今日も銅橋くん一人?」
「……」
「ようし、先輩が手伝おうではないか」

昨日と同じように朱堂さんは掃除ロッカーを開けてモップを取り出す。オレが黙っていようと関係はないらしい。ついでに言えばオレが何を言ってもやるだろうし、反対に朱堂さんと会話をしなくてもやるだろう。
二人で黙って床をモップが走る音だけがする。昨日の今日で、しかもまた一人というのはおかしいと多分気づいている。1年が掃除するのは普通の事だが、一人というのが変であり、何より部員の持ちまわりで掃除になっているのはマネージャーである朱堂さんが知らないはずがない。

「朱堂ー…って、銅橋も一緒か?」
「うん、二人で掃除してた。どうしたの新開くん」
「いや、この前の記録なんだけどさ」
「銅橋くん、ちょっとゴメンね。前回の大会の記録?」
「いや、タイムトライアルの。悪いな銅橋、朱堂借りるぞ」

壁にモップを立てかけて朱堂さんは新開さんと部室を出て行った。
別に一緒に掃除をしていたわけじゃない。勝手にやってくれていただけで、断る必要なんてないのに、やっぱり朱堂さんは変な人だ。
それからはイライラしながら掃除をする。それは朱堂さんと新開さんにではなく、オレに掃除を押し付けて帰ったアイツらに対してだ。
朱堂さんと新開さんは関係ない先輩だ。

「まだ終わってない?」
「え、ああ…」
「新開くんも道連れに掃除しようと思って」
「最近オレ達もこっちの掃除してなかったしな」
「レギュラーといえど部員なんだから掃除もしないとね」
「銅橋、どこまでやった?オレこっからでいいか?」
「そこ私がやりました」
「だから綺麗なのか!」

朱堂さんだけじゃなく新開さんも変かもしれない。



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